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ジャズと映画と本の日々:高野雲

エロール・ガーナー・プレイズ・ミスティ/エロール・ガーナー

   

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Erroll Garner Plays Misty

豪華さテンコ盛り

エロール・ガーナーのピアノには、あらゆる要素が詰まっている。

「ビハインド・ザ・ビート」と呼ばれる、微妙に左手のバッキングのタイミングを遅らせることで生まれる独特なノリをはじめとして、ダイナミックなドライブ感、ゴージャスな和音や装飾フレーズ、右手を広げてオクターブで旋律を弾くことによってメロディラインを強調した奏法、そして時に演出過剰なくらい音量を下げてから盛り上げるという流れ、……などなど。

この人一人いれば、ピアノという楽器は、複数の人たちによってようやく形作られるエンターテインメントの世界がいとも簡単に目の前に現出してしまうのだ。

しかも、頑張ってます感や、サービスしまっせというような押し付けがましいニュアンスはなく、ごくごく自然に、様々な要素が一体化して豪華な音が放出されるのだから、聴いていて疲れることがまったくないのだ。



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高級タワマンピアノ?

ガーナーのピアノの「何でも揃っている感」は、さながら住居でいえば、床暖房、食洗機、浴室換気乾燥機、ユニットバス、システムキッチンが完備され、眺望良好なルーフバルコニーや駐車場も付属したタワーマンションのようなものだ。

これだけでも充分なのに、エロール・ガーナーという住居は、いや、ピアニストは、名盤『コンサート・バイ・ザ・シー』や、本記事で取り上げる『ミスティ』では、ベースとドラムまでご丁寧に伴奏につけている。

さながら、テレビ付きのバスルームとトイレを2部屋ずつ増設し、さらに天井の高さを2階ぶんにし、中2階にはロフトスペースが設けられた家賃が50~100万円前後の高級マンションの部屋のようだ。

もう、これでもか、これでもか、の贅沢攻撃。

ある意味、トゥ・マッチではあるが、このトゥ・マッチぶりも時には心地よいものなのだ。

強力なマイペースピアノ

演奏が基本、楽しくダイナミックで、しかも演奏によってはトゥ・マッチな感触を覚えるピアニストといえば、アート・テイタムやオスカー・ピーターソンを思い浮かべる。

しかし、テイタムの場合は、ピアノソロで音数を駆使して弾く時と、ベースやドラムなどのリズム楽器が伴奏についた場合は、じゃっかんピアノの表現を変えている。

また、オスカー・ピーターソンの場合も、トリオで演奏する場合は、ベースと自身が奏でる左手の和音の音がぶつからないように、ベーシストはピアノの鍵盤の低音側に立たせて、自分の左手を見ながらベースの音を選ばせていた(特にピーターソンはコードのルートの音を弾くことが多いため、ベーシストが自分がルートを押さえている時はそれ以外の音を選択するように指示をしていたようだ)。

つまり、音数多いゴージャスな表現をする彼らテクニシャンは、ピアノ一台で演奏する表現内容と、伴奏楽器(特にベース)との音同士の兼ね合いを考えていたことは間違いない。

しかし、ガーナーの場合は、それが希薄に感じるのだ。

ベースやドラムがいようとも、いなくても、ゴーイング・マイ・ウェイ。
ベースやドラムがいなくても、ピアノ一台だけで最高の表現が出来てしまうだけの力量を持っているガーナーにとって、ベースやドラムはいてもいなくてもどちらでも良かったのかもしれない。

それは、代表作でノリノリの演奏で観客を終始圧倒しまくる『コンサート・バイ・ザ・シー』を聴けば分かるだろう。

参考記事:コンサート・バイ・ザ・シー/エロール・ガーナー

ガーナーの左手が繰り出す強力なリズムの前には、ドラムやベースは添え物に過ぎないと思わざるをえないほど。リズムはガーナー主導だし、演奏の盛り上げ・盛り下げのコントロールも、すべてガーナーだけで行っているように聴こえる。

ベースもドラムも、ただただ親分の雄弁な音に付き従うだけで、そこには、ピアノの演奏をリズムで引っ張るという概念がないのではないだろうか。
むしろ、ピアノがベースとドラムを強引な腕力で引っ張っているのだ。

この強力なゴーイング・マイ・ウェイっぷりがあるからこそ、『コンサート・バイ・ザ・シー』は最初の1秒から最後の1秒まで、寸分たりとも退屈することが出来ない作品になっているのだろう。

ガーナーのピアノと一体化した演奏

『コンサート・バイ・ザ・シー』がガーナーを代表するライヴ盤なら、『エロール・ガーナー・プレイズ・ミスティ』は、ガーナーを代表するスタジオ録音盤だ。

この2枚が揃えば、ほぼガーナーというピアニストの全貌を網羅したことになるといっても過言ではない。

特に『ミスティ』にはガーナーを代表する名曲中の名曲《ミスティ》が収録されている。

このロマンティックな、いやロマンティック過ぎる旋律を聞いて嫌いだという人は、まず、いないのではないだろうか。

それほど、万人受けするメロディでありながらも、曲のテイストもガーナー的。
もちろん、名曲ゆえ多くのジャズマンやヴォーカリストがカバーをしているが、やはり、オリジナルの《ミスティ》を聞くと、この曲は、「ガーナーの、ガーナーによる、ガーナーのための曲」だということがよく分かる。

曲想とピアノが完全一致。
作曲者自らが弾くのだから当然といえば当然ではあるのだが、ガーナーが本質的にもつエンターテインメント性やサービス精神、そして過剰なまでのロマンティシズムが、短い演奏の中に、これでもかとまでに封じ込められているのだ。

もちろん、名曲・名演過ぎるゆえ、慣れてきたら聴く頻度は一年に数回になるかもしれない。
しかし、それでも良いではないか。
いくら良い映画だからといって、毎日は観ないのと一緒だ。

《ミスティ》に食傷気味になったら、《恋とは何でしょう?》などの名演もこのアルバムには隠れているので、そちらのほうを重点的に聴いてみよう。

記:2011/11/15

album data

MISTY (Mercury)
- Erroll Garner

1.Misty
2.Exactly Like You
3.You Are My Sunshine
4.What Is This Thing Called Love
5.Frantonality
6.Again
7.Where Or When
8.Love In Bloom
9.Through A Long And Sleepless Night
10.That Old Feeling

Erroll Garner (p)
Wyatt Ruther (b)
Eugene "Fats" Heard (ds)

1954/07/27

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 - ジャズ

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