カフェモンマルトル

text:高野雲

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ライヴ・イン・ヨーロッパ/バド・パウエル

      2017/05/21

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貴重なバド・パウエルの映像集だ。

動くパウエルが観られること自体も非常にスリリングな体験だが、なによりも、ピアノを弾いているバド・パウエルの異様、かつ威容な姿に初めて観た人は驚かれることだろう。

なにより、彼は鍵盤を見ていない。

まっすぐ中空を見据え、なにやら考え事をしているような表情で、シングルトーンをテキパキと繰り出しているのだ。

どこに焦点を定めているのか分からないパウエルの視線と、出てくる厳しい音が、まったく一致しない不思議さ。

まるで、頭の上と、指の動きが別の人格のよう。

「天才とは、天才ではない人間が理解不能な思考回路を持つ者」だとすると、パウエルは、まさしくそれにあたる。

ピアノを弾いているときの彼は、いったい何を考えているのか、考えていないのか。

普通のジャズマンは(ジャズマンじゃなくとも)、楽器を演奏する姿を視覚で捉えれば、たとえ難解な音楽であったとしても、それなりに、演奏の目論見や方向性、意図が見えてくるものだ。

実際、私も、セシル・テイラーやアート・アンサンブル・オブ・シカゴのような前衛チックな演奏は、映像から入ったために、ずいぶん彼らの表現の理解の手助けとなった。

しかし、このパウエルの演奏姿はその逆。
観れば観るほど、謎が深まってゆく。

いったい、パウエルというピアニストはなんだったのか?

はじめて映像で観たチャーリー・パーカーの演奏姿も、映画の『バード』の役者の目をつぶってサックスを吹く演技とは裏腹に、ほとんど瞬きをせず、クールな演奏姿で、おそろしく早いパーカーフレーズを繰り出していたことに新鮮な驚きがあったが、パウエルの演奏姿にはじめて目の当たりにしたときの衝撃は、それ以上だった。

パウエル・ファン必携。
音のみならず、動く彼の姿もアメイジングなのだ。

記:2008/04/25

 - ジャズ

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