カフェモンマルトル

text:高野雲

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ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド/クリフォード・ブラウン

      2017/05/21

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Beginning & The EndBeginning & The End

トランペッター、クリフォード・ブラウンの最初の録音と最後の録音をカップリングしたアルバムということになっている。

ところが、最近判明したデータによると、このアルバム中の演奏は、「ビギニング」はそのとおりだが、どうやら「ジ・エンド」では、なかったようだ。

「最後」とされた録音は、どういういきさつで誤った日時が定着したのかは不明だが、本当の録音日は、56年6月26日ではなく、本当は55年5月31日の録音だった、とされている。

つまり、長らくクリフォード・ブラウンの死の直前の演奏とされていたのは誤りで、それどころか、死の1年近く前の演奏だったのだそうだ。

ちなみに、従来の有名な「定説」は、こうだった。
フィラデルフィアのライブハウスで、地元の名も無いミュージシャンとセッションを終えたブラウンは、その足でバド・パウエルの弟、リッチー・パウエルらの乗る車に乗り、その翌日(ブラウンの誕生日!)に郊外のターンパイクに激突して死亡した。

死亡する数時間前に演奏されていた曲が、まさに、このアルバムに収録されている《ウォーキン》、《チュニジアの夜》、《ドナ・リー》だった。
これが、長らく語り継がれていた逸話だ。

だからこそ、彼の最初と「最後」の演奏をカップリングした『ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド』というアルバムが発売されたわけだが、実際にこの演奏が行われたのは、死の1年前だとなると、アルバムのコンセプト自体が根底から崩れてしまうわけだ。

もっとも、それは最後の演奏とされていた時点での企画だから仕方がない。
仮に死の直前の演奏だったとしても、この演奏を語るにあたっては、とりたてて「生涯最後の渾身の演奏」といったキャッチを交えて語る必要もないといえる。

なぜなら、そのような言葉を借りずとも、ブラウンの演奏は相変わらず素晴らしいのだから。

特に、アルバム後半の《チュニジアの夜》と《ドナ・リー》のブラウンのトランペットは素晴らしい。

熱狂する観衆の声も聞こえるとおり、なかなかに盛り上がったライブだったということがわかる。

公式に録音された音源ではないので、音質は良いとは言えないが、それを補って余りあるのがライブの熱気と、それに煽られたかのような勢いに溢れる演奏だ。

熱狂的な中でも、クリフォード・ブラウンのトランペットは、熱気に流されることもなく、だからといって冷静沈着な無味乾燥な演奏というわけでもない。
それどころか、ひときわ力強い存在感を誇っているところが凄い。

なにより非常に音が安定しているのだ。
ときおり繰り出す早いパッセージはまったく乱れることがなく、粒の揃った力強くも美しい音色が平然と放たれているのだ。

優れた楽器のコントロール技術に加え、ジャズには必要不可欠な勢いをも忘れない熱い演奏。
クリフォード・ブラウンの魅力は、正確さと勢いの両方をバランスよく体現してしまっているところだといえる。

そのうえ彼のトランペットは、いつだって元気で明るい。

だから、聴き手は安心感と期待感を持って彼の音に耳を傾けることが出来るのだ。

ウイントン・マルサリスの『スタンダード・タイムvol.1』を聴くたびに私がいつも感じることは、今はどうだか知らないけれども、当時、これを録音したウイントンが目指していたのは、心底、クリフォード・ブラウンだったんだなぁということ。

技術面はもとより、それ以上に、ブラウンの持っていた不思議な「冷静の中の熱狂」と「熱狂の中の冷静」という、相矛盾する音に潜むマインドを奇跡的に両立させてしまったマジックを、ウイントンもなんとか我がものにしたかったに違いない。

もっとも、ウイントンの演奏を聴くと、どちらかというと、熱狂よりも冷静な肌触りのほうが勝ってしまっているが…。

自分自身は周囲の熱に浮かされることなく、逆に聴き手を熱に浮かせてしまう。

発する音は熱くて勢いに満ちているが、楽器のコントロールは勢いまかせではなく、周囲の熱狂に飲み込まれることは決してない。

そんな、もの凄いクリフォード・ブラウンというトランペッターの真髄は、このようなラフなジャムセッションを聴いたほうが、より一層浮き彫りになってくるのだ。

記:2005/03/06

album data

THE BEGINING AND THE END (CBS)
- Clifford Brown

1.I Come From Jamaica
2.Ida Red
3.Walkin'
4.Night In Tunisia
5.Donna Lee

Clifford Brown (tp)
Vance Willson (as,ts)
Eddie Lambert (g)
Duke Wells (p)
James Johnson (b)
Chris Powell (vo&per)
#1,2
1952/03/21

Clifford Brown (tp)
Ziggy Vines (ts)
Sam Dockery (ts)
Sam Dockery (p)
Ace Tisone (b)
Ellis Tollin (ds)
#3,4,5
1956/06/25
1955/05/31

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