カフェモンマルトル

text:高野雲

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ユア・アンダー・アレスト/マイルス・デイヴィス

      2017/08/04

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ユア・アンダー・アレストユア・アンダー・アレスト

ポップなマイルス

ポップなマイルス。
キャッチーなマイルス。

復帰後のマイルスのアルバムでは、他にもポップなサウンドのものはあるが、なぜか私にはコレがいちばんポップに感じる。

そこには“帝王”として君臨している男の姿というよりは、ただただ無邪気に音と戯れ、豪華なゲスト(スティングなど)の参加に喜ぶ、一人の老境にさしかかった男の姿がある。

よって、いいんだけど、なんだか物足りない、というのも正直なところ。

ポップでキャッチーな、この手のサウンドも、きっと当時のマイルスにとっての本音の一つだったに違いない。



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「オレの音楽をジャズと呼ぶな」

ジャズの帝王、スタティックなトランペット、卵の殻の上を歩くようなサウンド……。

このようなレッテルは当時のマイルスにとっては重荷以外のなにものでもなかったのでは?

「オレの音楽をジャズと呼ぶな」

こう言い放った彼の心境、このアルバムを聴けばなんとなく頷けるものがある。

ひたすら、ポップなサウンドに溺れ、トランペットで“歌う”ことに熱中したいだけの男の姿がここにはある。

ジャズの文脈としてよりも、(当時の)最新テクノロジーをオケをバックに、声のかわりにトランペットで歌う男が、その時にやりたい気分を優先で作りあげてしまったアルバムとして聴くほうが正解だろう。

じつは、あまり好きではなかった

アルバム全体に通底する音は、80年代中盤はナウかった(笑)であろう、シャリスカ(シャリシャリとして音同士の分離が良くてスカスカ)なサウンドだ。

それゆえなのかもしれないが、マイルスのアルバムは大概好きだけれども、このアルバムに関しては、どうも長い間馴染めないでいた。
自ら積極的に「よし、聴いてみよう」という気にならないマイルスのアルバムの筆頭だったといっても良い。

アンサンブルもビシッと統制とれている演奏もあるし、そこらへんのフュージョンバンドよろしく、ベース、キーボード、トランペットのユニゾンがビシッと決まっている箇所もある。

あ、だから逆に安っぽく感じたのかな。

演っているほうは楽しいし気持ち良いのかもしれないけど(私もその快感はもちろん分かる・楽器弾きとして)、聴いているほうとしては、サーカス芸や手品のようなものだからね、そういうアンサンブルのビシッ!さはね。

「ほぉお、すげぇなぁ」と感心はするけど、感動はない。

なんだかよく分からないけれども、深い意図があるに違いない。
表面的なサウンドとは裏腹に、もっとどこかに底知れぬ謎が隠されているかもしれない。

マイルスの音楽を聴きたくなる動機ってそういうことが多いし、たとえそうじゃないにしても、必ず「謎めかし」な部分がある。

しかし、このアルバムに決定的に欠けている、いや、少ないのが、この「謎めかし」の成分だと思う。

たとえば、それの前の『デコイ』にしろ、その後の『TUTU』にしても、ポップっちゃぁポップよ。

軽いっちゃあ軽い。

だけども、『デコイ』には妖しいオーラが全編を通してまぶされているし、『TUTU』にも実際の音を音以上に感じさせる、なんだか巨大そうな何かが潜んでいるような気がした(いや、それは『アマンドラ』のほうがもっと上か。『TUTU』はもうちょっと軽い)。

しかし、『アンダー・アレスト』には、ほとんど、そういうサウンド以外に潜む何者かを感じさせる指数が低い。

それが、あまり私が聴く気がおきなかった理由なのかもしれない。

あとは、音色、かな。

別にシンセを多用しているからというのが理由じゃないよ。

シンセだったら先述したアルバムも使用している。

ただ、あれなんだよね、いかにもプリセットされた音をそのまんま使った感が満載で、音色に深みがない。

それは、ミックスのせいもあるかもしれない。

なんとなく音の分離が良いぶん、サウンドの距離感がなんとも。

パシャパシャ感満載。

ゆえに軽く感じるのかもしれない。

やはりトランペットは素晴らしい

しかし、それはあくまで、全体のサウンドの話。

時代の音としての音色やアンサンブルにはいったん目(耳)をつぶり、各論で各楽器奏者の音色を聴くと、まずは、やっぱりマイルスのトランペットが良いことに気が付く。

太く、輪郭がハッキリクッキリ力強い。
とくにミュートよりも、オープン。

ミュートもいいが、オープンのマイルスのトランペットも大好きな私にとっては、それは嬉しいこと。

ジョン・スコフィールドのギターもカッコいいことはいいが、メロディを大事にするマイルスのトランペットプレイが、やはり本作最大の聴きどころか。

特に、マイケル・ジャクソンの《ヒューマン・ネイチャー》や、シンディ・ローパーの《タイム・アフター・タイム》。

胸を締めつけるような深みのあるマイルスのトランペットが最高だ。

マイケルやシンディのオリジナルも秀逸ではあるが、マイルスがカバーすることによって、曲の格調が数段高くなってしまった。

ちなみに《タイム・アフター・タイム》のアレンジはギル・エヴァンス。オリジナル・ソングのサビにあたる箇所を省いたのも彼の指示なのだろうか?

終始チャカチャカしたバックのサウンドには、ズッシリとしたアコースティックジャズのテイストは望むべくもないが、マイルスのデリケートなミュート・トランペットのプレイは、『スケッチズ・オブ・スペイン』や『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』の頃の格調高さと変わることはない。

記:2009/05/20

album data

YOU'RE UNDER ARREST (Sony)
- Miles Davis

1.One Phone Call/Street Scenes
2.Human Nature
3.Intro: MD 1/Something's On Your Mind/MD 2
4.Ms. Morrisine
5.Katia Prelude
6.Katia
7.Time After Time
8.You're Under Arrest
9.Medley: Jean Pierre/You're Under Arrest/Then There Were None

Miles Davis (tp,voice-#1,syn-#5,6)
John Scofield (el-g) #1,2,3,7,8,9
John McLaughlin (el-g) #4,5,6
Robert Irving (syn)
Darryl Jones (el-b)
Al Foster (ds) #1,7,8,9
Vince Wilburn (ds) #2,3,4,5,6
Steve Thorton (per,voice-#1)
Sting (voice) #1
Marek Olko (voice) #1
James Prindiville (handcuffs) #1
Gil Evans (arr) #7

1984/01/26 #7
1984/12/26 & 27 #1,2,3,8,9
1985/1月 #4,5,6

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