キモノ・ステレオ/飯島真理

   


Kimono Stereo

4枚目は「グレイ」

飯島真理の4枚目は「灰色」。

1枚目はピンク、2枚目は白、3枚目は緑。

で、4枚目は?

今までのアルバムタイトルが色の名前だったのに、突然「着物」ときたものだから、このアルバムの発売日にレコード屋さんの店頭では面食らったものだが、よくみるとタイトル下に小さく「GRAY」と表記されていたので、「今回は“地味色”だから小さく目立たないようにしたのかな?」などと思ったものだ

ロンドンでレコーディングをしたことが売りの本作だが、正直、これより前に発表された3作品に比べるとクオリティが一段も二段も下がった感じがして、当初はガックリきたことを覚えている。

ストレートだが平板なサウンド

ファーストアルバムからサードアルバムにかけては、国内の有能なアレンジャー、プロデューサーがバックについていたこともあり、繊細なハーモニーやカラフルで陰影に富んだ楽器の絡み、バランスなどが非常にメリハリのあるカタチで構築され、飯島真理が作り出す歌の世界を彩っていた。
このことが『キモノ・ステレオ』を聴くことによって、逆に強く実感できる。

つまりは平板なのだ、全体的なサウンドの作りが。

良く言えば、ロック色、それもキーボード入りのカラフルなロック色が従来のアルバムの中ではもっとも強く出た作品で、好意的な解釈をすれば、音作りとアレンジがシンプルで平板になったぶん、骨太さが増したとも言える。

しかし、骨太でシンプルになればなるほど、飯島真理の曲は、当時の同世代のシンガーソングライターの中では抜きん出たものがあったにせよ(実際、このアルバムのレコーディングメンバーだったキーボード奏者のマックス・ミドルトンに作曲能力を認められている)、かつてのプロデューサーである坂本龍一や吉田美奈子、そして清水信之によって、音楽性の高い立体感のあるアレンジに彩色されていたのだということが逆説的に浮かび上がってくる。

歌詞も含めて、十代の少女的な感性が少々混ざりつつも、背伸びをして大人びた自分でありたいというころが彼女の楽曲の良いところでもあり欠点でもあるのだが、上記3名のプロデューサーは、いかにその欠点にあたる部分を目立たぬよう上手に奥にひっこめ、良い部分にさりげなく化粧を施し、「10」の原曲を「12」にも「13」にも膨らませていたということが分かるのだ。

《瞳はエンジェル》がベスト

しかし、だからと言って、このアルバムに収録されているナンバーのすべてがイマイチというわけでは決してない。

まずは《名前のないアベニュー》に魅了された。

また、シングルで発売されていた《セシールの雨傘》は、アルバムヴァージョンのほうがスッキリとシャープになっている。
スピード感があり、もっさりとしたドーナツ盤(当時はシングルレコードで発売されていた)よりも数段アカ抜けたサウンドとして蘇っている。

そして、このアルバムの中でもっとも白眉なナンバーは《瞳はエンジェル》だろう。

歌詞の内容は、ありきたりなOLの日常陰鬱ラブソングではある。
しかし、サビの「♪Ah~瞳はエンジェル・そう嘘はわかるの・傷つけるその前に・さよならを言って」は、ありふれた決め言葉かもしれないが、サビのメロディとの一体感が半端なく、かなりの説得力がある。
ただ、リフレインで続く「♪もう恋はしたくない、悲しくなるから」で、いきなり言葉の世界チープになっちゃうんだよな、こう続けるしかないにしても。

しかし、このナンバーは、曲調とテンポが良いと思う。

サビも良いし、少々長めのギターソロも、歌詞の世界観を盛り上げる役割を十全に果たしている。
間違いなくこのアルバム中のベスト曲だろう。

「輝き」の持続力が弱い

逆に《憧れ》や《Diary》は、個人的には、なんとなく子どもっぽくて好きではないかな。

《I LOVE YOUは言えない》もイマイチだなぁ、《3つのルールy》はバージョン違いはイランしなぁ。

つまり個人的には刺さる楽曲が少ないことが飯島真理のアルバムの中では、個人的にはワーストに位置付けられているのかもしれない。

いや、好みではない曲の多さは『ブランシュ』のほうが上回っているかもしれない。
しかし、嫌いな曲が多くても、吉田美奈子によるアレンジが醸し出す独特でストイックな世界が、すべてのナンバーの隅々にまで行き渡っていたから、結局アルバム単位で聴けてしまうのだ。

それに比べると『キモノ・ステレオ』の場合は、アレンジやサウンドのテイストが1~3枚目までのアルバムと比較すると、少々散漫に感じる。

そして、先ほどの《瞳はエンジェル》のサビではないが、ゾクッと鳥肌が立つほど素晴らしい瞬間もあるのだが、次のリフレインではガクッとテンションが落ちてしまうこと、つまり、輝きの持続力がないところも、このアルバムの弱いところなのかもしれない。

それは、個人的には大好きな《名前のないアベニュー》も同様で、サビの「♪何も変わらない景色・人は穏やかに暮らしてる」のようにグッとくるところもあるのだけれども、このような一瞬光る箇所が少なくないにも関わらず、その輝きを持続しきれないところが、アーティスト・飯島真理の表現内容を汲み取りきれなかったロンドンのプロデューサーやスタッフ達との間に生じた「言葉の壁」の問題だったのかもしれない。

後の海外志向を暗示していた作品

もちろん、「サウンド良ければすべて良し」という考え方も認めないわけではないが、こと飯島真理の作り出す歌の場合は、歌詞の言葉をどう彩るかという発想がプロデュースをする上では非常に重要になってくるのではないかと思う。

少なくとも『ブランシュ』の吉田美奈子と『midori』の清水信之は、歌詞の世界を吟味しながら音色選びやサウンド構築を念入りにしていたに違いないと思わせる痕跡がアルバム中にいくつも散見される。

いつまでたっても『マクロス』のリン・ミンメイを求める日本のアニメオタクたちに愛想をつかしたのか、その後の彼女は国内よりも海外志向にシフトしていくが(そしてロスで外国人ミュージシャンと結婚する)、それとシンクロするかのように、楽曲のサウンド、アレンジが、初期の3枚とはかけ離れたものになってゆく。

その方向を早くも暗示していたアルバムが『キモノ・ステレオ』だったのかもしれない。

収録曲

KIMONO STEREO (Victor)
- 飯島真理

1.嘆きのスーパースター
2.3つのルール
3.ピンクのルージュ
4.憧れ
5.瞳はエンジェル
6.I Love Youは言えない
7.Diary
8.名前のないアベニュー
9.セシールの雨傘(Version II)
10.3つのルール(Reprise)

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