アンダー・ファイヤー/ガトー・バルビエリ

      2017/06/05

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Under FireUnder Fire

ストレートに好きと言いにくい気恥ずかしさ

「ガトーが好きだ!」と正面切っては中々言えないこの気恥ずかしさって、一体なんなんだろう?(笑)

過剰に盛られた哀愁感ゆえ?
微妙につきまとう胡散臭さ(笑)ゆえ?

「アルゼンチン出身の、エスニックな要素がたっぷりの、エキサイティングなプレイをするB級の匂いがプンプン漂うテナー奏者」。

このような、こちらが勝手に文字情報から作り上げたイメージと実際の音との見事なズレのない一致感と、その一致感が発する「なんともベタな感じ(笑)」も、微妙な恥ずかしさにも通じる。

そして、この微妙な恥ずかしさって、ニッポン人としてのDNAにしっくりくる要素があるくせに、演歌の世界を全面的に肯定しきれない屈折した感情に近いのかもしれない。

演歌が醸し出すムードは、きっと心の底では嫌いではないのだが、いや、好きに違いないのだが、外面(づら)を気にする自身の見栄っ張り根性が、「好きなんだけどさぁ~、もうちょっとカッコよくやろうよ、もうちょっと洗練さないもんかねぇ~」と思ってしまうところもある。

それは、「ボクは、ボクのお母さんのことが大好きです!」とか、「ボクは、ボクの奥さんのことを愛してます!」というようなことを人前で言うことへのこっ恥ずかしさに近いのかもしれない。

「好きにきまってるじゃん、そんなもん。でも、おおっぴらに言えるかよ、そんな分かりきったこと。恥ずかしいだけじゃん」というニッポン男児特有の照れもあるのかもしれないし、だからこそ、先日もテレビを見ていたら、いい年したおっさんたちが、奥さんに感謝する日とかで、「愛しているよ~、なんとか子ぉ!」とテレビカメラに向かって叫んでいたが、こういう日でも設けない限り、なかなか我々ニッポン男児は身近な人におおっぴらに「好き」という感情を伝えにくいシャイな民族なのかもしれない(笑)。

てことは、ガトーも我々に身近な存在?



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ホンモノ・ニセモノ論争

そうなんだよ、身近なんだね、アルゼンチンなんだけれども、微妙な郷愁感、ベタな哀愁は、演歌であり、ジャズよりも違和感なくニッポン社会に溶け込み、歌謡曲や演歌にも微妙にそのDNAが融和しているタンゴの哀愁そのものであり、だからこそ、生まれた頃から耳にしているであろう歌謡曲、演歌な要素と共通するDNAを本能レベルでかぎ分けた我々が「ジャズを聴いているんだ!」というヨソ行きモードのさなかに、スルリとこちらの懐にいきなり飛び込んでいるガトーの音楽に対して抱く、「こんなに身体レベルで共振しちゃっていいの?ちょっとヤバくね?」という本能的な警戒心が、我々が(私だけ?)ガトーに抱く微妙な感情につながるのかもしれない。

だから、私はまだ小さかったのでその現場にいたわけではないのだが、一時期ジャズ喫茶では、「ガトーはニセモノだ、いやホンモノだ」という論争が繰り広げられたのだと思う。

痴的カタルシス

脊髄を経由せずに、直接鼻腔から大脳皮質を刺激する柑橘系のエッセンシャルオイルの芳香のように、異文化吸収モードという鑑賞者のフィルター、心の壁をさらりとすり抜け、いきなり感性の核心を付いてくるガトーの音楽に対して、どう距離をとればいいのか分からなかった人たち同士の戸惑いがもしかしたら、「ホンモノ」「ニセモノ」といったよく分からない分類論争に火をつけたのかもしれないね。

ま、そんなことはどうでもよくて、ガトーの『アンダー・ファイヤー』はカッコいい(笑)。

ギターがジョン・アバークロンビー、
ベースがスタンリー・クラーク、
ドラムはアイアート・モレイラ。

強靭なサポートを得たガトーは、がんばる、がんばる、吹きまくる。

歪む音色は、まるでロックのギターのディストーションがもたらす快感。

エキサイティングな吹きまくりのカッコよさは、仮面ライダーのライダーキックや、宇宙戦艦ヤマトの波動砲発射に通じるカタルシス。

間違ってもドルフィーやパーカーの知的高揚感とは無縁な、痴的興奮にも通ずるカタルシス。

私は、フランス映画が好きだと言いつつ、じつは『少林サッカー』も大好きだ(笑)。

ベタでやりすぎだぜ、オーバーだぜ!と思いつつも、それでも『少林サッカー』のラストのシュートのシーンに大笑いをして大興奮してしまう自分がいる。

パーカーが好きな一方で、ガトーも好き。
これは矛盾しない感性だ。

パーカーが好きな自分がガトーを好きなはずながない?

そんな妙なコダワリや定義づけは忘れ、パーカーもガトーも、最近ではチャットモンチーやいきものがかりも好きなんだ!という自分の幅広い感受性(節操のない感受性じゃないよ)をまずは認めてあげようじゃないの。

いいもの、面白いものの種類やカテゴリーは沢山あるんだから、自ら間口を狭めることなく、良さげなものは、何も考えずに、まずは受け入れてしまおう、飲み込んでしまいましょう。

受け入れなかったら、後で吐き出せば良い(笑)。

ダ・カ・ラ。
ガトーを聴こう、みんなで聴こう!(笑)

代表作『サード・ワールド』も良いのだけれど、ここはひとつアグレッシヴでかっちょいい『アンダー・ファイヤー』を一推し!

記:2011/07/06

album data

UDNER FIRE (Flying Dutchman)
- Gato Barbieri

1.El Parana
2.Yo le Canto a la Luna
3.Antonico
4.Maria Domingas
5.El Sertao

Gato Barbieri (ts,vo)
Lonnie Liston Smith (p,el-p)
John Abercrombie (g,el-g)
Stanley Clarke (b)
Roy Haynes (ds)
James Mtume (congas)
Airto Moreira (per,ds)
Moulay Ali Hafid (per)

1971年

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