カフェモンマルトル

text:高野雲

ザ・サウンド/スタン・ゲッツ

   

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The Sound

ディア・オールド・ストックホルム

《ディア・オールド・ストックホルム》という曲は、ジャズ入門者をジャズの世界の入り口に無理なく誘う橋渡し的な役割を担った曲だと思う。

なにしろ、メロディが良い。

パーカーの《コンファメーション》や、コニッツの《サブコンシャス・リー》を鼻歌で歌えなくても、《ディア・オールド・ストックホルム》だったらジャズを知らぬ人だって1、2度聴く程度で口ずさめてしまう親しみやすさがある。

ジャズの魅力に開眼すると、リズムやハーモニーの面白さにも魅了されてゆくものだが、メロディや歌詞を中心に音楽を聞いていた人が、いきなりそれらの要素の虜になることは考えにくい(楽器をやっている人なら別かもしれないが)。

やはり、自分の脳内カラオケで歌えるか歌えないかが曲の良し悪しを判断する大きな基準になると思うのだが、まさに《ディア・オールド・ストックホルム》は、その要素を満たした名曲といえるだろう。



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名演を生み出す素材

そして、《ディア・オールド・ストックホルム》という曲は、誰が演奏しても、よほどのことがない限りサマになってしまうという便利な曲でもあるのだ。

バド・パウエルの後期を支持する人は、必ず彼のすばらしさを熱弁する際には『バド・パウエル・イン・パリ』の《ディア・オールド・ストックホルム》を筆頭に挙げる。

参考記事:バド・パウエル・イン・パリ/バド・パウエル

また、マイルスの『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』を聴いた入門者は、《アー・リュー・チャ》よりも、ラストの《ディア・オールド・ストックホルム》が好きだという。

参考記事:ラウンド・アバウト・ミッドナイト/マイルス・デイヴィス

たしかに、彼らが演奏する《ディア・オールド・ストックホルム》を聴くと、「ジャズの名演は名曲から生まれる」と思わざるをえない。
良い素材(曲)がジャズマンを触発し、良い演奏を生み出すのだ、と。

先述の『イン・パリ』だって、野暮ったいドラムが伴奏で、パウエルの演奏にも往年のひらめきや輝きは無いにもかかわらず、なぜか素晴らしい演奏に感じてしまうのは、ひとえに「曲の力」といっても過言ではないだろう。

曲の力が演奏者の力量を引き出すから演奏も良いし、それ以前に曲そのものも素晴らしいから、ジャズの演奏の良し悪しがよくわからない初心者も、安心してメロディに浸ることが出来るという相乗効果。
そして、繰り返し聞いているうちに、だんだんとジャズの魅力に開眼してゆくのだろう。

やっぱりゲッツの演奏!

しかし、もちろんパウエルやマイルスの演奏も素晴らしいのだが、曲と演奏者の個性がもっとも一体化しているのは、スタン・ゲッツのバージョンだろう。

ロイヤル・ルースト盤の『ザ・サウンド』に収録されているナンバーだ。
そして、この演奏がジャズにおける初演だ。

もとはといえばスウェーデンの民謡であったこの曲を「発見」したのはスタン・ゲッツ。
ウディ・ハーマン楽団から独立後、スウェーデンのツアーに出かけたゲッツは、現地でこの曲を耳にした際、「(ジャズの素材に)使える!」と直感したに違いない。

後年、ボサノバに目をつけて『ゲッツ・ジルベルト』でヒットを放ったゲッツのこと、「ネタ探し」のセンスには素晴らしいものがある。
しかも、単に「売れる素材」を見つけるセンスではなく、自分の表現スタイルに合致する素材を発掘するセンスだ。

『ザ・サウンド』の《ディア・オールド・ストックホルム》は、まるでゲッツ自身のために作られた曲のように聞こえるし、あるいはゲッツ自身が作曲したかのようにも聞こえるほど、曲と演奏者の一体感を楽しめる。

流麗でメロディアス、ウォームなサウンドながら、必要以上に音に情感を込め過ぎない。しかし、なぜか郷愁を誘うこの時期のゲッツのテナー。

演奏姿勢はクールでありながらも、音の肌触り以上に湿度を感じてしまうのは、おそらくゲッツのテナーには聴き手のイマジネーションを喚起させる何かが宿っているのだろう。

ゲッツは必要最小限の音と旋律を提示し、我々は勝手に脳内でそれを増幅する。
聴き手のイマジネーションに訴えかけるゲッツのこの時期のテナーは、やっぱり凄い!

記:2017/11/14

album data

THE SOUND (Royal Roost)
- Stan Getz

1.Strike Up The Band
2.Tootsie Roll
3.Sweetie Pie
4.Yesterdays
5.Hershey Bar
6.Gone With The Wind
7.Standanavian
8.Prelude To A Kiss
9.I Only Have Eyes For You
10.Dear Old Stockholm
11.Night And Day
12.I'm Getting Sentimental Over You

Stan Getz (ts)
Horace Silver (p) #1,2
Joe Calloway (b) #1,2
Walter Bolden (ds) #1,2
Al Haig (p) #3-6
Tommy Potter (b) #3-6
Roy Haynes (ds) #3-6
Bengt Hallberg (p) #7-12
Gunnar Johnson (b) #7-12
Kenneth Fagerlund (ds) #7-12

1950-1951

●関連記事
>>ゲッツ・ジルベルト/スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト

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