カフェモンマルトル

text:高野雲

*

直立猿人/チャールス・ミンガス

      2017/05/19

直立猿人直立猿人

邦題、『直立猿人』。

チャールズ・ミンガスの代表作の1枚に挙げられることの多い作品だ。

しかし、私は、このアルバムに関しては、リーダーのミンガスのベースやアレンジよりも、ジャッキー・マクリーンのアルトを味わうアルバムだと思っている。

したがって、ほとんどと言っても良いほど、私はこのアルバムは、レコードではA面にあたる前半の2曲は飛ばして聴いている。

タイトル曲の《直立猿人》。

この曲には、ミンガスの描いたストーリーが存在し、それを音で表現された演奏だが、そのストーリーを知らずに、いきなり音楽だけを聴いても何を言わんとしているのかを言い当てられる人はいないだろう。

ミンガス曰く、

「大昔、猿人が四つ足で這い歩きはじめた。やがてその中の一人だけが二本の足で歩くようになった。優越感を持った彼は、四つ足で歩く仲間を見下した。やがて四つ足族が決起し、横柄な直立猿人を倒してしまった」

言うまでもなく、白人と黒人の対立問題を寓話仕立てにしているのだろうが、怒りや問題意識を寓話仕立てに仕立て上げ、さらに、その寓話を「音」で表現するのだから、説明無しで音楽を聴いただけでは、彼の言わんとしている主張は理解できないのではないかと思うのだ。

とくに黒人の社会意識が盛り上がってきていた1950年代のアメリカならいざしらず、21世紀の単一民族国家の日本においては。

少なくとも私は分からなかった。と同時に、後で彼の夢に現れたというストーリーの説明も、時代と環境のせいもあるのだろう、ピンとくるものではなかった。

このあたりの社会的背景や、ミンガス内面の個人的表現モチベーションは、資料を読むなり調べるなりして、自分の中で想像を働かせるしかないのだろう。

この曲の場合は、音楽と説明がセットになって、ようやくリスナーはミンガスの言わんとしていることを理解出来る仕組みになっているので、予備知識あってこそ初めてミンガスの意図が伝わる仕組みになっているわけだ。

もちろん、そういった説明を離れても、演奏が素晴らしければ、それはそれで評価出来るのだが、A面の演奏は、たしかに各々のジャズマンの演奏技量は優れているものの、ヘンに音楽上の「仕掛け」が多い分、逆にチープな響きに感じてしまうことも、また事実。

たとえば、《直立猿人》では、一人の管楽器奏者がソロを取っている間に、ドラムとソロを取っていないもう一人の管楽器奏者が「パッ!」と一音(一打)のアクセントを定期的に入れている。

少ない人数で様々な効果を出したいという意図は分かるし、効果もあげていると思うが、慣れてくると、すごく陳腐な仕掛けに聴こえてしまう。

また、ラストで動物の雄叫びのように二本のサックスを咆吼させるアレンジも、自然発生的に演奏が混沌とした状態になるわけではなく、「ここの箇所からは乱れましょう」というキッチリと線引きされたアレンジのように感じるため、少なくとも自然発生的な音の猛々しさは感じられない。

入念に練り上げられ、作り込まれた感じにアザとさを感じるのかもしれない。
せっかくマクリーンやモンテローズという個性的なプレイヤーを従えているのに、ミンガスは自分のアイディア実現のための道具以上の使い方をしていないような気がするのだ。

そんなわけで、B面にあたる2曲のほうを私は愛聴している。

《プロフィール・オブ・ジャッキー》と《ラブ・チャント》。

《プロフィール・オブ・ジャッキー》は、その名の通りマクリーンのアルトを聴かせる内容。哀感溢れるマクリーンの持ち味を生かした内容となっている。

ロングトーンを駆使して哀感を強調しているマクリーンのバックで、這い回るような音数の多いベースを弾くミンガスが、ちょっと邪魔。

ベースの音が気になりだすと、まるで、ミンガスのベースソロにアルト・サックスが伴奏をつけているような錯覚を覚えてしまう。

そして、長尺演奏の《ラブ・チャント》。

この曲は大好きだ。

そして『直立猿人』というアルバムの中での最高傑作は、タイトル曲ではなく、この曲だと私は思う。

タイトル曲とは正反対な作り込みくささが希薄で自然体な演奏が良い。

気怠くメロウな部分と、エネルギッシュな部分が、ブレイク中に吹かれるサックスを通して行き来するアレンジは秀逸だと思うし、何にもまして、そういった曲の構造が、マクリーンやモンテローズの持ち味を生かす内容になっていると思う。

マル・ウォルドロンのピアノのリフが、この曲の気怠いムードを効果的に引き立てていると思う。

特にマクリーン。

彼の音色と、マクリーンならではのフレーズが、このアルバム全体に情緒的な色を付け加えているので、マクリーン好きとしては、彼のアルトが聴ければ、無条件に嬉しくなってしまうのだ。

album data

PITHECANTHROPUS ERECTUS(直立猿人) (Atlantic)
- Charles Mingus

1.Pithecanthropus Erectus
2.A Foggy Day
3.Profile Of Jackie
4.Love Chant

Charles Mingus (b)
Jackie McLean (as)
J.R. Monterose (ts)
Mal Wardron (p)
Willie Jones (ds)

1956/01/30

記:2002/06/17

 - ジャズ , ,