カフェモンマルトル

text:高野雲

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エクスプロレイションズ/ビル・エヴァンス

      2017/05/23

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エクスプロレイションズ+2Explorations

夭折の天才ベーシスト、スコット・ラファロ参加のリヴァーサイド4部作の1枚。

ほかは、『ポートレイト・イン・ジャズ』、『ワルツ・フォー・デビー』、『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』の3枚だが、もしかしたら、“リバーサイド4部作”の中ではもっとも地味な位置づけのアルバムかもしれない。

ほかの3枚は、それぞれ「このアルバムは、こうです」と一言で言えるような明確なキャラがある。

たとえば、『ポートレイト・イン・ジャズ』は、このメンバーでの初録音のアルバム。

新しいピアノトリオの形を提示してゆこうという初々しさが音にみなぎっており《降っても晴れても》《枯葉》《恋とは何でしょう》などの人気スタンダードナンバーの演奏が多い。

『ワルツ・フォー・デビー』は、いわずと知れた人気盤。エヴァンス入門の筆頭にあがるアルバムだ。

『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』は、スコット・ラファロ追悼で作られたもので、『ワルツ・フォー・デビー』と同じ日に録音されたヴィレッジヴァンガードでのライブ演奏を収録したもので、内容は『ワルツ~』と遜色ない。

では、上記3枚に比べると、地味な位置づけの『エクスプロレーションズ』というアルバムのイメージは何かというと、演奏のクオリティの高さと、曲の良さだろう。

おすすめ目玉曲は3つある。

《イスラエル》、《ナルディス》、《スイート・アンド・ラヴリー》だ。

アルバム1曲目、《イスラエル》のピリッとした緊張感は何にも代えがたい美しさで、この空気感がアルバム全体を支配するといっても過言ではない。

ポール・モチアンのドラムスも、スコット・ラファロのベースも素晴らしく、3人の一体感はトリオのサウンドの完成を暗示する。

特にモチアンのハイハット・ワークとブラシが心地よい。

テーマの部分の

♪チッ! ♪バシャッ!

辛口の金属音が、エヴァンスの精妙なピアノをさらに引き締めており、このモチアンのドラミングなくしては、《イスラエル》はここまで美しく昇華されなかったに違いない。

《ナルディス》は、マイルス・デイヴィスの作曲。

もとはといえば、マイルスがキャノンボール・アダレイに捧げた曲だが、アダレイ本人よりもビル・エヴァンスのほうがこの曲を気にいったようで、彼のキャリアの中では何度も演奏されている作品だ。

特に通称「お城のエヴァンス」と呼ばれる『ライブ・アット・モントルー』でのエキサイティングなプレイは白眉だが、その数年前に演奏されているこちらのバージョンは耽美的な美しさだ。

マル・ウォルドロンの《ファイヤー・ワルツ》や、バド・パウエルの《クレオパトラの夢》と同様、メロディックマイナー・スケールで形作られる旋律の《ナルディス》。

このようなエキゾチックなマイナー感の漂うメロディラインの曲は、アップテンポで演奏されると情熱的でエネルギッシュな香りを醸し出すが、ゆったりとしたテンポで演奏されると耽美的な妖艶さを醸し出すことが多い。

このアルバム『エクスプロレイションズ』のバージョンは、まさに後者。

沈んでゆくような耽美さと美しさだ。

テーマ直後のラファロのベースソロにうっとりする。

この耽溺しそうな音世界は、ドン・フリードマンが《サークル・ワルツ》に通ずる世界で、おそらくは、いや、確実にフリードマンは、エヴァンスの《ナルディス》を手本にしたに違いない。

儚く、沈み込んでゆくようなニュアンスがそっくりなのだ。

欲を言えば、エヴァンスのピアノソロは、もう少し長いほうが良かった。

気がつくと、いつのまにかテーマに戻っているほどの短さ。ラファロのベースに重点を置いた構成ゆえ仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが。

《スイート・アンド・ラヴリー》はテーマ処理が面白い。

オリジナルのメロディがバラけて崩れそうでいて、それでいてきちんと踏みとどまっている。

なるほど、セロニアス・モンクの愛想曲も、エヴァンスの手にかかると、このように解体再構築されるのかと興味深い。

ラファロの躍動感あるベース、ステディにシンバルを刻むモーチアンのプレイもなかなか聴きごたえがあり、このオーソドックスな部分がしっかりしているからこそ、3者対等のインタープレイに突入したときのスリリングさがより一層際立つのだろう。

もちろん他のリヴァーサイドの3枚も素晴らしいことには変わりないが、4枚の中では、『エクスプロレイションズ』がもっとも締まりのある内容ではないかと思う。

記:2009/12/05

album data

EXPLORATIONS (Riverside)
- Bill Evans

1.Israel
2.Haunted Heart
3.Beautiful Love (take 2)
4.Beautiful Love (take 1)
5.Elsa
6.Nardis
7.How Deep Is the Ocean
8.I Wish I Knew
9.Sweet And Lovely
10.The Boy Next Door

Bill Evans (p)
Scott LaFaro (b)
Paul Motian (ds)

1961/02/02

 - ジャズ , ,