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ジャズと映画とプラモの日々:高野雲

ナポレオンフィッシュと泳ぐ日/佐野元春

      2018/04/06

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ナポレオンフィッシュと泳ぐ日

本場ブルースではない濃厚なブルース

なぜかブルースを感じる。

もっとも、黒人が奏でるそれではなく、また、シカゴブルースのような「ド」がつくほどコテコテで暑苦しいものでもない。

むしろ、その対極ともいえる寒くて澄んだブルースだ。

いや、「寒い」というと語弊があるかもしれない。

アメリカ南部のブルースのように、だだっ広く、おおらかで、良い意味で大雑把なニュアンスとは対極な、シャープでエッジの立った北半球、それも緯度が高めの空気が似合うブルースだ。

それは本作がイギリスでレコーディングされたという私の先入観も手伝っているのかもしれないが。



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野性的で冴えてる連中

このアルバムの中で私が好きなナンバーの一つに《ボリビア》がある。

サビで繰り返される「野性的で冴えてる連中」というフレーズは、まさにこのアルバムに封じ込まれているインテリジェンスさが前面に漂いながらも、どこか野性味を帯びた視線で社会を、そして人間を冷徹な目で捉えている冷やかさがある。

佐野元春の歌唱、そして時にはシャウトの中には、これまでのアルバムの中では(これは6枚目のアルバム)、もっともイギリス流の「ロックンロール」を感じ、だからといってイギリスに寄りかかってもおらず、ましてやアメリカでもない、さらには決して母国の日本的でもない。

それなのに、なぜか濃厚な「ロック」を感じてしまうのはなぜなのだろう。

そして、その底流に流れる意識のようなものは、シカゴでもメンフィスでもカンザスシティでもニューヨークでもない、まぎれもなく異なる大陸と文化圏で精製されたブルースなのだ。

それが《雪-あぁ世界は美しい》や《ふたりの理由》のように過度なまでに抒情的なナンバーであってもだ。

ソフトでウェットなところが前面に出ていながらも、このアルバムに収録されたナンバーの多くのサウンドにはソリッドでタフなところが必ずある。

特に《新しい航海》や《シティチャイルド》なんか、心地よさと骨太なソリッドさのバランスが非常に心地よいナンバーといえるだろう。

言葉の底の何か

個人的には、冷たくウェットな《雨の日のバタフライ》と先述した《ボリビア》が好きだ。
この2曲が続けて聴ける曲の並びも好きだ。

もちろん、目玉曲である《約束の橋》も素晴らしいし、後年リメイクされている《ジュジュ》もキャッチーで愛くるしいナンバーだが、音楽に、あるいは生きることに対して切実に何かを求める姿勢が、言葉の底に何かを垣間見させてくれるのが、私にとっては《雨の日のバタフライ》や《ボリビア》だったりするのだ。

『ヴィジターズ』もそうだったが、これまでの流れを断ち切った、突然変異的でありながらも、こちらの感性の守備範囲を大きく逸脱した極上音楽をさりげなく「ポン!」と提示したのが6枚目の『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』だった。

それも、昭和から平成に移り変わった、ある意味、価値や時代が揺れ動かんとする不安と期待が入り混じった明るくも空っぽな時代のエアポケットの中に突然投げ込まれた作品であることも、当時リアルタイムで聴いていた者としては感慨深いものがある。

記:2012/02/09

収録曲

1. ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
2. 陽気にいこうぜ
3. 雨の日のバタフライ
4. ボリビア-野性的で冴えてる連中
5. おれは最低
6. ブルーの見解
7. ジュジュ
8. 約束の橋
9. 愛のシステム
10. 雪-あぁ世界は美しい
11. 新しい航海
12. シティチャイルド
13. ふたりの理由

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 - 音楽

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