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ジャズと映画とプラモの日々:高野雲

最初の《マイルストーンズ》ものほほんとして気持ち良いぞ!~マイルス、もう一つの《マイルストーンズ》

      2018/09/08

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2番目の《マイルストーンズ》

マイルス・デイヴィスは2種類の《マイルストーンズ》を作曲している。

一般的には、アルバム『マイルストーンズ』に収録されたバージョンが有名で、この曲はマイルスの代表作の1つとみなしても良いだろう。

ビル・エヴァンスやウォルター・ビショップJr.をはじめとした多くのジャズマンが取り上げている。

日本のピアニストだと海野雅威がジョージ・ムラーツとジミー・コブをリズムセクションに従えたフレッシュなトリオ演奏が印象深い。

考えてみれば、カバーしているジャズマンの楽器はピアノやギターが多いのは、モード奏法をを取り入れたごくごく初期の作品でもあるこのナンバーは、ピアノやギターのようなコード楽器を演奏するジャズマンの好奇心とチャレンジ欲をくすぐる要素があるのかもしれない。

ちなみに、ギターだとジェイミー・フィンドレーの教則本に収録されている《マイルストーンズ》が落ち着いた味わいがある。

このギター一本で奏でられる《マイルストーンズ》は、教則本のデモ演奏ゆえギターを学ぶ人が聴き取りやすく配慮なのだろう、かなり落ち着いたテンポで演奏されているが、そのぶん、コードの響きがデリケートに移り変わってゆく様をじっくりと追いかけることが出来る。
演奏は難しそうではあるが……。

マイルス自身も、このナンバーは『イン・ベルリン』や『プラグド・ニッケル』などを聴けばお分かりのとおり、ライヴでは何度も演奏しているので、お気に入りのレパートリーだったのだろう。
あるいは、どんどん演奏が高速、抽象化していく時期に繰り返し演奏されているということは、バンドのその日の調子を測るバロメーター的な素材曲にしていたのかもしれない。

もうこの時期のマイルスには、若い時に作曲した同名異曲の《マイルストーンズ》のことなど頭の中にはなかったに違いない。

最初の《マイルストーンズ》

一般的に知れ渡っている《マイルストーンズ》の前に、マイルスは21歳の頃に《マイルストーンズ》という異なるメロディの曲を書いている。

1947年の8月14日。

この日、マイルスは初めてリーダーとしてレコーディングに臨んだ。

名義は「マイルス・デイヴィス・オールスターズ」。

ピアノがジョン・ルイス。
ベースがネルソン・ボイドで、ドラムスがマックス・ローチ。

そして、なんと大先輩チャーリー・パーカーはアルトではなくテナーサックスで参加している。

初めてリーダーとして録音に臨むマイルスは、かなり張り切っていたに違いない。

《シッピン・アット・ベルズ》のように自分がよく行くアイスクリーム屋さんの店名を曲名にしたり、自分のトーン(音色)と「一里塚」を引っ掻けて《マイルストーンズ》という曲名をつけてみたりと、タイトルにも自らの足跡を刻印しようという意気込みが感じられる。

タイトルのみならず、自作曲もかなりの気合いを入れて、この日のために曲を書き、推敲を繰り返していたのだろう。

どの曲も、メロディラインの構成が緻密で、行き当たりばったり感がまるでない。

特に《マイルストーンズ》は、ビ・バップ特有のウネウネと蛇行する旋律を多用しながらも、独特な旋律のピースが印象的だ。

相似形でありながらも微妙に変化させた旋律を巧みに繰り返したり、並べ替えたりを繰り返し、あたかも異なる図形のピースを32小節という枠内にピタリと収めている。

これは、ジャズマン作曲のナンバーにありがちな「その場の勢いでなんとなく出来てしまいました」というような曲とは一線を画しており、かなり旋律を配するタイミングをこねくり回したであろうことが容易に想像がつく構成だ。

そのぶん、ちょっとイジり過ぎゆえの頭デッカチな感じ、ちょっとした小賢しさも感じなくもないし、それゆえに、小さくまとまり過ぎている感じがしなくもないが、この時点においては、初リーダー作に臨むマイルス精一杯の創意工夫の結果だったのだろう。

良くも悪くも習作レベルといっても良いのかもしれない。

しかし、演奏そのものはとてもリラックスしていて、何とものほほんとしたムードで良い感じのだ。

録音された場所は大都会・ニューヨークであるにもかかわらず、なんだか広大なアメリカの田舎道を走る車の荷台に揺られて口笛を吹いているような気分なのだ。

《マイルストーンズ》は、ジョン・ルイスのピアノソロの出だしが可愛らしく、なごんでしまう。

同様に、テナーサックスを吹くパーカーもたった8小節だけしかソロをとっていないが、これがまた肩の力が抜けたのほほんっぷりが気持ち良いのだ。

テーマの旋律は、当時のビ・バップの特徴を残しつつも、もう少しメロディアスな路線に歩み寄っているからだろう。

この気持ちの良い小品、折に触れて聴くと、なんとも和むんだよね。

テナーサックスやトロンボーンに似合う?

「2番目の《マイルストーンズ》」を演奏しているジャズマンは少なくないが、「最初の《マイルストーンズ》」を取り上げたジャズマンの演奏って聴いたことがない(今のところ)。

むしろ、他のジャズマンは「最初の《マイルストーンズ》」をどう解釈し、どう料理するのかに興味がある。

パーカーの短いテナーサックスソロから連想するに、この曲はテナーサックス奏者が余裕しゃくしゃくなブローをすると良い感じになるのではないかと思っている。
あるいは、トロンボーンがワンホーンでテーマを奏でても味わいのある演奏になるかもしれないね。

そんなことを考えながらも、自宅のライブラリーには、サヴォイの「マイルス・デイヴィス・オールスターズ」のバージョンしかないので、それを聴くしかないのだけど。

ここまで読んで「最初の《マイルストーンズ》」を聴いてみたくなった人!
チャーリー・パーカーの『コンプリート・スタジオ・レコーディングス・オン・サヴォイ・イヤーズVOL.3』や『サヴォイ・オン・マスターテイクス』に収録されているので、ぜひ聴いてみよう!

記:2018/08/16

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