ベースの音色と指の肉質の関係

      2018/09/10

yubisaki

音色は指の肉質に左右される

極論してしまえば、ベースの音は楽器の特性以上に、指質で決まる。

もちろん、ピック弾きではなく、指弾きが前提の話だけれども。

指の形、硬さ、太さ。

これで、音の大部分が決まってしまうと言っても過言ではない。

「これ言っちゃおしまいよ」的なことなのかもしれない。

実際、水野正敏もジャコ・パストリアスの分析本で同じことを述べていて、“書いて良いのか悪いのか迷ってしまう”と前置きをしつつも、音色の大部分は、指の肉質で決まるとしている。

同じベースで、こうも音が違う

私がベースを弾くと、極端なこと言ってしまえば、ジャズベースだろうが、プレシジョンだろうが、ミュージックマンだろうが、リッケンバッカーだろうが、全部同じような音になってしまう。

何を弾いても、結局「俺音色」なのだ。

もちろんベースの特性は音色に反映されてはいる。世間並みに、プレシジョンは太めの音だし、ジャズベースだと硬く絞まった音色だ。
しかし、音色の雰囲気が全部一緒なのだ。

たとえば、プレシジョンベース一つとっても、ベーシストによって実にさまざまな音色が存在する。

ジェームス・ジェマーソンは、ポトン!といった感じ(ミュートが付いたブリッジのカバーの影響も大きいが)。

アイアン・メイデンのスティーブ・ハリスはバキバキだ。

タワー・オブ・パワーのロッコは、ポコポコだ。

初期のブランドXのパーシー・ジョーンズはムニョモニョした感じだ。

初期のポール・ジャクソンはブンニッ!といった感じの音だ。

初期のブーツィーは、ゥンビャッ!といった音だ。

と、だんだん意味不明な擬音になってきたのでこのへんで止めるが(アホ)、セッティングや奏法や材や弦の違いはあるにせよ、同じプレシジョンベースという“低域が太い”という特性を持ったベースでも、ベーシストが違うと、こうも音が違うのだ。

ジャコの音色

あと、ジャコ。

これも水野正敏が書いた本の受け売りだが、ジャコの指はかなり硬くて、肉厚で、とてもよい指をしていたようだ。

ジャコのあのフレーズと奏法は、弦高をペタペタに低くして、思いっきり力を抜いて弾いた結果生まれたサウンドだ。

弦を「はじく」というよりも、「触れる」「撫でる」ぐらいのニュアンスの奏法なのだそうで、それでも、音の芯はすごくしっかりしている。

もちろん、鳴りの良いフェンダーの60年製ジャズベースと、アコースティック・アンプとの組み合わせといった機材面のこともあるだろうが、彼が晩年、ベースを売ったり捨てたりしたため、誰かのベースを借りて弾いたときのライブ音源を聴いても、やはり同じ音色なので、いかにジャコの指の肉質によって、“あの音色”が決定づけられたかが分かる(ちなみに、教則ビデオではフレッテッドを弾いていたが、やはりジャコならではの音色だった)。

以上のことから、サドゥスキーを買ってもマーカスのような音になるとは限らないし、ウォルを買ったからといってミック・カーンのような音色で弾けるとは限らないことがよく分かっていただけたと思う。

変えられる領域を変えるための努力をする

指と音の問題は、弦に触れる指の接地面積を工夫するぐらいしか、「努力可能な領域」は、はっきり言って残っていない。

私の場合、ウッドベースは人差し指の側面いっぱいを使い切るような感じの一本指奏法(チャールズ・ミンガスとレイ・ブラウンの映像を観て研究した)だ。

ただし、早いパッセージが弾きづらいという欠点があるので、ここからが、初めて練習でカバー出来る領域に入れるということになる。

エレキのほうは、最近は親指の一本指奏法に凝っている。

先日、人前で演奏した際、「いい音だね」と言われた曲に限って、親指一本弾きの曲だったので、接地面積の稼げる親指一本指奏法が、意外と、私の指質と、ベースの特性とマッチしているのかもしれない。

ただし、この奏法は、指の動きには限界があるので、早いパッセージを弾くことが困難だ。

ちなみに、亀田誠治は、椎名林檎のバックでは一貫してジャズベースを弾いているが、先入観を持たずに聴くと、私にはどうしてもプレシジョンの音に聞こえてしまう。

エグいフレーズに太い音ゆえからなのかもしれないが、彼の音を歪ませたサウンドなのに、それでも太さの残った音も、やはり彼の指の肉質によって作られた音なのだろう。

音の太さ、音の“腰”は、気持ちの問題だと主張するベーシストも多いが、気持ちの問題以前の物理的な問題として、

○太くて腰のある音色は、接地面積に比例する。
●ただし、接地面積が広いほど、指の動きに不自由する。

○音量の大小は、弦間に入れる指の深さに比例する。
●ただし、指が深く入るほど、指の動きが制限される。

このような、単純明快な法則を念頭に、自分のスタイルを築き上げる上での参考にしたほうが話しが早い。

まさか「気合いで音を太くする」とばかりに、ウンウンと唸ってベースを弾くだけで音質が変わるわけでもあるまい。

「念ずれば家も立つ」式の精神論だけで、ベースの音が変わればこれほどラクなことはない。

自分が弾きたいベースのサウンドはどのような音なのか。

速くて細かいパッセージなのか、比較的緩やかなラインなのか。

細めの音でも大丈夫なのか。それとも、太い「ズン!」とした音が欲しいのか。

このようなことを、常に自問自答するべきだ。

最初からジャコのような肉質に恵まれている人や、ポール・ジャクソンのように指先が太い人はともかく、指先の細い人や、どうも自分の音はか細いなと感じている人は、上記の法則を念頭に自分の奏法の研究をすると同時に、機材選びやセッティングを考えると良いと思う。

肉質は努力では変えられないが、奏法やセッティングや機材選びの問題は、頭を使って考えれば解消出来る可能性もあるのだから。

努力の出来る領域で、頭と身体を有効に使うことこそ、「ベース道」なのだから。

記:2003/01/02(from「ベース馬鹿見参!」/ザ・ベース道)

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