マイルス・スマイルズ/マイルス・デイヴィス

   


Miles Smiles

いきの良い4ビートジャズ

ウェイン・ショーター加入後のマイルス・クインテットのスタジオ録音の4部作(『ESP』、『マイルス・スマイルズ』、『ソーサラー』、『ネフェルティティ』)の中では、一番オーソドックスな「4ビートジャズっぽい」アルバムかもしれない。

『ソーサラー』や『ネフェルティティ』のように独特なムードをたたえた作品も好きだが、私の場合は、どうも「“ジャズ”を聴こう」と思って手が伸びる作品ではないのだ。

『ソーサラー』(のムード)を聴こう、『ネフェルティティ』(のムード)を聴こうと思って手が伸びる作品なのだ。ややこしいけど。

その点、『マイルス・スマイルズ』は、「イキの良い4ビートのジャズを聴こう」というシンプルな欲求にストレートに応えてくれる最適なアルバムなのだ。

マイルスのスマイル

ちなみに、笑っただけでアルバムのタイトルになってしまうマイルス。

何人かのマイルスと親しかったミュージシャンや評論家のインタビューなどを読むと、マイルスはパブリックでは、あえて気難しいイメージを作っていたようだ。

やはり「帝王」となると、いろいろな人が寄ってきたり、たかってきたりと大変だったのでしょう。それと、自らの音楽を権威づけるための「気難しいアーティスト」を演出する作戦だったのかもしれない。

しかし、いったん心を開けば、本当にフレンドリーで友人想いの人だったという。

もちろん、自分でも「双子座のAB型だからオレは4重人格だ」と言っていたとおり、どんなに親しい間柄でも、地雷を踏んでしまうと容赦ない攻撃に遭った人もいるようだから(例:クインシー・トゥループ)、根っこの部分は神経質な人だったのかもしれないが、基本、プライベートでは「スマイル」の多い人だったことは確かだったようだ。

そういえば、こういう珍しい写真もありますね。

すっごい貴重なショットですね。

このような笑顔は、ジャケットやライブ映像ではお目にかかったことがない。

あ、そういえば、『ビッチェズ・ブリュー』の中ジャケの裸マイルスは笑ってましたね。

と、余談はさておき、私は『マイルス・スマイルズ』が大好きなのだ。

「弾かない」ハンコック

私の耳が保守的だからなのかもしれないが、一番ジャズ的な躍動感を感じるというのも、本作を好きな理由の一つ。

ちょっと先鋭的な4ビートと、スタンダードでもバップでもない、なんとも形容しがたい不思議なメロディラインの連続。

発表された当時は、「時代の先を行く4ビート」的な位置づけだったのだろうが、今現在の耳で聴いても、充分尖って刺激的な4ビートだと思う。

また、このアルバム全体を支配する、ピーン!と張り詰めた緊張感もたまらなく良いし、演奏もスリリングだ。

トニーが大きく前に出て形成する躍動感のあるリズム、ハリのあるマイルスのトランペット。

かなり自由な演奏で、局面によっては、かなりエグイこともやっているが、違和感はまったくない。

シャープで洗練された演奏が続くのも嬉しい。

そして、このアルバムが好きなもう一つの理由は、ハービー・ハンコックのピアノだ。
彼の「弾かないピアノ」が最高に格好良い。

マイルスやショーターがソロを取っているときなど、ピアノレス・カルテット(トリオ?)の演奏なのかと思うほど、ハンコックは殆どバッキングをしていない。

私がこのアルバムに対して、研ぎ澄まされたイメージを抱くのは、一つに、「ピアノのバッキングの無さ」があると思う。

ピアノソロのパートになっても、ほとんど低音域を徘徊するようなシングルトーン。明晰で鋭いフレーズが単音で奏でられるところがなんともクールだ。

ハンコックのピアノといえば、私は真っ先に複雑で理知的な響きを感じる和音の響きを思い出すが、このアルバムでは、《フリーダム・ジャズダンス》を除けば、ほとんど彼の和音は聴けない。

しかし、逆にハンコックの、まるで3人目のホーン奏者じゃないかと思わせるほどのシングルトーンを楽しめ、別な角度からハンコックというピアニストの持つ資質を窺い知ることの出来る内容となっている。

マイルスの「声」

《ジンジャー・ブレッド・ボーイ》の演奏終了後に、録音の出来をプロデューサー(テオ・マセロ)に尋ねるマイルスの「テオ~、テオ~、テオ~」という嗄れ声も、このアルバムのラストのムード高めるのに一役買っていると思う。

『リラクシン』の出だしの声もそうだが、自分の声をも効果的に使って、演奏のムードを高め、聴衆の耳を引きつけるワザを持っているのは、ジャズ界広しといえども、マイルスだけだろう。

ちなみに、タモリは、学生時代は早稲田のジャズ研(ダンモ)に所属していてトランペットを吹いていたが、彼がトランペットをやり始めの頃にコピーした曲が、このアルバムの一曲目、《オービッツ》なのだそうだ。

記:2002/09/04

album data

MILES SMILES (CBS)
- Miles Davis

1.Orbits
2.Circle
3.Footprints
4.Dolores
5.Freedom Jazz Dance
6.Ginger Bread Boy

Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tonny Williams (ds)

1966/10/24 #1,2,4,5
1966/10/25 #3,6

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