カフェモンマルトル

text:高野雲

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渋さ知らズを弾く/スガダイロー

      2017/05/22

渋さ知らズを弾く渋さ知らズを弾く

ジェットアッパーな音が乱舞し、ギャラクティカ・マグナム並みの破壊力を誇るハリケーン・ボルトなピアニスト・スガダイローが、渋さ知らズのナンバーに挑んだ作品『スガダイロー渋さ知らズを弾く』。

このアルバムは、オリジナル曲の《キリシタンバテレン》を除けば、すべてが「渋さナンバー」だ。

いやあ、今回も凄いジャケットのインパクトだ。またしてもやられました。

このジャケ写は、YOKOHAMA 本牧ジャズ祭で撮影されたものだそうだ。

炎天下で、日除けの無い野外ステージで渋さ知らズが出演したときのこと。そのときのピアノがあまりにも熱く、「渋さ」のピアノ弾き・スガダイローがあまりに熱く、叫んだ瞬間のショットなのだそうだ。

ジャケットから「熱っちぃぃぃ~!!!」の絶叫が聞こえてきそう。
そして、ジャケットだけではなく、中身の音も負けず劣らず「熱っちぃ」のだ。

このアルバムの編成は、基本は、東保光(b)と服部正嗣(ds)がリズムセクションを務めるピアノトリオだが、曲によってはトロンボーンに後藤篤、テナーサックスに竹内直、そしてベースには不破大輔も「もう一人のベース奏者」として参加している。

もちろん「渋さ」ファンにもお勧めしたいのだが、むしろ「渋さ」を知らないファンにもお勧めしたい。

渋さのナンバーを知らなくても、ちゃーんとスガダイローというピアニストのスペシャル・ローリング・サンダーな魅力は伝わってくるからだ。

また、「渋さ」ファンは、あの大人数編成で圧倒的なアンサンブルを放射する渋さサウンドが、コンパクトな編成でどう蘇っているのかにもご注目いただきたい。

もちろん、鍵盤をかき乱し連打するサイクロン・メイルストロームな凶暴性や、影道鳳閣拳のように、後になってじわじわと効いてくる時間差攻撃など、様々なダイロー流波茶滅茶で爽快なサウンドが封じ込められているので、最初から最後まで、たっぷりと楽しめることだろう。

ポスト山下洋輔と称されるダイローピアノは、《犬姫のテーマ》や《火男》などで凶暴性をいかんなく発揮しているが、このアルバムでむしろ注目したいのは《ひこーき》だろう。

ここで立ち現われる音風景は、山下やセシル・テイラーといったフリージャズ系ピアニストのそれではなく、強くダラー・ブランド(アブドゥーラ・イブラヒム)を感じさせる。

フルート奏者のMiyaとのデュオ・ユニット「トランサイト」のナンバーでも彼女がフルートで即興を奏でている間に奏でられるリフレインは、ダラー・ブランドを彷彿とさせるものがあり、もうひとつの隠れたダイローの資質を垣間見る思いで興味深い。

空を彷彿させるタイトルに反して、この《ひこーき》が描きだす風景は広々とした大地だ。大地にどっしりと根を下ろしたような雄大なピアノ。まさに南アフリカ出身のピアニスト、ダラー・ブランドが描く音風景と共通するものがあると感じるのは私だけだろうか。

これを聴けば、スガダイローというピアニストは、単にフリージャズという言葉から我々が安易に連想しがちな鍵盤の連打だけに頼らずとも、確固とした世界を築き上げる並々ならぬ表現力の持ち主だということが分かるはず。

この乾いた叙情性はどうだ!
漢(おとこ)である。
ハードボイルドである。
《ひこーき》一曲だけでも、このアルバムは聴く価値アリなのである。

さあ、聴こう!

※ジェットアッパー、ギャラクティカ・マグナム、ハリケーン・ボルト、スペシャル・ローリング・サンダー、サイクロン・メイルストローム、影道鳳閣拳は、いずれも『リングにかけろ!』(車田正美)のフィニッシュブローのことです。前から順に、河井 武士、剣崎順、香取石松、志那虎一城、ポセイドン、影道殉(総帥)の必殺技。

記:2011/01/15

album data

渋さ知らズを弾く (Cool Fool/velvetsun)
- スガダイロー

1.アングラーズの決闘
2.犬姫のテーマ
3.キリシタンバテレン
4.ライオン
5.PA!
6.サリー
7.股旅
8.ひこーき
9.本多工務店のテーマ
10.火男

スガダイロー (p)
東保光 (b)
服部正嗣 (ds) #3,4,7,9

後藤篤 (tb) #4,9
竹内直 (ts) #4,9
不破大輔 (b) #3,4,7,9

2010/06/20,27 & 07/01

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