カフェモンマルトル

text:高野雲

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チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス・コンプリート・マスター・テイクス/チャーリー・パーカー

      2017/05/19

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The Complete Master TakesThe Complete Master Takes

先日、日帰りで大阪へ行って来た。

椎名林檎のバンド・オフ会なるものに参加するためだ。

椎名林檎が好きで、なおかつ彼女の曲を弾ける(歌える)人がスタジオに集まり、セッションをするというこのイベントに、私はウッドベースを担いで行った。さらに、もうすぐ3歳になる息子も連れて。

言うまでもなく、ウッドベースは重い。そして、デカい。

子供は、まだオムツが取れていない上に、こちらの"日本語"が通じないことも多く、いつも勝手なことばかりするので油断も隙もない。

重たいウッドベースと子供を担いで電車を乗り継ぎ、新幹線の車掌さんにお願いして車掌室の隣にある荷物置き場にウッドベースを預け、一人分の座席に3時間近くの間、発育だけは良いのでやけに体重の重い子供を膝の上に乗せ、一息ついたところでウンチやおしっこをしてくれるので、慌てて揺れる車内のトイレでお尻を拭いてオムツを取り替えたり、大阪に着いたら着いたで、迷路のように入り組んでいる地下鉄の駅の中をウッドベースを引きずって出口を探し求めているうちに、改札口を出ているはずなのに、いつのまにかホームに迷い込んでいたり、まだスプーンやフォークを満足に使いこなせない子供の口に、いちいち弁当のご飯やおかずを運んであげたり、窓から見える景色にいちいち「ひこーきだ!」「(山を指さして)富士山だ!富士山だ!」と、親譲りのデカイ声で反応する息子に「しーっ!静かにしろ!」と注意したりと、疲れることの連続だった。

気楽な一人旅に比べると、確実にこちらのアクションの量は3倍以上になるし、ものすごくカロリーと神経を使うので(特にウッドベースという家具のような荷物を抱えているので、置き場所の確保や、楽器を破損させないための運搬方法、入る店や一番省エネで効率の良い移動方法などの段取りを嫌が応でも考えてしまう)、痩せたい人にとってはダイエットに丁度良いと思う。

あ、今度「ウッドベース&子連れ旅ダイエット」って提唱してみようかな(←そんな奇特なこと出来る人いないって)。

しかし、それだけの思い(重い?)をして大阪まで日帰りで行くのは、そのイベントが楽しいからで、イベントで演奏している間だけは、疲れなど吹き飛んでしまう。

また、子供も椎名林檎が大好きだし、子供を連れて行くことによって場も盛りあがるので、重い思いをして行くだけの価値はあるのだ。

しかし、やっぱり家に帰ったときはグッタリとしてしまう。

急いで風呂に入り、風呂から上がったら、『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』をかけた。

缶ビールをグイッとやって、風呂に入っている間に女房が茹でておいてくれた蕎麦をズルズルとかき込んだら、あー、いい気分。

やっと一息つけた、という気持ちと、心地よい疲れが急速に全身をかけめぐってくる。

そんなシチュエーションには、『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』は本当に心地がよい。

ひらひらと、本当に鳥のように自由に中空をかけめぐるパーカーの天衣無縫なサックスに浸ってビールを呑むだけで幸せな気分になれてしまう。

『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』は、正直言って、まともな「鑑賞モード」の時は、なかなか聴く気のおきないアルバムだ。

何故かというと、ストリングスのアレンジがクサ過ぎるからだと思う。

ハープの音が演出のクサさにさらに磨きをかけているような気がして、なんだか大甘なバナナ・チョコレート・パフェに、さらにハチミツとガムシロップをかけて食べるようなゲップ感がつきまとうのだ。

しかし、疲れているときには甘いものが体に良いのと同様、先日のような状態の時は、この大味でクサいアレンジが逆に身体と心の良いマッサージになってくれるから不思議だ。

この気分、たとえてみるなら風呂の湯船に入っている時の開放感に近いのかもしれない。

ストリングスとハープのメロメロなサウンドが、心地よく全身にスッと入ってくるのだ。

そして、やっぱりパーカーのアルト・サックス。

いつもと変わらぬ、イマジネーション豊かなプレイには感心せざるを得ない。

基本的には原曲に忠実なテーマを吹いているのだが、ちょっとしたところに、パーカー流の「メロディの崩し」が入る。そして、それが気持ち良いこと、気持ちよいこと。

とくに、《ジャスト・フレンズ》の出だしが最高だ。

クサいストリングスのイントロだが、すかさず、心地よいスピード感でするすると入ってくるパーカーのアルとサックス。

この音、このフレーズ、この滑らかさは、まるで、天使が空から舞い降りてくるようだ。

パーカーが天使、というのもちょっとヘンな喩えだけど。

しかし、この下降フレーズの柔らかい音色と滑らかさは、やっぱり尋常ではない心地よさを感じる。

今日の教訓:旅の疲れに、パーカーのウィズ・ストリングス。

album data

CHRLIE PARKER WITH STRINGS COMPLETE MASTER TAKES (Verve)
- Charlie Parker

1.Just Friends
2.Everythings Happen To Me
3.April In Paris
4.Summer Time
5.I Didn't Know What Time It Was
6.If I Should Lose You
7.Dancing In The Dark
8.Out Of Nowhere
9.Laura
10.East Of The Sun
11.They Can't Take That Away From Me
12.Easy To Love
13.I'm In The Mood For Love
14.I'll Remember Apirl
15.What Is This Things Called Love
16.April In Paris
17.Repition
18.Easy To Love
19.Rocker

track 1~6
Charlie Parker (as)
Stan Freeman (p)
Ray Brown (b)
Buddy Rich (ds)
Mitch Miller (oboe,english horn)
Blonislaw Gimpel,Max Hollander,Milton Lomask (v)
Frank Brieff (viola)
Frank Miller (cello)
Meyer Rosen (harp)
Jimmy Carroll (arr,cond)
1949/11/30 NYC
track 7~14
Charlie Parker (as)
Bernie Leighton (p)
Tommy Potter (b)
Roy Haynes (ds)
Tommy Mace (oboe)
Teddy Blume,Sam Caplan,Howard A. Kay,Harry Melniloff, Sam Rand,Ziggie Smifnoff (v)
Isadore Zir (viola)
Maurice Brown (cello)
Verley Mills (harp)
Joe Lippman (arr,cond)
1950/07/05

track 15~19
Charlie Parker (as)
Al Haig (p)
Tommy Potter (b)
Roy Haynes (ds)
Tommy Mace (oboe)
Sam Caplan,Stan Karpenio,Ted Brown (v)
Dave Uchitel (viola)
Bill Bundy (cello)
Wallace McManus (harp)
1950/09/16 Recorded:Carnegie Hall,NYC,

記:2002/04/28

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