カフェモンマルトル

text:高野雲

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スウェーデンに愛をこめて/アート・ファーマー

      2017/05/22

To Sweden With LoveTo Sweden With Love

スウェーデン民謡とジャズは相性が良いのだと思う。

ジャズ、スウェーデン民謡ときて、まず多くの人が思い浮かべるのは、《ディア・オールド・ストックホルム》ではないだろうか。

1950年にスウェーデンを訪れたスタン・ゲッツが、現地で耳にしたメロディをいたく気に入り、早速現地で演奏を録音して以来、マイルスやパウエルなど多くのジャズマンが取り上げるようになり、ジャズのスタンダード・ナンバーになった曲だ。

この曲は、しみじみとした郷愁を誘うマイナーメロディが印象的だが、この曲のみならず、スウェーデンの民謡には、哀愁感をそそるマイナー調のものが多い。

それも、日本の演歌的なマイナーなテイストとは一線を画する、スイートで伸びやかなマイナー旋律。

ノスタルジックな哀愁の漂う曲が多く、この切ない曇り空のような旋律がスウェーデン民謡の特徴の一つなのだろう。

だからなのかもしれない。

楽旅でスウェーデンを訪れたジャズマンの心をとらえて離さないのだろう。

スタン・ゲッツのみならず、アート・ファーマーも、そうとうにスウェーデン民謡に心惹かれたようだ。

それも、スウェーデン民謡だけでアルバムをまるごと1枚作ってしまっているのだから、その入れ込みようは、ゲッツ以上だといえる。

ここで演奏されている曲は、ファーマーがスウェーデンを楽旅中に聴き覚えた当地の民謡ばかり。

全曲スウェーデンの民謡で構成されている。

録音場所もスウェーデンのストックホルム。

ファーマー・カルテットがツアー中、スウェーデンに立ち寄った際のご当地吹き込みだ。

ここでのファーマーは、旅先で覚えたというスエーデンの民謡の1曲1曲を、メロディをいつくしむかのように丁寧に歌い上げている。

スウェーデン民謡は、4ビートとの親和性は非常に高く、なんの予備知識なしにこれらの曲を聴けば、誰もがジャズマンのオリジナルか、あまり知られていないスタンダードだと勘違いするに違いない。

それほど、スウェーデン民謡の旋律はジャズの4ビートと相性が良いのだ。

リズム面もそうだが、音色面でいえば、これほどアート・ファーマーの魅力を引き出している旋律もないんじゃないかと思う。

優れたジャズマンは、皆、その人しか出せない音を持っているが、アート・ファーマーのトランペットやフリューゲルホーンの知的でまろやかな音色も、誰にもまねをすることが出来ない独特のトーンだ。

端正で上品。ふっくらと暖かい空気の音がする柔らかな音色。

アート・ファーマーのフリューゲルホーンには、スウェーデンの民謡の旋律がよく似合う。

さらに、彼のプレイスタイルも。

決して熱くなることはなく、演奏は常に知的に抑制された佇まいだが、プレイの内容は、常に叙情的。もの静かな詩人や哲学者を思わせるトランペッター兼フリューゲルホーン奏者なのだ。

独特のトーンに、抑制された叙情的な吹奏。そんなファーマーのスタイルにスウェーデン民謡の旋律はよく似合う。

ファーマーとスウェーデン民謡は出会うべくして出会ったのかもしれない。

ファーマーの丁寧な吹奏を聴いていると、これらスウェーデン民謡は、まるで、ファーマーのフリューゲル・ホーンのために作曲されたんじゃないかと錯覚してしまう。

いや、それとも逆にファーマーのオリジナルと言われても、すんなりと納得してしまいそうだ。それほど、旋律と音色とプレイのスタイルがマッチしているのだ。

金髪女性の顔がアップのジャケットが印象的な『スウェーデンに愛をこめて』は、アート・ファーマーというホーン奏者を知るに最適なアルバムだ。

彼のオリジナルな音色と、抑制の美心ゆくまで堪能することが出来るからだ。

また、ジム・ホールの控えめだがツボを押さえたギターが、これまた極上の芳香を醸し出している。終始控えめなプレイだが、聴けば聴くほど味わい深い音色で、ファーマーの相性はバッチリ。

ピート・ラロカの抑制の効いた知的なドラミングも素晴らしい。

最初の曲のイントロはドラムソロから始まるが、この3拍子のリズムが始まった瞬間から、どっぷりと“スウェーデンな世界”が始まり、期待に胸躍る。

スティーヴ・スワロウは、いくつかの曲でベースソロを取っているが(この時期はウッドベース)、深く沈んだ内省的なソロは、聴き応えアリ。

上質な沈黙を演出している。

要するにすべての演奏が極上。

ファーマーのフリューゲルホーンとともに、柔らかで抑制の効いた「知的なサイドマンたち」の演奏も味わえる、秀作アルバムといえるだろう。

お互い派手な自己主張をすることなしに聴かせてしまう力量の持ち主なだけに、ともすれば地味な印象しか感じられないかもしれないが、少ない音にこめられた無限のニュアンスを是非とも感じ取って欲しい。

記:2004/07/17

album data

TO SWEDEN WITH LOVE (Atlantic)
- Art Farmer

1.Va Da Du? (Was It You?)
2.De Salde Sina Hemman (They Sold Their Homestead)
3.Den Motstravige Brudgummen (The Reluctant Groom)
4.Och Hor De Unga Dora (And Listen Young Dora)
5.Kristallen Den Fina (The Fine Crystal)
6.Visa Vid Midsommartid (Midsummer Song)

Art Farmer (flh)
Jim Hall (g)
Steve Swallow (b)
Pete LaRocca (ds)

1964/04/28,4/30 recorded in Stockholm

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