カフェモンマルトル

text:高野雲

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フォー・オリム/セシル・テイラー

      2017/09/24

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For OlimFor Olim

内省的な演奏

「さて、何から話しはじめようか」

まるで、その後のクライマックスを予感させる長い物語の幕開けのように、訥々と和音を打鍵するテイラー。

なかなか「本題」に入らないピアノの一音一音が融合したクラスター。

少しずつタイミングをズラし、音に強弱をつけながら、厳選された音のクラスターが放出されてゆく。

1曲目は長尺演奏《オリム》は18分弱の演奏。

たっぷりと時間をかけて、テイラーの頭の中にある物語のモチーフを小出しにしながら音のの物語が蛇行を繰り返す。

少しずつ、そう、本当に少しずつ鋭さと勢いが増してゆくピアノソロを追いかけてゆくうちに、いつしか脳内はセシル・ワールドにシンクロしてゆき、6分目あたりから訪れる微興奮により体温が上昇してゆく自分を自覚する。

だんだんとエキサイティングなテイラーに変貌を遂げてゆくが、他のアルバムの演奏で感じられる暴風雨のような凶暴さは訪れない。

どちらかというと内省的なピアノだといえる。



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山下洋輔との違い

全然タイプの違うピアニスト山下洋輔と比較しても、あまり意味が無いのかもしれないが、同じフリージャズのピアニストということで彼の演奏スタイルを遡上に載せるとすると、おそらく山下洋輔の場合は、少しずつ演奏に熱が帯びてきたら、そのまま一直線に温度上昇、クライマックスに向けて機関全速、ひたすらカタルシスに向けて全砲門を開き一斉にファイヤー!という感じに展開してゆくことだろう。

私は、フリージャズをやっていた頃の山下洋輔トリオも大愛聴しているので(特に『クレイ』や『キアズマ』)、一路クライマックスに向けての全速前進、行け行け特攻精神的な演奏も大好きだ。

迷いなく一直線にテンションをヒートアップさせてゆく山下トリオの演奏を好きになればなるほど、一筋縄ではいかないセシル・テイラーの演奏の盛り上げ方、あるいは盛り下げ方の発想の違いのようなものが分かってくるので面白い。

《フォー・オリム》の場合、クライマックスのようなクライマックスはない。

演奏開始の時の温度が「10」だとすると、「100」にまでは達せず、「40」か「50」のボルテージで演奏が突然終了してしまう。

若い頃は、この時に訪れる「宙吊り感」にストレスを感じることもあったが、年を重ねるにつれ、このほうがむしろ自然なのではないかと思える境地になってきた。

つまり、すべての演奏に「クライマックス」や「落とし前」をつけなくたって別に良いではないか?という気分。

何がなんでもゴージャス・ドカーン!なハリウッドのアクション映画と、昔のフランス映画の違いというか。

モンク流、音の配列の美学を感じる

もちろん、《オリム》は、テンションの温度が低めだからといって、テイラーは手を抜いているわけではない。

むしろ、音のインパクトに注入するエネルギーが、音の配列や間、そして演奏全体の構成を思索する方向に投入されている気がする。

この訥々とした音の配列から生み出される構築の美学は、セロニアス・モンクのソロ・ピアノ・アルバム『セロニアス・ヒムセルフ』のピアニズムに近いものを感じる。

2人ともピアノを弾く「プレイヤー」であると同時に、音の「哲人」的なムードをたたえているところが共通している上に、一回や二回聴いた程度ではとうてい辿り着くことが不可能な「滋養」が音の奥に封じ込められているところも共通している。

拍手の有無

とはいえ、このアルバム『フォー・オリム』は、思索的な演奏ばかりではない。

後半の短い演奏の中には、テイラー流の息もつかせぬ性急な展開と、後頭部をガツンと殴られるよなテンションの高い演奏もある。

さらに、《グロッソラリア》の後半、3分14秒目以降は、セシルにしては抒情的な和音の響きが何度か出現するので、ちょっと驚き。

もちろん一瞬ではあるのだが、(セシルにしては)ベタで甘い響きが突如出現するため、これはお客さんサービスなのかな?などと勘ぐってしまう。

そう、アルバムに収録されている演奏は1986年春にベルリンで催されたジャズ・フェスティヴァルの演奏なのだ。

しかし、そのわりには、後半の演奏のいくつかには拍手が入っているのだが、1曲目の《オリム》をはじめ、いくつかの曲には拍手の音が収録されていない。

もちろん、後半の短い曲は、曲と曲の切れ目が判別できないまま、次曲に進む場合もあるのだが、演奏終了後に拍手がある場合と無い場合があるのはどういうことなのだろう?

ミックスの段階でカットされてしまったのか、それともお客さんが少なかったのか(それはないと思うが)、あるいはスタジオで録音した演奏も混在しているのか。

しかし、拍手の有無は些末な問題だ。

難解なピアノであることには違いないが、テイラーのアルバムの中では、比較的、彼が繰り出すピアノの音を追いかけやすい作品の1枚といえるだろう。

おっかないジャケ写(!?)に憶することなく気楽にトライしてみよう!

記:2017/08/17

album data

FOR OLIM (Soul Note)
- Cecil Taylor

1.Olim
2.Glossalalia Part Four
3.Mirror and Water Gazing"
4.Living (Dedicated to Julian Beck)
5.For the Death
6.For the Rabbit
7.For the Water Dog
8.The Question

Cecil Taylor (p)

1986/04/09 Berlin, Germany

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