イントロデューシング/ケニー・バレル

   

物憂げでマイルドな音色

時々、思い出したようにケニー・バレルのギターを聴くと、「ああ、これこそジャズ・ギターなんだよなぁ」と思ってしまう。

それは、最初に聴いたジャズギターが、ケニー・バレルだったという原体験が強く影響しているのだと思う。

ポール・チェンバースの『ベース・オン・トップ』が、私が最初に買ったギター入りのアルバムだったのだが、《ディア・オールド・ストックホルム》のテーマを奏でるケニー・バレルのギターに、一発で虜になってしまった。

ジャズベースに興味を持って買ったアルバムなのに、肝心なチェンバースの演奏よりも、物憂げでマイルドな音色のケニー・バレルのギターの魅力の虜になってしまったのだ。

リーダー作から完成されたスタイル

さて、この『イントロデューシング』は、ケニー・バレルの初リーダー作だ。

彼が24歳の時のもの。

同郷のサド・ジョーンズの『デトロイト・ニューヨーク・ジャンクション』(ブルーノート)の録音から2ヵ月後の吹き込みだ。

デトロイト時代からの盟友トミー・フラナガンをピアノに配し、チェンバース、クラークといったベテランのリズム隊。さらにコンガに、キャンディド・カメロが加わるという布陣だ。

初リーダー作にして既に「完璧!」と言っても過言でないほど、洗練かつ完成されたスタイルを見出すことが出来る。

1曲目の《今こそ夢のかなう時》の、ノリの良いリズムセクション、そして流れるようなバレルのシングル・トーンを聴けば、一発で彼の魅力にはまってしまうことだろう。

バランスの良いアレンジ

このアルバムの聴きどころを3つ挙げるとすると、一つは、トミー・フラナガンのセンスの良いサポート。

二つは、コンガの参加。

三つは、バレルのセンスの良いギタースタイルになると思う。

トミー・フラナガンのピアノは、アルバム全篇通して、とても品の良いサポート、そしてソロも光っていて、ケニー・バレルの艶やかなギターをより一層際立たせている。

キャンディドのコンガは、演奏にとても良く溶けこんでいて、気持ちのよいウネリを生み出している。

《フーガとブルース》など、曲によってはコンガの抜けた演奏もあり、きちんとそのへんはアレンジのバランスが考えられていると思う。

反対に、ギターとピアノが抜け、コンガとドラムのデュオによる《リズモラマ》という曲もあり、一瞬ギタリストがリーダーのアルバムだということを忘れてしまうほどの内容だが、それはそれでスリリング、かつ楽しい演奏内容だ。

アルバムの中での良いアクセントだと思えば、それほど気になるほどのことではない。

ジャズの色気を体現

ケニー・バレルのギターの良さは、「バランス感覚」ではないかと思う。

突出し過ぎた表現はしないし(これが彼の美学なのだろう)、かといって控えめ過ぎるということも無い。

と書くと、非常に地味で印象の薄いギタリストと誤解されてしまいそうだが、決してそうでは無い。

たとえば、ブルースを弾かせても、「泥臭く」演り過ぎない。

シングル・トーンで奏でられるアドリブの組み立て方も見事だが、決してフェイクしたスタンド・プレイには走らない。

バラードでのコードプレイも、非常に繊細かつ細やかな気配りが行き届いていて、決して演奏をかき乱すことはない。

その点は、このセッションで共演しているトミー・フラナガンのピアノにも通じるセンスだと思う。

このソフトでデリケートなセンスに加えて、艶やかで、濡れた音色。

適度に色気もある。
これこそジャズに必要な色気だ、と書くと、大袈裟だろうか?

記:2002/08/08

album data

INTRODUCING (Blue Note)
- Kenny Burrell

1.This Time The Dream's On Me
2.Fugue 'N Blues
3.Takeela
4.Weaver Of Dreams
5.Deliah
6.Rhuthmorama
7.Blues For Sleeter

Kenny Burrell (g)
Tommy Flanagan (p)
Paul Chambers (b)
Kenny Clarke (ds)
Candido (conga)

1956/05/29

 - ジャズ