カフェモンマルトル

text:高野雲

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ソニー・ボーイ/ソニー・ロリンズ

      2017/05/19

Sonny BoySonny Boy

楽しいアルバム

ソニー・ボーイ。

ブルースハープ奏者、サニー・ボーイ・ウィリアムソンではありません。

ロリンズの快作、というより、ある意味「怪作」といっても良いだろう。

「やっつけ仕事」。

「一丁上がり!」

そんな言葉がついつい浮かんでしまうアルバムだ。

もちろん悪い意味ではない。

ジャズというフォーマットの持つ大らかさ、鷹揚さ、悪く言えばいい加減さ、ノンシャランさを感じることが出来る楽しいアルバムなのだ、『ソニー・ボーイ』というアルバムは。



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プレスティッジらしいアルバム

そしてまた、個人的には、「う~ん、プレスティッジだなぁ」と思ってしまうアルバムでもある。

プレスティッジというレーベルは、同じく名門のブルーノートというレーベルとは、レコーディングに対して持つ意識や、アルバム作りにおいて持つポリシーは対極なのだと思う。

徹頭徹尾、完璧主義を貫いたアルフレッド・ライオンのブルーノートに対して、最近ではポルノ小説を自費出版しているというボブ・ワインストックが社長だったプレスティッジのレコーディング姿勢は、あくまで放任主義。

悪く言えば行き当たりバッタリのレーベルだ。

たとえば、ソニー・ロリンズをレコーディングしたとする。

次いでMJQ(モダン・ジャズ・カルテット)を録音したとする。

じゃあ、次に出すアルバムは、『ソニー・ロリンズ・ウィズ・モダン・ジャズ・カルテット』(笑)。

マイルス・クインテットを録音した。
次は、マイルス以外のメンバーをリーダーにして、次々とレコーディングをして、どんどんアルバムを出してゆく。

プレスティッジから大量に出ているコルトレーンやレッド・ガーランドのリーダー・アルバムを思い浮かべる人も多いだろうが、まさに、それらがそうだ。

しかし、それら一連の作品の内容が悪いかというと、必ずしもそうでもないのが、ジャズの面白いところだ。

これらのアルバム、特にレッド・ガーランドがリーダーの一連のピアノ・トリオのアルバムをお持ちの方ならば、それらのアルバムの多くには、ブルースが入っていることにお気づきだろうか?

しかも、演奏時間が長めのブルース。

元よりブルージーなフィーリングを持ち味とするガーランドのことだから、演奏内容は悪くはない。

しかし、それらブルースが録音された背景には、アルバムの曲数を稼ぐための「時間稼ぎ」的な要素があるのだ。

これらを「5時のブルース」という。

中山康樹氏の著書を紐解いてみよう。

プレスティッジの社長、ボブ・ワインストックは、レコーディング時、ネタ切れになると、いつもこう言ってミュージシャンを呆れさせたそうだ。

「じゃあブルースでも一曲レコーディングしておくか」

そして、そう言い出すのはいつも決まって午後5時を回るころなのだそうだ。

アルバムに収録する曲が一曲少ない。

あるいは、思いのほか、早く録音が終了してしまったけれども、まだスタジオが使えるから、このままレコーディングを終了してしまうのも勿体ない。

だったら、将来出すアルバムのことも考えて、ネタを一曲ぐらいストックしておこう。

え?手持ちのレパートリーが無い?じゃぁ、手っ取り早くブルースでもやっておくか。

それぐらいの発想での「ブルースでも録っておくか」なのだと思う。

そして、このプレスティッジから出ている『ソニー・ボーイ』というアルバム。録音日時と演奏曲、演奏内容を見ると、ボブ・ワインストック流というか、プレスティッジ流のやり方が強く感じられるのだ。

ロリンズのオリジナルを1曲、それに出来るだけ速めに吹く曲を2曲、あとはブルース1曲。

うーん、でもこれだけじゃ、アルバムにするにはちょっともの足りないなぁ。

よし!2ヶ月前に録音した曲もくっつけちゃえ!

これで、1枚のアルバムを世に送り出すことが出来るぞ、『ソニー・ボーイ』。

もちろん、本当にそう考えてアルバムが制作されたのかどうか真相は定かではない。もちろん私の推測だ。

しかし、プレスティッジというレーベルの体質を考えると、充分に考えられそうな話だ。

ザ・ハウス・アイ・リヴ・イン

ちなみに、2ヶ月前の録音、すなわち《ザ・ハウス・アイ・リヴ・イン》という曲は、1956年10月5日にレコーディングされた曲だ。

つまり『ソニー・ロリンズ・プレイズ・フォー・バード』用のセッションで収録された曲が、何故か上記アルバムには収録されずに、『ソニー・ボーイ』の中に収録されている。

『ソニー・ボーイ』の中では、比較的落ち着いたムードと、じっくりと腰の据わった演奏ゆえ、ドンジャカドンジャカした他の曲とは全く違う雰囲気を放っているが、それは録音日の違いと、共演者の違いからだ。

もっとも、落ち着いた雰囲気の《ザ・ハウス・アイ・リヴ・イン》が1曲入っているからこそ、この『ソニー・ボーイ』はなんとかアルバムとしての体裁を保っているのだろう。

というのも、後の曲は、その場の勢いでガガーッと演奏されたに違いない、白熱セッション的な演奏だからだ。

もちろん、私は白熱したセッションは大好きなので、このアルバムの中の演奏が悪いと思っているわけでは決してない。

ただ、アルバムの最初から最後まで、全部が熱い演奏だと著しくバランスを欠いた内容になるのではないかと思うのだ。

つまり、アルバムの流れの中で「箸休め」の曲が1曲ぐらいあった方が良いのではないかということ。

そして、《ザ・ハウス・アイ・リヴ・イン》は、アルバムの中での「箸休め」の機能を充分に果たしていると思う。

ロリンズ大阪人説

さて、では、その他の曲を見てみよう。 まずは、ブルースの《Ee-Ah》。

「ええ。ああ。」?

何て読むんじゃ、こりゃ?(笑)

山下洋輔の曲(演奏?)に「さて、何をやりましょう」の「さて」が曲名になっちゃったものがあるが、それぐらいの感覚のネーミングなんだろうか?

そして、テーマもかなりラフなテーマ。

というか、これって、「作曲されたテーマ」と言えるんだろうか(笑)?

なんだか5秒でモチーフだけを作ってしまって、あとは演奏でカバーするぜ、ぐらいの勢いのテーマだ。

なにせ、テーマらしきモチーフは、「ファレファー」の3音。
それだけ(笑)。

2小節ごとに「ファレファー」を吹いて、残りの空白は適当なアドリブで穴埋めするといった構造のブルース。

あとは、Fのキーのブルースなので、その進行に則ったアドリブをロリンズ、ケニー・ドリューらが展開している。

しかし、そこがジャズの良いところなのだが、簡単なモチーフでも演奏力さえあれば、聴かせられる演奏に発展させることが出来るということ。

練り込んで作った曲を演奏するのも良いが、私はこのように一筆書き的な最小限の音のモチーフだけを展開してゆくような演奏も嫌いではない。

そして、私がロリンズを聴くたびに笑うと同時に感心してしまうのは、このような腰砕けでマヌケなモチーフを用いることが多いことと、こういったマヌケなモチーフをもちゃんと発展させて立派な演奏に昇華させてしまう力量だ。

ロリンズは、この「ファレファー」がよっぽど好きらしく(笑)、アドリブ中のいたるところで小出しにしているところが面白い。

好意的に解釈すれば、「テーマティカル・インプロヴィゼーション」などという大層な形容も出来そうだが、なんか、クドい(笑)。

もう分かったよ、と言いたいほどのクドさで「ファレファ~」を連発する。

「また出てきたよ」と、最後は何故かゲラゲラと大笑いするしかない。

このクドさと、ついつい笑いを誘ってしまうセンス。

「ソニー・ロリンズ大阪人説」を唱えていたのは、中山康樹氏だが、私は断然彼の説を支持する。

熱い演奏の中にも笑いがあり

次いで、《ビー・クイック》と《ビー・スイフト》。

要するに、《チェロキー》なんだけど(笑)、この2曲(2演奏?)は、タイトルからも分かるように、いかに速いスピードで演奏出来るかにチャレンズするためだけに演奏されているような曲だ。

もちろん、マックス・ローチにケニー・ドリュー、ロリンズといったベテランたちによる演奏だから悪かろうはずがない。

特にマックス・ローチの煽りまくるドラミングは凄まじく、迫力のある演奏となっている。

しかも、破綻はないが、いつクラッシュしてしまうのではないかとハラハラさせてしまうようなあぶなっかしいスピード感が常にともなっており、そこがまたタマラナイのだ。

ロリンズも湧き出る水のごとく、すごい勢いでアドリブのフレーズが次から次へと流れ出てきている。

しかし、これぐらいの速いテンポとなれば、考えるよりも先に、身体が先に動いてしまうこともある。つまり手癖だ。

ところどころに、ロリンズならではのお笑いフレーズが出ているのが楽しい。

「パッパラパッパ・パッカッカ」といった腰砕けフレーズが随所に出現する。

しかも、時折マックス・ローチがドラムでそのフレーズと同じ譜割りのリズムをタムタムで叩き出すのがまた笑える。

火花の飛び散るような、まるでジャズマン同士のつばぜり合い的な演奏に「笑ってしまう」と言うのも不謹慎なことなのかもしれないが、私がロリンズを好きな大きな理由は、常に「笑い」の要素があるからなのだ。

もちろん、もの凄いフレーズをいとも簡単に吹ききってしまう大ベテランには違いないし、彼のアドリブの閃きと瞬発力には本当に脱帽してしまう。

スゴイと感心している。

しかし、時々、ポロッと出てしまう「オマヌケ・フレーズ」も笑えて大好きなのだ。

2.5枚目的なカッコ良さ

格好良さとオマヌケさの絶妙な同居。

たとえてみるなら、ルパン三世や、「探偵物語」の工藤ちゃん(松田優作)の、キメるときはキメるし、泣かせるところは泣かせるが、オマヌケな要素もきちんと(?)あって、笑いを取ることも忘れないといったキャラクターに近いものを私はロリンズに感じているのだ。

ジャズは、しかめっ面で聴くものだけではない筈。
楽しく、愉快に聴けるジャズだってたくさんある筈。

それを天然のレベルで体現しているジャズマンの一人が、ソニー・ロリンズというテナー・サックス吹きなのだと私は思っている。

そして、このアルバムは、ジャズ特有の熱気とスリル、そして、ロリンズならではのお笑いの両方を楽しめるのだ。

もちろん、彼の代表作ではないし、どの名盤ガイドにも紹介されてはいない。

ロリンズのベストアルバムの10枚に入るような内容でもないだろう。

しかし、本当にロリンズが好きならば、あるいは好きになりそうな気がしたら、11枚目には是非聴いてもらいたいアルバムだと思う。

記:2002/05/06

album data

SONNY BOY (Prestige)
- Sonny Rollins

1.Ee-Ah
2.B.Quick
3.B.Swift
4.The House I Live In
5.Sonny Boy

Track 1,2,3,5
Sonny Rollins (ts)
Kenny Drew (p)
George Morrow (b)
Max Roach (ds)
1956/12/07

Track 4
Sonny Rollins (ts)
Kenny Dorham (tp)
Wade Legge (p)
George Morrow (b)
Max Roach (ds)

1956/10/05

 - ジャズ ,