ジャケ買いは当たります

   

mushimegane

text:高良俊礼(Sounds Pal)

最近音楽聴いてない

「最近何を聴けばいいか分からんから、音楽聴いてないよ」と、深刻な表情でぼやきに来る人がいる。

それも1人や2人ではない。

「音楽聴いてない」という言葉は、文字通りの意味ではあるが、そこに含まれているのは「ときめきがなくなった」「楽しいことがなくなった」という、結構笑えない苦悩だ。

画期的な方法

「音楽を聴く」という人間らしい楽しみが奪われたことへの、悲痛な叫びであると思っていい。

「それならいっそ、アナタが知らない音楽を聴いてみたらどうでしょう? いや、何も無理して最新の流行を追っかける必要なんてありませんよ」と、私は事ある毎に提案して、挙げ句このコーナーのように、コラムまで書いてしまっている訳だが、提案される方にとっては、大切な身銭を切って冒険する決断は、なかなか難しい。

私も一音楽ファンとして痛いほど分かります。

そこで私は、てっとり早く好みが見つかり、かつタダで“ときめき”に巡り会うことが出来る画期的な方法を思いついた。

それが「ジャケット乱観法」だ。

ジャケット乱観法

CDショップに入り、そこに並べられているCDを、時間が許す限り手に取って10秒以上眺めてみる。

「ジャケット乱観法」の具体的なやり方はこれだけ。

その時に気を付けることは、なるべく自分の興味の対象外のコーナーを漁ること。そして必ず10秒以上眺めること。

何となく手に取って眺めたジャケットが、家へ帰ってからまったく思い出せなかったら、それはそれで結構。

家に帰ってからも何となく印象に残ったのならば、それはアナタにとって聴いてみる価値があるものである。

科学的な根拠は何もないが、コレ、結構当たる。

ボビー・ハッチャーソン ハプニングス

ボビー・ハッチャーソンの『ハプニングス』は、実は私自身が「ジャケット乱観法」を活用して購入までに至ったCDだ。

まるでセンスの良いファッション誌から切り取ってきたような、素敵なポートレイトが気になって購入したが、ヴィブラフォンとピアノの音が、幻想的な音世界を紡ぎ、それまで感じたことのなかった知的な興奮を感じさせてくれた。

その後もこの方法で入手した「当たり」は多い。そして何度も繰り返していくうちに、音楽というものが楽しくてしょうがなくなってくる。

視覚と聴覚を使うことによって、想像力が鍛えられてくるのだ。皆さんもぜひお試しあれ。

記:2014/09/08

text by

●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル

※『南海日日新聞』2008年9月29日「見て、聴いて、音楽」掲載記事を加筆修正

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