アイム・トライン・トゥ・ゲット・ホーム/ドナルド・バード

      2017/05/22

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アイム・トライン・トゥ・ゲット・ホームI'm Tryin' To Get Home

これほどジャケットと中身のサウンドが乖離しているアルバムも珍しい。

基調は、力強い黒。

ジャケット上部のオレンジ色のオビが、重厚さに拍車をかける。

ジャケット中央で腕を組んでこちらを睨んでるオジサンは、ジャズマンというよりは、カジノのボディガードのようではないですか。

黒服を着込み、屈強そうなポーズ。サングラスをかければ、メン・イン・ブラックですか?

それとも、ボクシングの元へヴィー級チャンピオンの実業家?

そんなに睨まんでもいいのに。

なんかあったんですか? と訊きたくなるほどのガンの飛ばしっぷりなドナルド・バードさん。

シリアスな雰囲気が漂っている。

このジャケ写からは、少なくともハッピーなフィーリングな音は想像しにくい。

ところが、肝心の音はというと……。

ハッピー、ハッピー。豪華絢爛。

楽しく、ゴージャス。

ディズニーランドのナイトショーさながら。

あるいは、アメリカの富裕層の白人たちが、「あーっはっはっは」と高らかに笑いながら手を叩くような豪華客船の中の一流レストランのディナーショーばりのサウンドさながら。

なんだ、なんだ、ランディ・ウエストンばりのアフリカチックでドスンと重たいサウンドを連想した私は腰砕け。

しかし、それは楽しい腰砕けでもある。

ディナーショーばりの音楽ながら、非常にきめ細かいアレンジが行き渡っており、なおかつ重厚で一分の狂いもないほど正確かつ肉厚なアレンジなのだ。

まずは、オケに覆いかぶさるコーラスに耳がいく。

ドナルド・バードにコーラスとくればば、同じくブルーノートの『ア・ニュー・パースペクティヴ』を思い出すが、同アルバムよりもさらに、サウンドと一体化した分厚いコーラスが楽しめる。

おそらく、バードは『ア・ニュー・パースペクティヴ』でコーラスを実験的に起用したことによって、確かな感触を掴み取ったのだろう。『ア・ニュー・パースペクティヴ』では、“ゴスペル風ハードバップ(ファンキージャズ)とコーラスを試みにくっ付けました”的な実験色が無くもなかった。

個人的には、サウンドと微妙に乖離したコーラスとの隙間風を楽しんだりも出来るので、『ア・ニュー・パースペクティヴ』はけっこう好きなアルバムではある。しかし、完成度やサウンドの充実度という面では「あと一歩」というところの否めない作品でもあった。

しかし、このときの手法をさらに押し進めた『アイム・トライン・トゥ・ゲット・ホーム』は、12人のブラス・セクションと、8人のコーラスという贅沢な人員を、見事に一体化させた秀逸なアレンジが功を奏し、非常に充実したサウンドが楽しめる。

また、『ア・ニュー・パースペクティヴ』ではモノトーンに感じたコーラスも、こちらでは七色の声。曲によって色を変えて、演奏に溶け込み、かつ引き立てる。

このアルバムのレコーディング前に亡くなってしまったバードのお母さんに捧げる《アイヴ・ロングド・アンド・サーチト・フォー・マイ・マザー》は沈鬱なナンバーだが、他のナンバーは、ゴージャス絢爛。テイストといえば、彼の代表作『フュエゴ』のラストナンバー《エイメン(アーメン)》のノリノリハッピーな雰囲気に近いかもしれない。

それは言うまでもなく、ゴスペルに強く根ざしたハッピーな高揚感を再現したフィーリングだ。

父親がメソジスト派の牧師ということもあり、幼少時から教会音楽に慣れ親しんだバード。

彼の細胞の隅々までに行き渡っているゴスペルフィーリングが遺憾なく発揮された曲だが、これにコーラスとブラスを加え、バージョンアップしたサウンドが『アイム・トライン・トゥ・ゲット・ホーム』と言っても間違いではなかろう。

ある種、お祭り騒ぎ的熱狂にも近いエネルギーを、バードは知的にアレンジを施し、再構築。このゴージャズ感、高揚感、ラグジャリー感。

コンボ編成のストイックな4ビートが好きな私にとっては、最初は面食らうほどのサウンドだったが、慣れてくると、それはそれで“お祭りハッピー”でイイんではないでしょうか?

参加メンバーも、J.J.ジョンソン、グラント・グリーン、ハービー・ハンコック、スタンリー・タレンタイン、フレディ・ローチと、当時のプルーノートの第一線を張る実力者たちが名を連ね、非常に贅沢な人選となっている。

それにしても、しつこく繰り返すけど、ジャケットの写真、どう見ても“お祭りハッピー”には見えないよね。

記:2008/01/07

album data

I'M TRYIN' TO GET HOME (Blue Note)
- Donald Byrd

1.Brother Isaac
2.Noah
3.I'm Tryin' To Get Home
4.I've Longed And Searched For My Mother
5.March Children
6.Pearly Gates

Donald Byrd (tp,flh)
Ernie Royal (tp)
Clark Terry (tp)
J.J.Johnson (tb)
Jimmy Cleveland (tb)
Benny Powell (tb)
Stanley Turrentine (ts)
Grant Green (g)
Herbie Hancodk (p)
Freddie Roach (org)
Bob Cranshaw (b)
Grady Tate (ds)
and others

1964/12/17-18

 - ジャズ , ,

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