カフェモンマルトル

text:高野雲

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アワ・マン・イン・ジャズ/ソニー・ロリンズ

      2017/05/21

Our Man In Jazz + 3 Bonus TracksOur Man In Jazz

平易で分かりやすい語り口がトレードマークの噺家(はなしか)が、時代の波にあわせようと焦り、無理して流行語を混ぜたり、ハクをつけようとばかりに、話の内容を必要以上に難解にしたりすると、このようになる。

ソニー・ロリンズの『アワ・マン・イン・ジャズ』のように。

『アワ・マン・イン・ジャズ』を発表する直前、当時のロリンズはインタビューでこう語っている。

「オーネット・コールマンを5回ぐらい聞いた。2週間前にもファイヴ・スポットで彼を聞いた。彼を非常に面白いと思い、興味を持った」(日本語版ダウン・ビート 62年12月号)

当時、賛否両論だったオーネット・コールマンにいち早く関心を示したジャズマンとしてのアンテナは、さすが。

彼のスタイルを吸収し、自分なりに表現してみようという試みも素晴らしいと思う。

今のままではイカン。常に前進してゆかなければならない。この向上心も買う。

しかし、結果は買えない。

ひとことで言ってしまえば、「らしくない」のだ。

らしくないから、つまらない。

中途半端な結果に終始している。

よその家のインテリアに感化された人が、自宅の床が畳敷きだということを忘れ、思いっきり西洋風の家具を奮発して買ったアンバランス感とでも言うべきか。

いずれにせよ、ロリンズ最大の武器であり財産でもある「歌心」を活かそうとせず、いや、むしろ、「歌心」を否定するかのようなアプローチは痛ましくもある。

自曲の《オレオ》や《ドキシー》の旋律を切り刻むロリンズ。

何もそこまで、と思うのは私だけではあるまい。

ピアノレス・カルテットという編成。

相棒にドン・チェリーをすえていることからも、さらに前出のインタビューからも分かるとおり、ロリンズは、かなりオーネット・コールマンを意識していたことが分かる。

オーネットに感化され、自分なりのオーネット的サウンドを作り上げようとしたのだろう。

試みは分かる。

しかしながら、オーネットのスタイルの表層だけを真似し、尖がった部分の雰囲気コピーに終始しているだけにしか感じないのは私だけか?

なぜならば、オーネット・コールマンというサックス奏者の持ち味も、サウンドのアグレッシヴさとは裏腹に、「自由な歌心」だからだ。

つまり出てくる内容は違えど、ロリンズもオーネットも「メロディの達人」だったのだ。

ただし、オーネットのメロディ感覚は、スタンダードの通俗的なメロディや、典型的なビ・バップ旋律とは一線を画する。

だから、彼は自分の曲をもっとも生かせるサウンドのアプローチを試みた。

それが、おそらくはロリンズが目の当たりにしたアグレッシヴなサウンドだったのだろう。

しかし、ここで大事なこと。

オーネットの演奏は、アグレッシヴさが目的のアグレッシヴさでもなければ、前衛のための前衛でもなかったということだ。

だから、出てきたサウンドの“結果”の雰囲気だけを求めても、それは本末転倒なのだ。

だから、オーネット以外のミュージシャンが、その尖ったサウンドの感触だけを求めて「前衛っぽく」演奏すると、目も当てられない結果となる。

その代表例がロリンズの『アワ・マン・イン・ジャズ』といえるのではないか。

この作品や、『イースト・ブロード・ウェイ・ラン・ダウン』などの尖った試みのアルバムを発表したロリンズだが、これらの試みが、一時の気の迷いだったということは、後の彼の活動が証明している。
結局「歌のロリンズ」に戻ったのだ。

しかも、この時期以降のロリンズは、ふっきれたかのように、自身の歌心を最優先させるかのようなスタイルに変わってきている。

そうした意味においては、『アワ・マン・イン・ジャズ』での試みは無駄ではなかったといえるかもしれない。

自分にはオーネット的なスタイルは向いていないのだな、と彼自身に気付かせた意味においても。

サックスの朝顔から、溢れ出んばかりのメロディの洪水を大量噴出させてこそロリンズなのだ。

メロディを大事にしながらも、圧倒的なサウンドで我々を圧倒する代表作『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』の演奏のほうが、同じピアノレスというフォーマットでも、『アワ・マン・イン・ジャズ』よりも数段アグレッシヴな上に聴きごたえがある。

おそらく、ヴィレッジ・ヴァンガードで演奏中のロリンズは、自分のプレイに夢中だったはずで、頭の中では、革新とか前衛といったキーワードなどは考えていなかったはずだ。

しかし、結果的には、録音から半世紀近く経った今においても聴き手に強い衝撃を与えている。

同様に、オーネットだって、「あのメロディ」も「あのスタイル」も、最初から奇をてらった作為的なものではなく、ただ単に自分の中の音世界を具現化するための手段だったに過ぎない。

このようなことからも、自分の思い描くイメージを追い求めた末に出てきたサウンドこそ最上で、その「結果」の雰囲気だけを真似たところで得られる結果は空疎なものなのだということを『アワ・マン・イン・ジャズ』は教えてくれる。

記:2005/05/08

album data

OUR MAN IN JAZZ (RCA)
- Sonny Rollins

1.Oleo
2.Dearly Beloved
3.Oleo

Sonny Rollins (ts)
Don Cherry (cor)
Bob Cranshaw (b)
Billy Higgins (ds)

1962/07/27-30 live at the Village Gate

 - ジャズ , ,