カフェモンマルトル

text:高野雲

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カインド・オブ・ブルー/マイルス・デイヴィス

      2017/05/19

カインド・オブ・ブルー+1Kind Of Blue

類い稀なるアート カインド・オブ・ブルー

演奏者のフィーリングと、その場を支配するムード、そしてほんの一分の隙さえも許されないタイミングの一致が、ひと粒の結晶体に昇華された類い稀なる一枚のアート作品。それが『カインド・オブ・ブルー』だ。

私は『カインド・オブ・ブルー』は、なるべくヘッドフォンで聴くようにしている。スピーカーから放たれる音が、空気中に拡散していってしまうのは、あまりにも勿体ないと思うからだ。

この空気感は、自分の耳の中だけに密集させたい。自分の耳だけで独占したい。

そんな欲張りな思いを抱かせるアルバムは、ただの一枚、マイルスの『カインド・オブ・ブルー』だけなのだ。

また、このアルバムは、私にジャズをずっと聴き続けていこうと決心させたアルバムでもある。

ジャズのアルバムを十数枚集め、一生懸命ジャズを理解しようとしていた頃の私。

アルバムによっては、少しずつ良さが分かるようになってきたものの、いまだ心の底からジャズを好きになれる確信を持てずにいた頃。

そんな折りに購入したのが、マイルスの『カインド・オブ・ブルー』だった。

今まで購入したアルバムと同様、ただ単に、どのガイド本やどの雑誌にも「名盤だ」と紹介されていたので、そんなに名盤ならばいっちょ聴いてみるかといった程度の購入動機だった。

ただ「かいんど」「おぶ」「ぶるー」という言葉の組み合わせと響きの格好良さには惹かれるものはあったが。

真夜中に一人でヘッドフォンをし、恐る恐るCDプレイヤーの再生スイッチを押し、数秒後に現れた世界は、冗談ではなく、本当に私の周囲数メートルをほの暗い蒼色に染めた。



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蒼一色

メンバー全員が、静かに燃える情感を決して演奏表面には出すことなく、並々ならぬエネルギーと集中力の方向を、むしろ内側に向けて、深く深く静かに潜行してゆく、耽美な世界。

このストイックな美しさに「蒼」を感じてしまった。もちろん、タイトルからの先入観も多分にあるのだろうが。

《ソー・ホワット》はもちろんのこと、他の曲から醸し出るトーンも、すべて「蒼一色」に統一されているのも素晴らしい。

たとえ、二曲目のピアノが、エヴァンスとはまったくタイプの違うウイントン・ケリーに変わっていたとしても、このトーンと統一感は変わることがない。

美の結晶体のような《ブルー・イン・グリーン》に《フラメンコ・スケッチ》。

後年、何度も演奏されている《オール・ブルース》も、この初演バージョンは、他の演奏には見出すことの出来ない独特なメランコリックさと、「蒼い靄」に覆われた不思議な世界観を醸しだしている。

テンポがゆったりしているぶん躍動感が乏しいと指摘する向きもあるが(それは《ソー・ホワット》にもいえることだが)、これらの演奏ではむしろ、エネルギッシュさよりも、独特な世界観に塗り染められたムードを味わうべきだろう。

ジミー・コブ

『カインド・オブ・ブルー』に収録されているナンバーは、全曲、静謐なムードに貫かれている。

もし、この『カインド・オブ・ブルー』にダイナミックな躍動感を持ち込んだら、一体どうなってしまうのやら。

たとえば、ドラマーが、ジミー・コブの前任者のフィリー・ジョー・ジョーンズだったら……?

あくまで推測だが、このアルバムの世界のバランスが著しく崩れてしまうのではないだろうか?

最近の私は、極端なことを言ってしまえば、『カインド・オブ・ブルー』は、ジミー・コブというドラマーあっての世界だったのではと思っているぐらいなのだ。

フィリー・ジョーの後任のドラマー、ジミー・コブは、たしかにフィリー・ジョーのダイナミックなドラミングに比べると、躍動感には乏しいかもしれない。

しかし、ジャズの何から何までもが「躍動感」を必要とするわけでもないだろう。

スタティックな『カインド・オブ・ブルー』にまでも「躍動感」を持ち込んでしまうと、ひどくバランスの悪い世界になってしまうと私は思うのだが……。

躍動感のある《ソー・ホワット》や《オール・ブルース》を求めるのならば、後年のライブ・バージョンを探せば、いくらでもエネルギッシュで活力溢れる素晴らしい演奏記録が残っているので、そちらのほうに耳を傾ければ良いと思う。

リマスタリング盤

最近、ピッチが修正されたリマスタリング盤が出たので買い直した。

本当に若干だが、従来の音源は、テープの回転速度が若干速かったため、正しい速度に修正された内容となっている。

また、リマスタリングが施されているため、さらに音がより一層クリアになった。

ポール・チェンバースがベースの弦を掻きむしる指が空気を震わす音までがリアルに聴こえてくるのには驚いた。

今まで耳慣れていた『カインド・オブ・ブルー』の曲群が、さらにテンポが遅くなったため、さらに、ゆったりと深い世界に沈みこむことが出来、新たな楽しみが広がったと思う。

記:2002/05/26

album data

Kinde Of Blue (CBS)
Miles Davis

1.So What
2.Freddie Freeloader
3.Blue In Green
4.All Blues
5.Flamenco Sketches

Miles Davis(tp)
Cannonball Adderley (as)
John Coltrane(ts)
Bill Evans (p)
Wynton Kelly (p) ※2のみ
Paul Chambers (b)
Jimmy Cobb (ds)

Track 1-3 1959/03/02 Columbia 30th Studios,NY
Track 4-5 1959/04/22 Columbia 30th Studios,NY

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