カフェモンマルトル

text:高野雲

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ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ/マイケル・マントラー

      2017/05/20

Jazz Composer's OrchestraJazz Composer's Orchestra

ジャズ喫茶のお客からの無言の意思表示

マイケル・マントラーの『ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ』には思い出がある。

学生の時に、ジャズ喫茶でアルバイトをしていた私。

通常は、夕方から深夜の閉店までの遅番だったのだが、たまたま春休みかなにかで早番をしていたときのことだ。

早番は、はっきり言ってヒマだ。

客がいない。

だから、することが無い。

次にかけるアルバムを考えるのに忙しいぐらいで、だからといって、あれこれアルバムの内容について思いをめぐらすだけで、体を動かすというわけでもない。

そんな最中、昼のたるんだ空気にいっちょ気合いを入れてやろうと思った私は、マイケル・マントラーの『ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ』をかけた。

セシル・テイラーがソリストとしてフィーチャーされている面だ。

この大地震が起きてビルが瓦解するような、とんでもない暴力的なサウンドは、大音量で「ガーッ!」と聴くと、一種、スポーツの後の爽やかさのような気分にもなるから不思議だ。

というよりも、参加している大人数の管楽器群はテイラーの圧倒的なピアノの装飾的な役割にしか過ぎないとすら感じられてしまい、聴きようによっては、セシル・テイラーのリーダー作と何ら変わらない内容とも言えるかもしれない。

セシル・テイラーが好きな人にとっては、《コミュニケーション#11-Part1》と、《コミュニケーション#11-Part2》の2曲を聴くためだけでも、このアルバムを持っている価値は大だと思う。

それはさておき、セシルのピアノ聴きたさで『ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ』をかけた私。

ところが、これをかけた途端、店に来たばかりの客がレジにやってきて、お勘定を済ませ、店を出て行ってしまった。

店にいた唯一の客だ。

40代の外回りをしているサラリーマン的な雰囲気だった。

ところが、このアルバムが終わり、次のアルバムをかけた瞬間、さっき店を出て行った客が再び店に戻ってきて、新たにコーヒーを注文した。

このタイミングの素晴らしさと、分かりやすい自己主張と、コーヒーを二杯頼む太っ腹さ(?)に私は痛く感心した。

このアルバムの片面がかかっている30分強という、どこか別な場所に行って、なにか別のことをやるにも中途半端な時間、きっと外でボーっと煙草でも吸いながら暇つぶしをしていたのだろうかと思うと、ますますその客のポリシーと、体を張った自己主張(?)には感服した。

「オレはこの店が好きなんだよ。でもね、今の選曲はよくないよなぁ~。少なくともオレの好みじゃないよ。でも、ほら、ちゃんとレコードが終わった時間ピッタリに戻ってきただろう? どうだ、このタイミング素晴らしさ?! オレはこのアルバム嫌いだけど、知らないわけじゃないのさ。それが証拠に、ほら、ジャストなタイミングで戻ってきたじゃないか。しかも、500円のコーヒーをもう一杯頼んだわけだ。どうだ、お客様の鑑だろう、はっはっはっは。オレの言いたいこと分かるよね。つ・ま・り、だ。オレが店にいる間は、このようなフリージャズを流してくれなければイイわけだ。ドゥ・ユー・アンダースターン?アー・ユー・オーライ??」

彼の無言の一連の行動から、私はこのような声をたしかに聞き取った。
(※注:私は“電波系”ではありません、念のため)

寺島靖国氏の本に、「ジャズ喫茶では、お客とカウンターの間で目に見えない無言のやり取りがある」といったことが書かれていたが、これがまさにそれだと思った。

私は彼の行動に代表されるような、ジャズマニア特有の屈折した意識やヘンな見栄と痩せ我慢のような部分が好きだったり嫌いだったりするが、自分もその気が大いにあるので、あまり人のことを言えた義理ではないが……。



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暴力的な知能犯をまとめあげるリーダーシップ

いつも、このアルバムのセシル参加の曲を聴くたびに、そのお客の顔が思い浮かぶのだが、もちろん、このアルバムは、セシル・テイラー参加の演奏だけが素晴らしいというわけではない。

他にも聴きどころがいっぱいのこのアルバム。

ラリー・コリエルの不気味なギターを味わえる《コミュニケーションズ#9》、ラズウェル・ラッドの“天然ディストーション”のかかったエグいトロンボーンを楽しめる《コミュニケーションズ#10》、ファラオ・サンダースの壮絶なフリークトーンがクローズアップされている《プレヴュー》(別名「怪獣映画」と私は呼んでいる)と、どれもが素晴らしい内容だ。

どの曲も、音の混沌具合と整理整頓のバランス具合が非常にうまく取れている。

単なる騒音では断じてない。

武装した暴力的な知能犯たちが集まった演奏というべきか。

そして、そのボスは、もちろん、マイケル・マントラー。

マフィアの親分顔負けの統率ぶりだ。

album data

THE JAZZ COMPOSERS ORCHESTRA (JCOA)
- Michael Mantler

1.Communications #8
2.Communications #9
3.Communications #10
4.Preview
5.Communications #11-Part 1
6.Communications #11-Part 2

Michael Mantler (comp,cond)
Don Cherry (cor)
Lloyd Michels,Randy Brecker,Stephen Furtado (flh)
Bob Northern,Julius Watkins (frh)
Jimmy Knepper,Roswell Rudd (tb)
Jack Jeffers (btb)
Howard Johnson (tuba)
Steve Lacy,Al Gibbons,Al Gibbons,Steve Marcus (ss)
Gene Hull,Bob Donvan,Frank Wess,Bob Donovan,Jimmy Lyons (as)
Gato Barbieri,Lew Tabackin,George Barrow,Pharoah Sanders (ts)
Charles Davis (bs)
Larry Coryell (g)
Carla Bley,Cecil Taylor (p)
Kent Carter,Ron Carter,Richard Davis,Charlie Haden,Reggie Workman,Eddie Gomez,Charlie Haden,Steve Swallow,Bob Cunningham,Charlie Haden,Reggie Johnson,Alan Silva (b)
Andrew Cyrille,Beaver Harris (ds)

track 1
1968/01/24

track 2-4
1968/05/08

track 5-6
1968/06/20 & 21

記:2003/03/29

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