カフェモンマルトル

text:高野雲

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ジ・アフリカン・ビート/アート・ブレイキー

      2017/05/19

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ジ・アフリカン・ビートThe African Beat

一言、轟雷。

蠢くパーカッションたちのリズムのからみの中に、ときおり、ひび割れた地響きを立てて、ズドン!とかまされるブレイキーのドラムは、まさに天から垂直に降り注ぐ雷(いかずち)そのもの。

この迫力たりや並大抵のものではない。

管楽器奏者の後ろで、大口開けてニコヤカにドラムを叩くだけがブレイキーではない。

彼は、ジャズ・メッセンジャーズの親分としての顔のほか、もう一つの顔を持っていた。

アフリカン・リズムの探求者としての顔だ。

若かりし日のブレイキーは、アフリカのナイジェリアに滞在したことがある。

ここで、イスラム教に入信し、アブドゥラ・イブン・ブハイナという回教徒名を頂戴するほど、イスラム文化に入れ込んでいた彼。

帰国後のブレイキーは、現地で学んだアフリカの要素をジャズに取り入れようとした。

最初の成果が、『ホレス・シルヴァー・トリオ』に収録されているサブーとの共演、《メッセージ・フロム・ケニア》だ。

ジャズ・メッセンジャーズとしての活動の傍ら、ブレイキーは、『オージー・イン・リズム』や『ホリデイ・フォー・スキンズ』を発表するなど、アフリカン・リズムの探求を続ける。

とくに、『ホリデイ・フォー・スキンズ』は、あの『モーニン』を録音した直後の録音なだけあり、ファンキージャズの中心的人物としてしか彼を捉えていないと、彼の本質を大きく見誤ることになる。

そして、自らも最高傑作と語る決定版、『ジ・アフリカン・ビート』。これが、ブレイキーのアフリカ仕事の集大成といっても良いだろう。

前出のアルバム群よりも、よりいっそうアフリカ色が強くなったサウンドは、まさにブレイキーのアフリカへの憧憬の集大成と呼ぶにふさわしい。

複数のパーカッションが繰り出す躍動的なリズムをバックに、威勢の良いブレイキーのドラムが雷鳴のごとく炸裂する。

強烈なアフリカの匂いと、大地の鼓動を感じさせるのは、もちろん、ブレイキーのダイナミックなドラミングに負うところが大きいし、特異な楽器編成とアンサンブルの妙によるエスニックな香りがふんだんに盛り込まれていることも大きな要因の一つだ。

しかし、それだけではなく、録音技術の貢献度も大きいのではないかと思う。

つまり、実際の音色以上に迫力あるんじゃないかと思わせほど、迫力あるドラムの音が封じ込められているのだ。

まるで、録音レベルを示すメーターを振り切るかのようなオーバーレンジで録音されているに違いない、ダイナミックな録音レンジの設定が(実際、ルディ・ヴァン・ゲルダーは録音のレベルの針がレッドゾーンに触れっぱなしで録音をするらしい)、微妙にドラムの音、とくにタムタムの音を歪ませ、ビビらせ、中空を震わせ、結果的に雷鳴のようなインパクト溢れる効果をあげているのだ。

ズドン! この大地を揺るがすかのような一撃があるからこそ、時折、むしょうに『アフリカン・ビート』を聴きたくなってしまうのだ。

興味深いのは、ユセフ・ラティーフの活躍だ。

この人、いったい何者?ってぐらい、様々な楽器をこなし、しかもどの演奏もエスニックなフレヴァーに溢れているところが興味深い。

オーボエ、テナーサックス、フルートだけではなく、親指ピアノまでをも駆使して大活躍している。

特にオーボエの物憂げなロングトーンは、西洋の楽器とはとても思えないほど野性の素朴さと力強さ。まったくラティーフの多彩な表現力には恐れ入る。

パーソネルを見なければ、誰もが現地のリード奏者が参加していると勘違いするのでは?

また、カーティス・フラーが本職のトロンボーンを吹かず、ティンパニーに専念しているのは、どういう経緯なのだろう?

複数のパーカッションを根底から支えるアーマッド・アブダル・マリクのベースも素晴らしい。彼の起用は大成功だろう。

彼の父親はスーダン出身ということもあり、一種独特なベースは、そんなルーツを持つ彼ならではのフィーリングだ。

アブダル・マリクが繰り出すリフレインは、堅実にリズムの洪水を支えると共に、非常にメロディアスなところも要注目。打楽器とベースだけでも聴けてしまうほど、演奏の重要な位置を占めているのだ。

『ジ・アフリカン・ビート』には、全身の細胞がざわめき、めざめる音の洪水が封じ込められている。

自然と、身体の奥底から沸々と湧き出てくるエネルギーを実感できることだろう。

と同時に、プリミティヴかつ心地よいリズムの合間からこぼれる素朴な情感は、不思議な懐かしさもあり、意外とコタツで日本酒を飲みながら聴いてもサマになる不思議さがこのアルバムにはある。

album data

THE AFRICAN BEAT (Blue Note)
- Art Blakey And The Afro-Drum Ensemble

1.Introduction
2.Ife L'ayo
3.Obirin African
4.Love,The Mystery Of
5.Ero Ti Nr'ojeje
6.Ayiko Ayiko
7.Tobi Ilu

Art Blakey (ds,tympani,gong,telegraph drum)
Yusef Lateeff (oboe,flute,ts,cow horn,thumb piano)
Solomon G.Ilofi (vo,penny whistle,talking drum)
Chief Bey (conga,telegraph drum,double gong)
Montego Joe (bambara drum,double gong,eoboro drum,log drum)
Gravin' Masseaux (chekera,African maracas,conga)
James Ola,Folami (conga)
Robert Crowder (bata drum,conga)
Curtis Fuller (tympani)
Ahmed Abdul-Malik (b)

1962/01/24

記:2002/03/02

 - ジャズ ,