カフェモンマルトル

text:高野雲

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マルーンズ/ジェリ・アレン

      2017/04/15

MaroonsMaroons

ハービー・ニコルス

学生時代はエリック・ドルフィーを研究し、プロとしてデビューの後は、セロニアス・モンクやバド・パウエルのナンバーに挑戦、その後はオーネット・コールマンやチャーリー・ヘイデンのナンバーを弾くなど、ジャズマニアが喜びそうなツボを突きまくってきたジェリ・アレン。

では、そんな彼女のピアノが持つ佇まいは、モンク的? それともパウエル的?

もちろんジャズピアノの二大イノヴェイターの影響を受けていないわけはないし、その後の世代の先鋭的なピアニスト、たとえばセシル・テイラーやアンドリュー・ヒルの研究もしているのではないかという箇所が随所に現れる。

しかし、彼女が弾くピアノのアプローチではなく、音が持つ佇まいは誰に近いのかというと、私はモンクやパウエル以上にハービー・ニコルスを感じる。

それが如実に感じられるのが、『マルーンズ』の冒頭を飾る《ベッド・ステイ》だ。

ニコルスのピアノ

ハービー・ニコルスは、個人的にはモンクほどではないが好きなピアニストの一人だ。

彼のレコーディングはすべて揃えたほど、一時期はニコルスばかり聴いていたこともある。

ニコルスは、モンクほど「分かりやすくヘン」ではないが、「よく聴くとかなりヘン」なピアノを弾く。

つまり、モンクをオープンスケベだとすると、ニコルスのピアノはムッツリスケベ的な変態度がフレーズや和声の随所に散りばめられており、ハマる人はハマるだろうし、馴染めない人は一生馴染めない、聴き手を選ぶピアニストだと思う。

このニコルスが持つ独特の音的佇まい、重く鈍い鉛色の響きは、ジェリ・アレンが「本音」を出した瞬間に漂う音の空気に似ていると感じる。

もちろん彼女はどこまでニコルスを研究したのかは不明だが、仮に研究していないにしても(あるいはまったく意識していないにしても)、音に宿る表情のようなもの、聴き手に与える印象のようなものは、どこかしら共通したものを感じる。

ジェリとハービー

両者に共通していることは、語弊を恐れずに言えば、「面白くないフレーズも聴かせてしまうところ」だ。

「面白くない」というのは言い過ぎかもしれない。
急いで言い直せば、キャッチ―ではないフレーズ、耳に残りにくいフレーズを連発するくせに、なぜか耳をそばだててしまう音の強さとでも言うべきか。

これはアンドリュー・ヒルにも言えることかもしれない。

いずれにしても彼らは必要以上に聴衆に媚びない。
こう弾いたらリスナーは喜ぶだろうという意識はもちろん意識の根底にあったのかもしれないが、それ以上に、今この瞬間、自分がもっとも出したいフレーズと響きを優先させるタイプなのだろう。

そして、出したい音を(ハーモニーやタイミングなどに工夫をすることで)より深く磨きをかけた最善の状態で表出させたいという内的欲求を優先させるピアニストゆえ、ジャズ初心者にはとっつきにくく、逆にジャズマニアになってくると中には熱狂的なマニアが少なからず存在するということも頷ける話だ。

アレンの本領発揮

ジェリ・アレンは同じレーベル(ブルーノート)から、非常に明快で分かりやすい『トウェンティワン』というアルバムを出しているが、こちらの『マルーンズ』は、本当に同じレーベル、同じピアニストなの?と訝ってしまうほど演奏スタイルが違う。

重たく粘っこいジェリ・アレンの本質は、こちらのほうに表れていると感じる。

尖ってダークで重たいアレンの先鋭的な感覚が、優れたリズムセクションに支えられることで遺憾なく発揮されている。

ニコルス的なムードが漂う冒頭ナンバーや、元気なベースとの絡みがゾクッとくる《ノー・モア・ミスター・ナイス・ガイ》もカッコ良い。

ドスンときてゾクッとくる要素があれば、これすなわち良いアルバムであることの証し。特にジェリのような先鋭的な感性を持つピアニストには、この要素が必要不可欠だろう。

トランペットいらん論

基本、ピアノトリオの編成だが、中にはウォレス・ルーニーらトランぺッターが加わった演奏もある。

ウォレスらトランぺッターの気合いの入りっぷりは悪くはないが、「新主流派全盛期にブルーノートに吹き込んだフレディ・ハバードの真似をしてるだけじゃん?」的なプレイも散見されるため、正直、トランペット参加の曲を入れずに、ピアノトリオだけのアルバムにすれば良かったんじゃないかとも思ってしまう。

そして蛇行を繰り返すテーマのメロディも、トランペットが旋律をなぞると、どこかウイントン・マルサリスの登場でアコースティックジャズが息を吹き返しはじめた80年代前半の新伝承派的な空気が漂い、それはそれで悪くはないのだが、ジェリ・アレン的ムードが半減されてしまうのが惜しい。もちろん彼女のバッキングには独特なものがあるので、そちらの方に耳を傾けるという楽しみ方はあるのだが……。

とはいえ、この『マルーンズ』は、15曲と曲数が多く、最後まで聴き通すにはいささか疲れてしまうことも正直なところ。
トランペットが参加している曲を削るなどして、10曲前後に収めれば良い長さとなり、アルバムとしても良いバランスの作品になったのにと思っている。

意欲的なことは分かるんだけれども、もう少し曲数を削ったほうがアルバムとしての「顔」が明確となり、さらに良い作品になったのかもしれないと考えると、少々残念ではある。

album data

MAROONS (Blue Note)
- Geri Allen

1. Feed The Fire I
2. No More Mister Nice Guy
3. And They Partied
4. Number Four
5. A Prayer For Peace
6. Mad Money
7. Two Brothers
8. Feed The Fire II
9. Dolphy's Dance
10. For John Malachi
11. Laila's House
12. Feed The Fire III
13. Brooklyn Bound 'A'
14. Bed-Sty
15. Maroons

Geri Allen (p)
Marcus Belgrave (tp)
Wallace Roney (tp)
Anthony Cox (b)
Dwayne Dolphin (b)
Pheeroan AkLaff (ds)
Tani Tabbal (ds)

February 11–14, 1992

記:2017/01/03

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