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ジャズと映画と本の日々:高野雲

スピリット・センシティヴ/チコ・フリーマン

   

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Spirit Sensitive

《イット・ネヴァー》のピアノ

スタンダードナンバーの《イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド》といえば、私にとってはマイルス(・デイヴィス)だ。

もちろん、他にもキース・ジャレットや、ジョン・ルイスも素敵な演奏を残してはいるが、やはり私にとっては、マイルスの2つのバージョンが、昔から心の隙間にこびりついている。

ひとつは、トランペットをオープンで吹いているバージョン。
ひとつは、トランペットをミュートで吹いているバージョン。

オープンで吹いているバージョンは、ブルーノートの『マイルス・デイヴィス・オールスターズ』。
ミュートで吹いているバージョンは、プレスティッジの『ワーキン』だ。

マイルス・デイヴィス・オールスターズ VOL.2マイルス・デイヴィス・オールスターズ VOL.2

ワーキンワーキン

ブルーノート盤のピアノはホレス・シルヴァー。
プレスティッジのほうのピアノはレッド・ガーランド。

どちらのピアニストも甲乙つけがたいイントロを奏でている。

シルヴァーもガーランドもアルペジオを使用したイントロをつけ、伴奏をしているが、どちらのアルペジオも印象的で、一度聴いたら耳に残ってしまうほどの親しみやすさだ。

この2つの名イントロが頭に焼き付いているからこそ、私にとっての《イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド》はマイルス!だという固定観念が長年ずっと植え付けられていたのだと思う。

つまり、ホーン奏者の演奏云々以前に、美しいピアノの調べで演奏のイメージが出来上がっちゃっていたわけだ。

ところがところが、先日、チコ・フリーマンの『スピリット・センシティヴ』を改めて聴き直していたら、ジョン・ヒックスのイントロも美しく叙情的であることに今さらながら気が付いた。



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ヒックスの名イントロ

ジョン・ヒックスといえば、私の中ではマッコイ・タイナー系のピアニストというか、要するに、力強く鍵盤を引っぱたき系のピアノを弾く人という、これまたヒドい固定観念を抱いていたわけだが(もちろん両ピアニストとも、アグレッシブな演奏に限ってのことだが)、なかなかどうして、《イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド》の叙情的なピアノもなかなかのものだと感じた。

クサくなり過ぎず、クサさに陥る一歩手前でキチンと「ジャズしている」というか、チコ・フリーマンが吹き始まるまでのお膳立てを巧みにしているのだ。

ヒックスが設定したムードに誘導されるかのごとく、自然にテーマを吹き始めるチコ・フリーマンのテナーもなかなかで、女々しくならず、男らしい逞しさを維持しながらも、優しげに旋律を奏でている。

今まで、セシル・マクビーのベースとデュオで演奏された《ニューヨークの秋》ばかり聴いていて、このアルバムのことを「分かった」つもりになっていた自分が恥ずかしくなってしまった。

素晴らしき《ニューヨークの秋》

そう、このアルバムの目玉は、何と言っても《ニューヨークの秋》なのだ。

過激でワイルドな演奏をすることが多いテナーサックス奏者と、鋼鉄の指で硬く引き締まった音を奏でるベーシスト。

この無骨な男2人によって交わされる、表出される乾いた叙情。
ほんのりと漂うセンチメンタルな趣きが、なんともいえない男の交感。

もとより《ニューヨークの秋》という曲は名曲な上に、多くのジャズマンが名演を残しているが、チコ・フリーマンとセシル・マクビーによるサックスとベースのデュオによるバージョンは、間違いなく、「《ニューヨークの秋》の名演ベスト10」にはランクインする素晴らしさ。

逆に、あまりに素晴らしすぎて、私のように、この1曲を聴いただけで満足、満足、お腹いっぱいな気分になり、《イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド》のような素晴らしい演奏も、まだまだ収録されていることに気が付かないまま「ニューヨークの秋のアルバム」と脳内ラベリングを施して満足してしまう人もいるかもしれないが(私だけ?)。

ブリブリ吹きまくるタフなイメージのフリーマンだが、穏やかなバラードプレイも絶品だということを見せつけてくれるアルバム、それが『スピリット・センシティヴ』なのだ。

センシティヴだけれども、根っこは、やっぱりタフです。
だから良い。

記:2017/12/17

album data

SPIRIT SENSITIVE (India Navigation)
- Chico Freeman

1.Autumn in New York
2.Peace
3.A Child Is Born
4.It Never Entered My Mind
5.Close to You Alone
6.Don't Get Around Much Anymore

Chico Freeman (ts,ss)
John Hicks (p)
Cecil McBee (b)
Billy Hart (ds)
Famoudou Don Moye (ds)

Oct 1978-Jan 1979

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