カフェモンマルトル

text:高野雲

*

ワード・オブ・マウス/ジャコ・パストリアス

      2017/06/12

Pocket

ワード・オブ・マウスWord Of Mouth

ジャコの最高傑作

名実ともにジャコの最高傑作だ。

ジャコ・パストリアスというベーシストは、とかくベースのプレイの面ばかりが驚かれ、かつ語られがちな人だが、作曲面での特異な才能も忘れてはならない。

くわえて、プロデビューの前には写譜屋や音楽の教鞭もとっていたジャコは(ギターのハイラム・ブロックもジャコにベースを習っていた)、作曲やアレンジの能力にも長けていた。

ファースト・アルバムのスリリングで急速調のホーン・アレンジも、じつは彼の手によるものだということは、あまり知られていない。

1枚目の『ジャコ・パストリアスの肖像』が彼のベース・プレイの面にスポットが当てられたアルバムだとしたら、この2枚目は、作曲とアレンジの能力が前面に押し出された内容と言えよう。

もちろん、暇を見つけては練習し、数年かかってようやく弾けるようになったというバッハの《クロマチック・ファンタジー》のベースプレイなど、テクニックの切れ味が凄まじい演奏もあることは言うまでもないが。



sponsored link



打ち込みベース

打ち込みベースとドラムの音だけを、ハービー・ハンコックやウェイン・ショーターら様々なプレイヤーに聴かせながら即興演奏をさせた《クライシス》の「手法」と「アイディア」の面白さ。

おそらくベースの自動演奏はRolandのTR系のマシンによるものだと思われるが、テクノ畑以外の人間がこれを使うとこういうふうになるのかという大胆過ぎるアイディアに最初は度肝を抜かれたものだ。

ジャコの使用機材とは違うと思うけれども、こんな感じのベースラインをシンセベースが奏でてくれる、80年代にテクノに夢中になっていた子ども達にとっては「夢の(?)」マシンだ。
 ↓
acidlab アナログベースラインマシン Bassline3 BK

ベーシストなのに一曲目からベース弾かずにベースの自動演奏なのかよ?!と思わせる意表の付き方もジャコならではの遊び心なのかもしれない。

スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット

そして、このアルバムでもっとも白眉なのは、2曲目の《スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット》だろう。

素朴なメロディでいて、かつ複雑怪奇で難解なコード進行と凝りに凝った構成の見事さ。

トゥーツ・シールマンスのハーモニカも泣けますね。

これ、昔、音楽学校に通っていた頃、アンサンブルのレッスンで、私はこの曲をやろうと提案して実際に皆で演奏することが出来たのだが、その時、講師の板谷博さん(トロンボーン奏者)に手渡された譜面にのけぞった記憶がある。
こんなに変態な曲だったのかよ~!って。

これは、曲の表面であるメロディだけからは伺い知ることが出来ない構造の複雑さを垣間見た気がした。

なんというか、表面はツルッとしたシンプルな外見のアンドロイドも、一皮むけば中身は複雑な機械と回路の集積みたいな、そんな感じ?

正気と狂気の間で生まれたサウンド

他のナンバーをサラリと駆け足で紹介してしまおう。

《リバティ・シティ》におけるフレットレス・ベースの独特な音色を活かしきった特徴あるベースラインと、ブラスアレンジの秀逸さ。

まるで音のおもちゃ箱を突つきまわしたといった様相の《ブラックバード》からラストにいたるまでの、音の快楽。

これら、どれもが無垢で純粋な音楽家のアイディアが洪水のように溢れましたと言わんばかりのスケールの大きなサウンドなのだ。

彼のベースの力量と、作曲とアレンジの才能が見事に結実した、正気と狂気の間で生まれた世にも美しいサウンドの結晶体が『ワード・オブ・マウス』だ。

戦慄が走ると同時に、得も言われぬ悠久の安心感にも浸れる、天才が持つ感性の振幅の広さが見せてくれる音風景だといえる。

個人的には衝撃のデビュー作『ジャコ・パストリアスの肖像』よりも思い入れのある作品だ。

記:2004/07/15

album data

WORD OF MOUTH (Warner Bros.)
- Jaco Pastorius

1.Crisis
2.Three Views Of A Secret
3.Liberty City
4.Chromatic Fantasy
5.Blackbird
6.Word Of Mouth~John And Mary

Jaco Pastorius (el-b,horn arrangement,strings arrangement)
Jaco Pastorius (el-b,vo,etc.)
Hubert Laws (piccolo)
Toots Thielemans (harm)
Snooky Young (tp)
Waren Luening (tp)
Chuck Findley (tp)
Peter Gordon (flh)
John Clark (flh)
Jim Pugh (tb)
William Reichenbach (tb)
David Bargeron (tb)
Wayne Shorter (ts)
Michaerl Brecker (ts)
George Young (reeds)
Tom Scott (reeds)
Herbie Hancock (key)
Jack DeJohnette (ds)
Peter Erskine (ds)
Othello Molineaux (steel-ds)
Don Alias (per)
John Pastorius (vo)
Mary Pastorius (vo)
etc.

1980/08/01~1981/01/08
NYC,LA & Florida

関連記事

>>ジャコ・パストリアスの肖像/ジャコ・パストリアス

 - ジャズ