カフェモンマルトル

text:高野雲

*

フラッシュバック/ドン・フリードマン

      2017/05/23

フラッシュバックFlushback

『サークル・ワルツ』とは異なるテイスト

ドン・フリードマンの代表作『サークル・ワルツ』のイメージを抱いたまま、このアルバムを聴くと、ちょっと抵抗感を感じるかもしれない。

《サークル・ワルツ》の、あの儚い感じ、とてもデリケートなタッチのピアノとは異なるフリードマンの世界が『フラッシュバック』では表出しているからだ。



sponsored link



フラッシュバック

とはいえ、フリードマン特有の「寂しげな和音の響き」は健在で、《ウェイト・ティル・ユー・シー・ハー》などは、《サークル・ワルツ》のテイストがそのままこの曲に引き継がれている。

しかし、アルバムのタイトル曲でもある《フラッシュバック》に耳を通してみると、まるで『A.R.C.』や、サークル時代のチック・コリアばりのフリーなティストの演奏だ

フリーがかった演奏が苦手な人は、今までとはガラリと異なったテイストの演奏内容に引いてしまうかもしれないが、そこをグッと我慢して聴き続ければ、ドン・フリードマンというピアニストが持つ別の顔が見えてくること請け合い。
硬質なタッチとメリハリのある演奏の展開を楽しむことが出来るはずだ。

前半では、ベースとドラムのリズムセクションを遊ばせて、その後、満を持してピアノが入ってくるという展開、そして、一通りピアノがソロを取った後にドラムソロに移行するという流れは、構成的には単純かもしれないが、なかなか楽しめる演奏だと思う。

フリージャズごっこ

この《フラッシュバック》という曲は、どちらかというと「フリージャズごっこ」をしたことのある楽器奏者のほうが、「ああ、わかる、わかる」と身を乗り出して聴く類の演奏なのかもしれない。

私のようにフリージャズもどきの「ごっこ遊び」をしたことがある人ならわかると思うのだが、ハチャメチャな演奏って、最初は楽しいんだけれども、だんだん飽きてくるものなのだ。

何を弾いても(吹いても)良いという意味では自由といえば自由なのだが、手持ちのネタが尽きてくると、だんだんと自分が弾く(吹く)内容よりも、演奏の「構成」のほうに関心を持つようになってくる。

どういうことかというと、たとえばベース・サックス・ドラムの3人が、延々と好き勝手に音を鳴らしっぱなしにしている状態は、楽しいことは楽しいのだが、次第に単調に感じてきてしまうし、意味のない騒音がひたすら続いているだけの虚しさのようなものを感じてくるからだ。

だから、ここの部分はサックスが抜けてベースとドラムだけでやってみようとか、最後は3人で滅茶苦茶に盛り上がるかわりに、その前にいったん「落とし」を入れて、意味ありげにスローテンポでやってみようとか、そういった「流れ」を演奏の中に取り入れてみたくなるのだ。

もちろん、演奏前に綿密な打ち合わせをするわけではなく、演奏中のアイコンタクトで、おおよその意図は通じることが多いし、仮に通じずに、別な意味で理解されたとしても、それはそれで「予期せぬハプニング」として楽しむことも可能なのだ。

下に張り付けた映像は、私が学生時代の時に録音されていたもの。
まさに、ベースとサックスとドラムで何の打ち合わせもなしに即興で行った「フリージャズごっこ」の音源なのだが、私がエレクトリック・ベースのネックを縦にふったり、横にふったりしているだけで、十分に「盛り上がる」「盛り下げる」「速く」「遅く」が伝わっている。

しかも、アルトサックスを吹いている後輩は、サックスをはじめたばかりで、「ドレミファソラシド」すらマトモに吹けない状態だったんだよね。
阿部薫はいっぱい聴かせていたけど(笑)。

>>SUGAR〜フリージャズごっこ

このように、ヘタっぴぃな楽器奏者たちが滅茶苦茶をやりながらも、自分たちが満足する内容にするためには、構成を考えながら演奏せざるをえないのだ。

楽器の技量は今日、明日では上達はしないけれども、演奏を面白くするのは、頭を使って一工夫するだけだから、自分たちが持っている乏しい資源をフル活用するためには、どうしても「流れ」「構成」に凝ろうという発想になってくる。

もちろん、ドン・フリードマンのトリオの面子は、学生時代の我々とは比較にならないほど優れた技量の持ち主だ。
音のセンスも優れている。

しかし、そのような彼らとて、やはり演奏の「構成」にメリハリをつけなければ、「作品」にならないと考えたのだろう。

だからこその、ドラムとベースのデュオだったり、ドラムソロを挿入したりと構成にメリハリをつけたに違いない。

ドン・フリードマンの急速調のパッセージも素晴らしいのだが、最初から最後までこればっかりだったら、演っているほうも聴いているほうも飽きてしまうだろうからね。

そんなことに思いを巡らせながらタイトルナンバーを聴いていると、とても興味深く聞こえてくる上に、また久々ニハチャメチャなジャズを演りたくなってきた。

抒情的なフリードマン・テイストも健在

もちろん、だからといって、生理的に《フラッシュバック》のような過激な演奏は体質的に受け付けないという人もいるだろう。

そのような人は、《アローン・トゥゲザー》や《ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン》のようなスタンダードナンバーを中心に聴くと良いと思う。

個人的には、フリードマンの「寂しげな和音」が醸し出す美しさを体現した《バラード・イン・Cシャープマイナー》がお勧め。

曲の収録順序は逆になってしまうけれども、《フラッシュバック》で疲れた耳を癒したい人は、《バラード・イン・Cシャープマイナー》をどうぞ。

記:2016/05/27

album data

Flashback (Riverside)
- Don Friedman

1.Alone Together
2.Ballade in C-Sharp Minor
3.Wait 'Til You See Her
4.News Blues
5.Ochre
6.How Deep Is the Ocean?
7.Flashback

Don Friedman (p)
Dick Kniss (b)
Dick Berk (ds)

1963年

関連記事

>>サークル・ワルツ/ドン・フリードマン

 - ジャズ