省エネ奏法が生み出す歌心~ポール・チェンバースのベース - カフェモンマルトル

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ジャズと映画とプラモの日々:高野雲

省エネ奏法が生み出す歌心~ポール・チェンバースのベース

      2018/09/10

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ベース・オン・トップBass On Top

脚光を浴びていない曲で「良さ」を味わう

ポール・チェンバースの『ベース・オン・トップ』は、アルコ奏法の《イエスタデイズ》や、ケニー・バレルのギターが艶っぽい《ディア・オールド・ストックホルム》がなにかと語られがちだ。

だからというわけではないが、あまり脚光を浴びていない《ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ》や《コンフェッシン》の、低音域で伸び伸びと歌うベースにも注目してみたい。

ピチカートにも注目!

『ベース・オン・トップ』のチェンバースは、もちろんアルコのプレイも聴きどころには違いないし、共演者のバレルのギターも良いが、やはり、チェンバースのベースといえば、ピチカート奏法が最大の魅力だし、チェンバースのリーダー作なのだから、彼が普段奏でていた80%以上の奏法が生み出したサウンドにも耳を傾けないと、片手落ちになってしまう気がするからだ。

なぜ、上記2曲かというと、ご推察のとおり、ピチカートでのソロをたっぷりと楽しめるから。

チェンバースのピチカートの魅力は一にも二にも「よく歌う」という点。

そして、これはあまり語られないことだが、チェンバースは高音をあまり使わず、あくまで低音域に固執した奏法が特徴だ。

『ベース・オン・トップ』のジャケ写では、ハイポジションを押さえているチェンバースだが、じつはチェンバース、ハイポジションはあまり弾かないベーシストだ。

低めの音域から音を選択するし、低めの音域で「聴かせる音」を奏でる。

ウッドベースの弦高

再びジャケ写を見てみよう。

チェンバースのベースの弦高はかなり高い。

指の隣の弦を見てもらえば分かるとおり、指一本が弦と指板の隙間にスルリと入ってしまうほどだ。弦が高いことのメリットは、豊かなビッグトーンが得られるということ。

PA技術が現在ほど発達していなかった当時、大音量で楽器を"鳴らす"ということはベーシストにとっては至上課題だったのだ。

たとえば、オスカー・ペティフォード。

それにチャールズ・ミンガス、そして初期のレイ・ブラウン。彼らの弦高は一様に高かった。

この写真からだけでもチェンバースの生音は相当大きかったのだろうと推測される。

では、弦高の高いことによるデメリットはというと、ハイポジションになればなるほど、さらに弦高が高くなる。

つまり弾きにくくなる。

押弦する体力、というか指の強さも必要となり、同時に音程も取りにくくなる。

だから、というわけでもないが、チェンバースは端からハイポジションを弾くことを考えていなかったのではないか?

ローポジションならではの歌心

もちろん、まったく弾かないということはないし、ベースラインにおいては、かなりのハイポジションに登り詰めて、開放弦をボーンと1音鳴らしながら、再び左手を低音域にポジション移動させる奏法はチェンバースの得意技でもある。

しかし、彼にとってのハイポジションでの高音域の音は、全体から見ると、あくまでアクセント程度の役割だ。

現在でこそ高音域を縦横無尽に弾きまくるベーシストは多いが、これが録音された当時は、ハイポジションを自在に弾きまくろうなんて発想がそもそもなかったのだろう。

そのかわり、ハイポジションを放棄し、自らの守備範囲を狭めた結果、少ない選択肢の中の音を熟知することが出来た。

指板の上を細かく移動しないかわりに、現在押えているポジションの「近くの音」をうまく拾い、効果的なフレーズ作りをすることに専念した。

だから、比較的少ない労力で フレーズを組み立てることが出来る。

労力が少なければ、それだけ演奏にも余裕が生まれ、音に血肉を通わせることが出来るのだ。

ある意味、大雑把な奏法ともいえるかもしれない。

省エネ奏法ともいえる。

しかし、膨大なレコーディング量をこなしたモータウンのハウスベーシスト、ジェームス・ジェマーソンも、低めの音域で、あまりフィンガーポジションを移動させずに、素晴らしいベースラインを形成していたので、“最低限の労力で最大限の効果"を狙う奏法は、各方面からのセッションやレコーディングで引っ張りだこだった多忙なベースマンが必然的に辿り着いた結果なのかもしれない。

使う音が少ない分、自分が使う音域内での、音、音の出るポジションの位置関係は熟知していたはず。

つまり、極端な話、あまり指で押さえる場所を移動させなくても、ベースが一つのエリアでカバーしている音の数は思いのほか多いので、狭いエリアでも、そこで出せる音や、これらの音の連なる自分なりのパターンを見いだしておけば、あれこれ目移りせずに余裕を持って音を選択し、余裕を持った音を奏でることが出来るのだ。

選択肢の少なさから生み出される説得力

たくさんの材料を前にして戸惑うよりも、少ない材料をもっとも効果的に使う奏法に徹したチェンバース。

だから、一聴、低音がモコモコ唸っているだけに聴こえがちな《ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ》や《コンフェッシン》のテーマも、よく聴けばかなり朗々と歌っているフレーズだということが分かる。

一音一音に血が通っている生身の暖かさがあるのだ。

《イエスタデイズ》や《ディア・オールド・ストックホルム》のような、このアルバムの「代表曲とされている曲」のみならず、低音でのびのびと「歌う」チェンバースを楽しめる《ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ》や《コンフェッシン》などの「スキマ曲」にももっと注目してみよう。

記:2004/08/23(from ベース馬鹿見参!)

album data

BASS ON TOP (Blue Note)
- Paul Chambers

1.Yesterdays
2.You'd Be So Nice To Come Home To
3.Chasin' The Bird
4.Dear Old Stockholm
5.The Theme
6.Confessin'
7.Chamber Mates

Paul Chambers (b)
Kenny Burrell (g)
Hank Jones (p)
Art Taylor (ds)

1957/07/14

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