シーズ・ブリーズ/ドン・フリードマン

      2017/05/20

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umi

潮の香りがする。

それも咽返るほど濃厚な磯の香り。

ちょっと生ぬるい感触の潮風。

シーズ・ブリーズ。

タイトルから連想される先入観だということは重々承知しつつも。

瞼の裏に浮かぶ風景と、皮膚に感じる感触は、大変にノスタルジックだ。

涙が出てくるほど懐かしい。

ただし、ノスタルジック、といっても、私の記憶の底に眠る原風景ではない。

ロケーションは当然、海岸、そして砂浜。昼下がり。ちょっと曇りがかった晴天。

砂浜は、私の大好きな写真家・植田正治が得意とした「砂丘写真」のような空気感がよく似合いそうだ。

はたまた、映画『押繪と旅する男』の幻想的なラストシーン、富山県は魚津の「蜃気楼海岸」か?

場所は国内なのか、海外なのか。はっきり言ってよく分からない。でも、どこでもいいし、この「独特な気分」からしてみれば些末な問題だ。

とにかく、爽やかだけど、どこか生温い湿度を感じる潮風とともにスピーカーから放たれるドラムとベース、そしてピアノにしばらくの間は浸れれば、それで充分。聴いている間は何もいらない。随分と潮臭い6分ばかりのトリップだ。

ドン・フリードマンの『サークル・ワルツ』。

1曲目のタイトル曲が有名で、ジャズピアノの名盤の1枚に数え上げられている。

《サークル・ワルツ》も、たしかに素晴らしい曲と演奏だ。

触れれば壊れてしまうような、触れた瞬間に溶けてしまいそうな粉雪のように、儚くデリケートな演奏には、聴くたびに息が詰まってしまう。

しかし、私は、このアルバムでいえば、むしろ2曲目の《シーズ・ブリーズ》に愛着を感じている。

1曲目と2曲目は、あまりに世界が違い過ぎるので、思いきって1曲目を飛ばして聴いてしまうこともある。

快適なテンポで疾走するピアノ。

しかし、よく聴くと整然としたタッチではなく、かなり粒にはバラつきが感じられるし、ピート・ラロカのシンバル・レガートも、意図的なのかもしれないが、ちょっと荒い。そこが逆に、私の肌にリアルな湿度と、爽やかだけど、海独特の、ちょっとベタ付いた重い空気感がリアルな肌触りとして襲いかかってくる。

整然とし過ぎたタッチだとそうはいかないと思う。

そこから感じるのは、きっと硬質で冷たい質感だけだと思う。

ドン・フリードマンの《シーズ・ブリーズ》は、私の中のどこか奥深くに潜んでいる原風景、そして、皮膚全体で感じたことのある触感を確実に呼び覚ますのだ。

記:2001/10/18

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