カフェモンマルトル

ジャズと映画と本の日々:高野雲

ザ・マン・ウィズ・ザ・ベース/ロン・カーター

   

Pocket

The Man With The Bass

やっぱり「そんなにいいのか?」

このサイトを立ち上げた初期の頃に「そんなにいいのかロン・カーター」という記事を書いた。

▼こちら
そんなにいいのか?ロン・カーター

もう18年も昔のこと。

バッキングに徹すると、彼にしか出来ない独特な色合いを演奏に添える唯一無二な個性を発揮するベーシストであるにもかかわらず、ひとたび主役として前面に出ると酷い音程で聴くに堪えないプレイをする
⇒やっぱり伴奏に徹して欲しい

このような主張は、18年経った現在も基本的に変わることはない。

もちろん、マイルスのクインテット時代や、ブルーノートの新主流派のレコーディングにサイドマンとして参加した際や、V.S.O.Pクインテットでの演奏には、ロン・カーターにしか出しえない(サポートしえない)楽曲も数多くあり、ハードバップ以降のモードジャズの一時代を築き、重要な役割を担ったジャズ史の1ページを飾る重要なベーシストであるという認識にも変わりはないのだけれど。



スポンサーリンク



日本編集・制作のアルバム

私が前出の記事を書いた理由に、いくつかのアルバムを聴いて腰砕けになったからだ。

『ロン・カーター・プレイズ・バッハ』に『オール・アローン』のようなベースソロのアルバム、そして日本でロン人気に火をつけたサントリーのウイスキー「サントリホワイト」のCMにも使われたナンバーが収録されている、日本編集版の『ザ・マン・ウィズ・ザ・ベース』だ。

マイルスの復帰作『ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン』に引っ掛けた、いかにも日本編集的な「売らんかな」マインドが見え隠れしたタイトルではある。

このアルバムは、かつてのロンがマイルストーン・レーベルに吹き込んだリーダー作『パステルズ』、『ペグ・レッグ』、『ソング・フォー・ユー』、『ニューヨーク・スリック』、『パトラウン』からチョイスされたナンバーに、CMで使用された《36414》と《ダブル・ベース》の2曲を新たにレコーディングして制作、販売された。

CMで使用された曲のベースは、中音が強調された音域ゆえ、テレビからの音でも聞き取りやすかったのだろう。

しかし、芯の無いフニャフニャ音、とまでは言わないが、少なくとも音程をはずしまくった腰のないチェロとコントラバスを足して二で割ったようなピッコロベースの音色は、ロン・カーターらしいといえばらしいのかもしれないが、この曲で「ジャズ」のイメージを抱いてしまった人が大勢いるんだろうな。「ジャズベースの音」というよりは、「ロン・カーターの音」なんだけどね。

アップライトベースが主役のお酒のコマーシャルだったら、個人的にはいかりや長介のキリンラガーのCMの方が好きだ。

コミカルな「おなら」ミュージック

私がもっとも腰砕けになってしまったナンバーは《36414》だ。

冒頭のブルースハープを聞いた瞬間、「おっ、もろブルーステイストだな(ジャズのブルースではなくシカゴブルースのような)」と身を乗り出したのも一瞬、ひどい音程のベースが、のほほんと登場する。

弦をスライドさせながらピッチを下げてゆくロンお得意のフレーズが出てきたり、ダブルストップ(2本の弦を抑えて同時に2つの音を出す奏法)で、半音から全音上昇させる、これもまたロンお得意のフレーズが出てきたり、ハーモニクス(倍音)を脈絡もなく鳴らしてみたりと、おそらくロンはご機嫌な気分で弾きまくっているに違いないベースだが、プアーンとピッチをずらしたりする音を聴くにつれ、失礼ながら私にはコミカルな「おならミュージック(失礼!)」にしか聴こえなかった。

もちろんサントリーホワイトのバスに乗るロンのCMでは、この曲の「おならチック」な要素が映像の力(魔力?)によって抑えられてはいるが。

マイルスのクインテットで、そして、自身のリーダー作『パレード』の《ジプシー》などで、あれほどシリアスかつイマジネーション豊かな4ビートをひたすらストイックに刻み続けていたベーシストと同じ人物なのかと思ってしまうほどだ。

参考記事:パレード/ロン・カーター

コンファメーション風ボサ

日本編集のこのアルバム、CMの効果も手伝ってか、日本では一時期話題になったアルバムのようだが(私がジャズを聴く前の作品なので、リアルタイムな世間の状況はよく分からない)、今改めて聴くと、中途半端な古さを感じてしまう。

個人的にこのアルバムの中で好きな曲を強いてあげるとすれば、《アー・リオ》かな。

これは、チェット・ベイカーも参加している1981年の『Patrao』(パトラウン/ポルトガル語で「主人」、要するに「パトロン」という意味なんでしょう)に収録されたナンバーだ。

チャーリー・パーカーの《コンファメーション》をボサ風に料理しました的な演奏。
もっとも、曲や演奏が良いというよりも、コード進行が個人的な好みだけなのかもしれないけれど。

いずれにしても、ロン・カーターの『ザ・マン・ウィズ・ザ・ベース』を聴いた後は、マイルスの『フォア・アンド・モア』や『マイルス・イン・ベルリン』などで、ひたすら、ひたむきに伴奏に徹するロンのベースを聴いて耳直しをする必要がありそうだ。

記:2017/11/20

album data

THE MAN WITH THE BASS (Milestone/Victor)
- Ron Carter

1.36414
2.NY Slick
3.Someday My Prince Will Come
4.12+12
5.Song For You
6.Double Bass
7.Epistrophy
8.Ah,Rio
9.Tierra Espanola

Ron Carter (b,piccolo bass)
Hugh McCracken (hca, g)
Jey Berliner (g)
Kenny Barron (p)
Earl Wiliams (ds)
Crusher Bennet (per)
ほか

1976年10月、1980年、1985年12月

関連記事

>>フォア・アンド・モア/マイルス・デイヴィス
>>マイルス・イン・ベルリン/マイルス・デイヴィス
>>すべての原点は《コンファメーション》
>>コンファメーションの秘密

 - ジャズ , ,

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。