レキシントン・クイーン/坂本龍一

      2021/02/17

シングル《ウォー・ヘッド》のB面

《レキシントン・クイーン》は、発売当時は色つきシングルが衝撃だった《ウォー・ヘッド》のB面のナンバーです。

私は《ウォーヘッド》よりも《レキシントン》の方が好きだな。

最初にこのドーナツ盤レコードを聴いたときは、紫色のあまりにカラフルな盤面ゆえ、A面とB面を間違えて、B面の《レキシントン・クイーン》の方を先に聴いちゃったのね。

で、尖ったピコピコサウンドに一気にやられてしまいまして、「嗚呼、《ウォー・ヘッド》最高!」だなんて、アホなカンチガイをしたのが《レキシントン》との出会いなのであります。

音程外したシンセソロ

《レキシントン・クイーン》のカッコ良さを挙げればキリがないのですが、特に、曲後半のシンセサイザーのソロのカッコよさといったら、これはも筆舌に尽くしがたいものがありますね。

わざと音程を外した音色でソロをとる教授(坂本龍一)。

あの音色で、ちょっと《ライオット・インラゴス》に似た旋律をぶっきらぼうに弾いているんですよ。

この箇所が、当時中学生だった私の心を鷲掴み。
完全にハマってしまいましたね。

メンバーYMO、そして大村憲司

しかも、ベースは細野さんだし、ドラムは高橋幸宏だし。
メンバーは、もう完全にYMO。

さらに、YMOのツアーのサポートメンバーとして参加していた大村憲司もギターで参加している!

しかも、曲のラストでこぼれるように残存している、ジャッ!ジャッ!というエッジが立ちまくったギターのカッティングが滅茶苦茶カッコえぇ!

『B-2 unit』もそうとうにトガったカッコいいアルバムだけれども、こちらも痺れるほどのカッコ良さがあるではないか!

>>B-2 unit/坂本龍一

この時期の教授は、ほんと触ればヤケドをしてしまうほど、尖ってカッコ良かったのです。

ほんと、『B-2 unit』にしろ、《レキシントン・クイーン》にしても、音がいちいち攻撃的でヒリヒリとこちらのマインドに迫ってくるのです。

ちなみに『B-2 unit』にも大村憲司が参加していますが、《E-3A》のアジアンテイストな旋律や、《not 6 o'clock news》の尖ったカッティングも彼のギターによるもの。
※失礼!《not 6 o'clock news》のギターはXTCのアンディ・パートリッジでした。

大村氏は、この時期の「尖った教授」の意図を汲み、音として再現できる貴重な人材だったのでしょう。

ズレた音色

のちにKORG(コルグ)のシンセサイザーMONO/POLYを買って、奇妙な音作りに勤しみ、親・兄弟からは頭がイカれたんじゃないかと心配されるようになる私。

>>コルグとローランド。音色で作風が左右されたかつての僕ら

このMONO/POLYには「Detune」というツマミがありまして、このツマミをひねると、音程がズレた感じの音に変化するんですよ。

先述した《レキシントン・クイーン》の「カッコいいシンセソロ」ですが、「なるほど、教授はこの機能を使っていたんか!(機種は違うけど)」ということに気が付くと、それ以後の私はDetune機能で調律が外れたような音ばかり使って曲を作り、ラジカセを駆使して多重録音しまくっていたので、ますます親・兄弟からは頭がイカれたと思われていたものです。

双子のナンバー

このレキシントン・クイーンのかっちょええピコピコノイズや、ヴォコーダーを通したヴォーカルを聴いた後に、レコード盤をひっくり返して《ウォー・ヘッド》を聴くと、キャチーでノリが良いことはわかるんですが、どうもシックリとこないんですね。

聴き終わると、再びレコードをひっくり返して《レキシントン・クイーン》を再聴しているという。

この2曲を聴き比べると、サビの旋律が同じということに気づき、なるほど、《レキシントン・クイーン》と《ウォー・ヘッド》は双子のナンバーなんだなということに気が付きました。

安定したテンポの《レキシントン・クイーン》をアップテンポかつキャッチ―にしたのが《ウォー・ヘッド》なんじゃないかな、ということを発見。

ちょっと違うかもしれないけど、「テーマ」と「変装」の関係なのかもしれない。

ヤマハ音楽教室の幼児科と、ジュニア科アンサンブルに通っていた私は、メインとなるシンプルな曲を弾いた後に、そのメロディを崩した旋律を弾く練習をしょっちゅうやらされていました。

そして、私の場合は基となるメロディの譜面を見て弾くよりも、変装バージョンの譜面を見て弾く方が好きだった。

その頃から性格がひねくれていたのか、ストレートで真っ直ぐなメロディよりも、崩しの入った旋律の方に心おどる子供だったのです。

だから、《レキシントン・クイーン》の方がウォーヘッドよりもシックリきたのかもしれませんね。

YMOとその周辺のミュージシャンの音楽に夢中になっていた中学時代を経て、高校時代に様々な音楽を聴き、その延長線上でジャズにハマっていった私ですが、ジャズにおいても、やはりテーマのメロディを崩して演奏するアレンジの方が好きですから。

スタンダードの《枯葉》だったら、ストレートにメロディを吹くマイルスのトランペットも悪くはないけど、やっぱりビル・エヴァンスが弾く「崩し」のはいった《枯葉》の方が心躍りますからね。

>>ポートレイト・イン・ジャズ/ビル・エヴァンス

スライの《サンキュー》

そういえば大学にはいってから気が付いたんですが、《レキシントン・クイーン》の基調をなす電子音のリフ(?)の譜割りが、スライの《サンキュー》のベースラインに似ていますね。

スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンの名盤『暴動』のラストナンバーね。

>>ソファが深く深く沈んでゆく音楽~『暴動』スライ&ザ・ファミリー・ストーン

この曲の印象的なベースを弾いているのはラリー・グラハム。

そういえば、以前なにかの雑誌で教授が影響を受けた(好きな?)アルバムの1枚にスライの『暴動』を挙げていたから、もしかしたら意識していたのかも。偶然かもしれないけど。

あと、NHKの『スコラ~坂本龍一 音楽の学校』で、YMOが《サンキュー》を演奏していましたね。

『暴動』は、教授のみならずYMOのメンバー3人がともに関心のあったアルバムだったのかもしれませんね。

収録CD

さて、《レキシントン・クイーン》の音源について。

これを聴くなら、その時代特有のムードも一緒に味わえるため、ぜひ紫色のドーナツ盤に針を落とすのが一番だとは思うのですが、今となってはレコードを再生するプレイヤーをお持ちでない家庭の方が多いと思います。

それに、そもそもレコードは中古でしか手に入リマセン。

ですので、CDで聴くしかないのですが、現在は、ロビン・スコットと坂本龍一のミニアルバム『ジ・アレンジメント』にシングルナンバー4曲が追加されたCDを聴くしかないのです。

記:2014/04/26

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