サムシング・エルス/オーネット・コールマン

   

ピアノ入り。駆け出し時代のオーネット

バックがマトモな(?)ピアノトリオゆえか、このアルバムの楽曲は、かえってオーネット・コールマンのユニークさが際立つ内容となっている。

もしかしたらオーネットは、「あれぇ、おかしいなぁ、俺の曲なのに、なんだか俺の曲じゃないようだ」と思いながらバックのリズムセクションと自分の距離感をつかみかねているのかもしれない。

それは、微妙にズレたオーネットのアルトのピッチもあるし、もとよりちょっぴりヘンな感覚、いわば粘土で作ったオブジェのようなテイスト彼の曲が、ピアノを中心としてキッチリとした方眼紙の世界に生まれ変わってしまった違和感にも起因しているだろう。

「どうも、俺のアルトは調子っぱずれ。でも、これが俺の歌なのだ。」とオーネットは戸惑いながらも、自らの“感覚”を忠実に音として紡ぎあげてゆく。

この周囲の「マトモ」なジャズマンとの感覚のズレを、やがて彼は、この感覚の異化を戦略的に自身の音楽に取り入れてゆくが、まだこの時点では消化しきれてはいない様子。

「なーんか、俺とバック、微妙に合ってねぇよなぁ? どうしてかなぁ? 不思議だなぁ。いっかぁ。いいやなぁ。」状態。

もちろん、まったくピアノトリオの伴奏から離れているわけでもなく、かといってピッタリと寄り添っているわけではない不思議な距離感。

この微妙な距離感が心地よい。

もっと言いたいことがあるのだけれども、100パーセント言いきれていないもどかしさも感じられるが、そのもどかしさがかえってリスナーに耳を傍だたせる要因にもなっている駆け出し時代のオーネット。

プライムタイムや、ゴールデンサークルでのライヴを経た耳で、改めてこの時代のオーネットに戻ると、それはそれでなかなか新鮮だ。

《ザ・プレッシング》や《ザ・スフィンクス》など、後に多くのジャズマンがカバーするオーネットナンバーが、すでにこの初期の時点で演奏されている点も見逃せない。

むしろドン・チェリーのトランペットが、オーネットにもフィットし、バックのピアノトリオにも溶け込んでいるところにも注目。

考えてみれば、ドン・チェリーも不思議なジャズマンだよね。

後にフリーフォームの編成でのアルバムを発表したり、またレゲエにも手を染めたりもするんだけれども、バックがどのようなスタイルのリズムであれ、違和感なくフィットさせてしまうトランペットを吹く人だと思う。

能天気なようでいて、かなり鋭い耳とカンの持ち主だと思う。

このアルバムでも、オーネットのサックスに寄り添いつつも、きちんと自己主張をしているところが素晴らしい。

記:2010/04/24

album data

SOMETHING ELSE! (Contemporary)
- Ornette Coleman

1.Invisible
2.Blessing
3.Jayne
4.Chippie
5.Disguise
6.Angel Voice
7.Alpha
8.When Will the Blues Leave?
9.Sphinx

Ornette Coleman (as)
Don Cherry (tp)
Walter Norris (p)
Don Payne (b)
Billy Higgins (ds)

1958/02/10 &22 , 03/24

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