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ジャズと映画とプラモの日々:高野雲

寺井尚子〜ヴァイオリンが奏でる4ビート

      2017/05/20

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violin

「思いこんだらおサルさん」なところが私の良いところでもあり、悪いところでもあるのだが、寺井尚子のヴァイオリンの「音色」にゾッコン惚れてしまったので、早速買ってきましたよ、彼女のファーストとセカンド・アルバムを。

シンキング・オブ・ユーThinking Of You

ピュア・モーメントPure Moment

仕事から帰宅したのは12時を過ぎてからだが、こういう時って「蔦屋(TSUTAYA)」っていうビデオレンタル&CDショップは便利ですね。

夜中の2時まで開店しているから。

まさにこういった利便性と、店員の杓子定規で言葉だけは細やかな気配りが効いているマニュアル棒読みな接客は、さながらビデオ・CD、そして書籍界のマクドナルドか。

言葉の内容と接客態度が伴っている店員も多いのだが、中には言葉だけは丁寧、態度がブッキラボウで、「言われた通りの接客やってるんだ、文句あるのか」的な態度の店員も時々いるから、このような態度と言葉遣いのギャップのある店員にぶつかると、単に無愛想な応対よりも腹が立ち、殴り倒してやろうかと思ってしまう。

それはともかく、現在、寺井尚子のCDを取っかえ引っかえかけながらキーを叩いているのだが、いやぁ気持ちいいですね、相変わらず。

彼女のヴァイオリンの音色は。

本当に伸びやかで、ふくよかで、そして芯が太い。

ハッキリ言って、このような音色だったら、もうどんな曲を奏でてくれても良いわけで、それが自分の好きな曲だったらば、より一層嬉しいといった感じ。

そう、私の好きな曲を弾いてくれているのですよ。

デビュー・アルバム『シンキング・オブ・ユー』の一曲目、《ストールン・モーメンツ》。

タイトルもカッコいいが、メロディもカッコいい曲。オリバー・ネルソンの作曲で、彼のリーダーアルバム『ブルースの真実』では幻想的な演奏が展開されているが、私の場合は、フィル・ウッズ&ヨーロピアン・リズム・マシーンの『アライヴ・アンド・ウェル・イン・パリス』での、ウッズのアルト・サックス奏でるクサい吹奏で好きになった曲だ。

なんとヴァイオリンに似合う曲なことか。新発見だ。

たしかにオリバー・ネルソンの幻想的な3管アレンジも、フィル・ウッズの演歌がかったサックスも捨てがたい魅力があるが、彼女のヴァイオリンの重音(二つの弦を同時に弾いた音)が非常にこの曲想とマッチしていると思う。

聞き惚れる。

この演奏、曲の後半にベース・ソロも出てくる。音数を節約した渋いソロワークだ。

思わず壁に立てかけてあるウッド・ベースを手に取り、合わせて弾いてみる。

うーん、オレって渋いベーシストだなぁ。などとアホのように浸る私。

3曲目の《ドナ・リー》。

私が大好きなジャズマンの一人、チャーリー・パーカーの曲だ(マイルス・デイビスは自分が作った曲だと自伝では主張しているが……)。

この曲は私がベースでよく練習した曲だ。

ウネウネした起伏と跳躍の激しいメロディラインは、バップ・チューンの典型的なメロディラインとでもいうべき内容で、ベーシストのジャコ・パストリアスがベースで弾いていたからというわけでもないが、昔はよくこの曲のテーマを練習したものだ。今ではあまり弾けないけど……。

ただ、バリバリの高速4ビートで演奏してくれるものかと思いきや、オーケストラを模したシンセの「ジャン!」という音がアクセント的に加わるだけの演奏だった。

こういうアレンジも面白くないわけではないが、やっぱり4ビート大好き人間からしてみれば、ちょっともの足りない印象を受けるのは否めない。

だから、壁に立てかけてあるウッド・ベースを手に取り、4ビートのベースラインをこの演奏に合わせて弾いてみた。

おお、なかなかいい感じではないか。

それにしても、ヴァイオリンで《ドナ・リー》のテーマを奏でられると、まるでクラシックの曲かと錯覚してしまう。

ジャジーな感じは全くしないが、優美な曲に生まれ変わったといった感じ。

私が大好きな曲がもう一曲入っていた。

セロニアス・モンクの《ストレート・ノー・チェイサー》だ。

モンク好きな私にとってみれば、一体モンクの曲がどう料理されるのかは、興味津々だ。

ほぼ原曲通りのテーマを経て、ヴァイオリンのソロに移行するが、ソロのコーナーに突入すると、ピアノもベースも抜けて、ドラムとの一騎打ちのバトルとなる。

こういう展開って好きなんだよなぁ。ビル・エヴァンスもフルートのジェレミー・スタイグと共演しているアルバムで《ストレート・ノー・チェイサー》を演っているが、ピアノ、フルート、ベースが交互に短いソロを交換するという、息も詰まるようなスリリングな展開をしていたが、聴いていると不意にエヴァンス・バージョンの《ストレート・ノー・チェイサー》を思い出してしまった。

ここでの演奏では、故・日野元彦の猛り狂うようなドラミングに果敢にヴァイオリンで挑み、堂々と渡り合っている。

ただし、期待していたバップ・フレーズはあまり出てこない。

ヴァイオリンの特性を生かした伸びやかなフレーズが優美に、時に攻撃的なアドリブが展開されている。

あ、でも一瞬パーカー・フレーズをディフォルメしたフレーズが出てきたのは見逃さなかったぞ。

思わず壁に立てかけたあったウッド・ベースを手に取って、合わせて弾いている自分がいた。

私が注目した上記3曲の他にも、ハード・バップ好きとしては垂涎ものなテーマの曲があった。

短いフレーズの積み重ねがモチーフとなり、サビの箇所に一瞬ハンク・モブレーの《リカード・ボサ》を彷彿させるような旋律が出てくる「ダダ」というオリジナル曲だ。

50年代中期にブルーノートがリズム・セクションに3管か2管を加えてレコーディングしていてもおかしくないほどの、初めて聴くのに妙な懐かしさと、ジャズ心を擽られるテーマと演奏だった。

リズムセクションのノリも良い。思わず壁に立てかけてあるウッド・ベースを手に取って、適当なラインを弾いている自分がいた。

ヴァイオリンは、やはり伸びやかなロングトーンを弾いてこそ、楽器の魅力を最大限に引き出せるのだろう。上記のジャズ風のナンバーも確かに良いのだが、スローテンポに合わせて伸びやかに奏でられる曲の方が、ヴァイオリンの心地よい音色を堪能出来る。特に自作のタイトル曲《シンキング・オブ・ユー》や《出会い》の美しさは特筆に値すると思う。

甘く切ないメロデイも落涙ものだが、それ以上に寺井尚子が持っているヴァイオリンの音色の美しさを心ゆくまで堪能出来るナンバーだと思う。

ヴァイオリンの一音一音を慈しむように耳の受信感度を上げて演奏を追いかけていたら、壁に立てかけてあるウッド・ベースを手に取るのも忘れてしまい、いつの間にか演奏が終わってしまっていた。

あれ?この二曲、どこかで聴いたことがあるなと思ったら、先日購入したマキシ・シングルにも入っていたナンバーだったんだ。

私の場合、ジャズマンの「初リーダー・アルバム」にはすごく注目するし、注意深く聴いてしまうタチだ。

“こんな未発表音源もありました”的な「ファースト・レコーディング」じゃないよ。あくまで、自分が初めてリーダーになった時のオフィシャルなレコーディングによるアルバムだ。

初めて自己名義でアルバムを制作する際にあらわれる気負いや、勢いといったメンタルなものから、選曲、長年暖めていたに違いないアイディアのようなセンスめいたものまで、最初のレコーディングで、恐ろしいほど、ジャズマンの今後のミュージシャン人生が決まってしまうような気がする。

バド・パウエル、ビル・エヴァンス、チック・コリア、リー・モーガン、ジャコ・パストリアス、エリック・ドルフィー、フレディ・ハバード、ソニー・ロリンズ、レッド・ガーランド、大西順子……。

まだまだ例を挙げればキリがないが、いずれも上記のジャズマンの初リーダー作を私はとても気に入っているし、初リーダー作だからこそかいま見ることの出来る、音楽観、資質、センス、表現の力強さというものは必ずある。

たとえ後年、技術や表現力がどんなに向上したとしても、自らの初リーダー作の勢いや気負いは一生ついて回るのだと思う。

その点、彼女の初リーダー・アルバム『シンキング・オブ・ユー』は、選曲といい演奏といい、合格点を軽くクリアしてしまっていると言って良い内容だ。

素晴らしい。

様々な角度から寺井尚子というヴァイオリニストの魅力を堪能出来ると思う。

ただ、先日ベースの池田師匠は、「彼女はバッパーだ」と仰っていたので、私はヴァイオリンによる心躍るバップフレーズを過度に期待しすぎていたのかもしれないが、予想に反して、バップ特有の起伏の複雑なアドリブラインはあまり耳にすることは出来なかった。

それでも、朗々と伸びやかに美しい音色で奏でられる様は、まるでヴァイオリンが歌っているのかと錯覚してしまう。

師匠仰る「バッパー」というのは、フレーズ云々よりも、演奏に臨む態度、そして曲を選ぶセンスや素材の料理の仕方のように、総合的な彼女の「表現力」を象徴する比喩だったのかもしれない。

ガチガチなジャズマニアな私としては、どうしても演奏にたいして「衝突」や「ハプニング性」や「スリル」、そして、どこかしら「アウト」した要素を無意識に求めがちなところがある。

残念ながら、そうした要素はこのアルバムに求めても無駄だ。

しかし、悪く言えば未完成と破綻一歩手前なスリルだけがジャズの魅力ではないし、きちんと作り込んだ良さや、練り上げ方と料理の匙加減の妙を堪能するのも一つの楽しみなことは確かだ。

彼女の演奏は明らかに後者だ。手に汗握るスリルは無いかわりに、聴き手を優しく包み込んでしまう安定感と安心感がある。これもまた良し。

優れた「音楽」なことに間違いは無いのだから。

夢中になって書いていたら、なんか1枚目の話で随分と文字量を費やしてしまった。

2枚目のアルバムについては、機会があれば、……ということで。

記:2001/08/07

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