新潟・古町。エロール・ガーナーが染みる - カフェモンマルトル

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ジャズと映画とプラモの日々:高野雲

新潟・古町。エロール・ガーナーが染みる

      2018/09/06

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新潟・古町・スワン

各駅停車を乗り継ぎ、終点の新潟駅に着いたのは、夕暮れ時。

ほとんど夜といっても良いほどの暗さだったのは、どんよりと曇った日本海の空のせいだったのかもしれない。

新潟駅の改札に私を迎えに来ていた友人。
久々の再会だ。

我々は駅前でバス乗り、鉛色の日本海を臨む万代橋を越え、新潟市の繁華街・古町へと向かった。

「北光社」に「蔓松堂」と、2つの老舗の書店で立ち読みをし、本を買った後は、古町の商店街からさほど離れていないところにあるジャズ喫茶「スワン」へ向かった。

広めで綺麗で落ち着いた店内には一人も客がいなかった。

かかっていたのは、山下洋輔の『プレイズ・ガーシュイン』の《マイ・フェイヴァリット・シングズ》だった。

>>プレイズ・ガーシュウィン/山下洋輔

「カレーセットがおトクだよ」という友人の薦めに従い、2人はカレーにコーヒーがついたカレーセットを頼んだ。
たしか、このセットは5~600円ぐらいだったと思う。
たしかに安い。おトクだ。

『コンサート・バイ・ザ・シー』を全部聴き

オーダーついでに私はエロール・ガーナーの『コンサート・バイ・ザ・シー』のA面もリクエストした。

当時の私のお気に入りのアルバムだったので、是非とも友人に聴いてもらいたかったのだ。

Concert By the SeaConcert By the Sea

ほどなくして『コンサート・バイ・ザ・シー』の1曲目、《四月の思い出》がかかった。

圧倒的にドライヴするピアノ。
まるでアップテンポのナンバーをビッグバンドのギタリストがザクザクと刻むように、空間を垂直に切り割ってゆくようなガーナーの左手が気持ちよい。

「ビハインド・ザ・ビートっていうんだ。ガーナーは(レッド)ガーランドと同じで左ききだから、左手の和音は微妙な速度調節が出来るんだよ」と私は得意気に友人相手に俄か仕込みの知識を披露した。

3曲目の《カーメル・マンボ》の左手のバッキングはさらに絶妙。
かなりのタメを効かせながらもダイナミックに和音を刻む。ノリノリだ。

すでに2人ともガーナーの圧倒的にドライブするリズムと、オクターブをストライドした右手が繰り出す輪郭のはっきりした楽しいメロディ・ラインの虜となっている。

惜しげもなくロマンチックな《枯葉》に友人は「く~っ」とため息。

たたみかけるようなアップテンポでグイグイと突き進む《イッツ・オールライト・ウィズ・ミー》では、2人とも手に挟んだタバコの存在を忘れ、気がつくと長い灰がテーブルの上に落ちそうになっていた。

「いいだろ?」
「いいね」

「マスター、すいません、もしよかったら、そのままB面もかけてもらえませんか?」

人なつっこそうなマスターは、「あいよ」とばかりにレコードをひっくり返してB面もかけてくれた。

パーカーのブルース《ナウズ・ザ・タイム》などを引用して客を湧かせる《レッド・トップ》に、A面の《枯葉》に負けず劣らずロマンティックで、さらに幻想的な要素も加わった《パリの四月》など、オイシイ演奏が盛りだくさん。

ラストのだみ声でサッチモを真似た声で「ワーサー・ザン・ルイ・アームストロング(ルイ・アームストロングほど、うまくいかなかったよ)」と、客席を爆笑させるガーナーのMCでアルバム全編が終了するころには、互いに心地よい満腹感を味わっていた。

地方都市とジャズ

これは、私が学生時代の春休みのときのお話。

春休みとはいえ、新潟はまだまだ寒く、春というにはほど遠い季節だった。
しかし、寒い新潟の暖かいジャズ喫茶で聴いたエロール・ガーナーの『コンサート・バイ・ザ・シー』体験は、とても素敵な思い出だ。

この後「スワン」を後にした我々は、古町のディスコ(たしかマハラジャがあったんだよね)へ行き、さんざん遊び明かしたその日の夜遅く、友人の家に。
そのまま私は泊めてもらった。

朝までビールやウイスキーを飲みながら語り明かし、朝に寝て、夕方に目が覚める。

そして、夕方に古町や、新潟駅近くの繁華街・万代シティに繰り出し、そのルートの中には必ず「スワン」でジャズを聴くことを組み入れていた。

こんなルーズながらも楽しい数日間を過ごした春休みの新潟ライフ。
寒かったけど楽しかった。良い思い出だ。

現在、その友人は仙台に住んでいる。

彼は昨年、マガジンランドが不定期に発行していた『ジャズ・マスターズ・マガジン』からの依頼を受けた私が、仙台のジャズスポットを取材するときにも案内役をかって出てくれた。

JAZZ MASTERS MAGAZINE VOL.3JAZZ MASTERS MAGAZINE VOL.3

考えてみれば、彼とジャズを聴きながらコーヒーや酒を飲むのは、いつも地方だ。

東京から遠く離れた地方都市で懐かしの友達と、飲み、語り、そして背後には必ずジャズが流れている。

最高の贅沢ではないか。

久々に取り出した『コンサート・バイ・ザ・シー』を聴いているうちに、また彼と地方のジャズ喫茶で語り合いたくなってきた。

上記雑誌の「仙台ジャズ エクスプレス」という記事にも書かせていただいたが、地方で聴くジャズは格別だ。
どういうわけか、東京で聴くジャズの何倍も、ジャズの音が心の襞に染み入ってくるのだ。

良いジャズを聴くと何かをせずにはいられなくなる。

どなたか忘れたが、このようなことを書いていた評論家がいたが、最近の私は、良いジャズを聴くと地方に繰り出したくなるのだ。

記:2007/03/07

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