チャーリー・パーカー・ストーリー・オン・ダイアル Vol.1/チャーリー・パーカー

   

マニアじゃなくてもダイアル、サヴォイ!

パーカー・マニアにとって、ダイアル盤とサヴォイ盤は必携アイテムともいえる。

全盛期のパーカーの素晴らしい面、優れた面、パーカーの素晴らしさがあますことなく凝縮されているからだ。

とはいえ、パーカー入門者の方も、難しそうだという先入観は捨て、臆することなく聴いてみよう。

録音が古いゆえ、音はそれほど良いとは言えないが、それでもパーカーの力強いアルトサックスの音は鮮明に浮かび上がっているし、パーカーの圧倒的な演奏に触れれば、音の悪さなど瑣末な問題にすぎないことが分かると思う。

愉しみを少しずつ広げてゆく

マニアではない人が、いきなりダイアルの音源の全てを聴きとおすのがツライければ、どんどん曲を飛ばし聴きしても構わないと思う。

収録された19曲のうち、必ず1~2曲は「おっ?!」と身を前に乗り出すナンバーがあるはず。

まずは、これを集中的に聴きこんでゆけばよい。
次第に不鮮明だった他の曲の輪郭も鮮明に浮かび上がってくるはずだ。

これ、初心者がパーカーの音楽を慣れ親しむための極意。
私も、親しみを感じたナンバーから少しずつ枝葉を広げていったものだ。

というよりも、アルトサックスをやっていたり、ジャズ演奏を嗜んでいる人なら別だが、ジャズ初心者がパーカーの音楽の素晴らしさを、1回や2回の鑑賞で、パーカーの表現の全貌を理解すること自体が不可能なことだと思う。

まずは、明快で歯切れのよい音色とフレーズを追いかけてみよう。

難しいことを平然とやりすぎているため、最初はパーカーの凄さが分かりづらいかもしれないが、次第にパーカーが吹くサックスのスピード感や、広がりのある分厚い音色に魅了されてゆくと思う。

情緒を排した軽やかさ

ジャッキー・マクリーンのようなアルトサックス奏者に比べると、パーカーは演奏に情緒や、泣きの要素を絡ませないタイプのサックス奏者だ。

ゆえに、そのへんもとっつきづらい要素の一つかもしれないが、パーカー流のクールな表現に慣れてくると、逆に、これら情緒的な要素が持つある種の“重たさ”が皆無の軽やかさが、なんと自由で軽やかなのだろうと感じられるようになってくるはず。

もちろん、ジャズ1年生の頃の私も、パーカーには素っ気なさと、妙なヨソヨソしさを感じた一人だった。

ところが、何度も繰り返し聴いているうちに、パーカーは、べつに「俺に向かって」演奏しているんじゃないだな、ということが分かってきた。

当たり前のことかもしれないが、多くのリスナーが忘れがちな点でもある。

リスナーの多くはは、演奏者に対して、無意識に自分に微笑みかけて欲しいという欲求を持っているのではないか?

時代を越えて、自分と演奏者の間にパーソナルな繋がりをどこかに見出そうとしていう欲望があるのではないか?

このような期待に応えてくれる(錯覚させてくれる)優れたジャズマンも大勢いるし、それが悪いというわけでは決してないのだが、パーカーに限ってはそれを求めても無駄だと思う。

パーカーの透明でドライな演奏への眼差しは、消費者としてのリスナーが抱きがちな「プチ・パトロン気分」を終始拒絶するし、最初からそのような類の音楽ではないのだ。

ピュアで自由な音

つまるところ、要はアートなのだ。
小市民の日常生活や、半径3m以内の小市民的日常感覚とは無縁の世界。

しかし、パーカーの音は、あなたというパーソナルな存在に向けられていないかわりに、もっと途方もない大きな次元に向けてエネルギッシュに放出される。

このピュアで圧倒的に自由な音の前には、傍観者であることの悦びを十分以上に味あわせてくれるし、この気持ちよさこそ、芸術鑑賞におけるもっとも基本的な謙虚な姿勢なのではないかと思う。

このようなマインドセットが完了すると(聴いているうちに自然とマインドセットされます)、淡々とした境地で、ものすごい「技のキレ」を見せるパーカーがたまらなく愛おしく感じられてくることだろう。

ラヴァーマンセッション

このダイアルというレーベルに残されたセッションが編集されたボリューム1、西海岸編は、1945年から1946年までの間に、パーカーが西海岸(ハリウッドやカリフォルニア)で録音したセッションが収録されている。

パーカーの絶頂期のひとコマをとらえた貴重な音源ではあるが、絶不調な《ラヴァー・マン》や《ザ・ジプシー》も収録されており、パーカーというサックス吹きの様々な側面を垣間見ることが出来る興味深いドキュメント音源でもある。

「ラヴァー・マン・セッション」と呼ばれる1946年7月29日にハリウッドで行われた録音は、映画『バード』でも描かれている有名なシーンだが、フラフラ状態になったパーカーが演奏に臨んだ録音だ。

なぜ、フラフラになっていたのかというと、彼がいつも利用していた麻薬密売人のムーチェ(彼の曲《ムース・ザ・ムーチェ》のムーチェとは彼のこと)が警察に逮捕されたため、ヘロインの禁断症状が出始めたパーカーが、これを誤魔化そうと、酒で誤魔化し、さらに与えられたフィノバービタル(睡眠薬)6錠を服用していたからだ。

記録によると、立っていることがやっとだった虚脱状態パーカーは、足元も身体はふらつき、マイクから次第に遠ざかって演奏をしていたため、スタッフたちに身体を支えられながらやっとの思いで録音されたという。

音は外れ、演奏の閃きもいまひとつだが、そのような状態の中からも繰り出される、気だるいフィーリングには不思議と胸を打つものがある。

パーカー自身はこの録音が世に出るのを嫌がっていたようだが、ベーシストのチャールス・ミンガスは、この《ラヴァー・マン》を絶賛している。

人間は、困ったときや追い詰められたときに本性を現すというが、だとすると、酩酊&虚脱状態のパーカーから放出された音に宿る感覚こそ、まさにブルース特有の苦く気だるいフィーリングといえ、パーカーは根っこの部分から正しくブルースフィーリングの持ち主だったことが分かる。

ヒット・アンド・アウェイ聴き

もちろん、最初はゴシップ的興味から《ラヴァー・マン》を聴き始めるのも悪いことではないが、このダイアルセッションには、パーカーが発する素晴らしい演奏の瞬間を捉えた録音も数多くあるので、少しずつ聴きどころを自分で見つけ、パーカー鑑賞の楽しみを広げていって欲しいと思う。

とくに、《フェイマス・アルト・ブレイク》。

これは、《チュニジアの夜》のブレイク部分だけを切り取ったナンバーだが、パーカーが「二度と今吹いたようなブレイクは吹けないよ」と言ったほど、鋭く勢いに満ちた演奏だ。

一度に味わい尽くしてやろうと欲張ったりせず、これを聴いたら、また別のジャズを10枚聴き、またこれを聴いたら、別のジャズを10枚聴き……ということを繰り返しているうちに、少しずつ、あるいはある日突然、パーカーの素晴らしさが、ドカン!とあなたの全身に襲いかかってくると思う。

これぞ、私が提唱する「チャーリー・パーカー・ヒット・アンド・アウェイ聴き」(笑)。

実際、私はこのアルバムはこのような距離感と接し方で、じわじわと好きになっていった。

記:2009/05/06

album data

CHARLIE PARKER STORY ON DIAL vol.1 WEST COAST DAYS (Dial)
- Charlie Parker

1.Diggin' Diz
2.Moose The Mooche
3.Yardbird Suite
4.Ornithology
5.Famous Alto Break
6.Night In Tunisia
7.Max Making Wax
8.Lover Man
9.The Gypsy
10.Bebop
11.This Is Always
12.Dark Shadows
13.Bird's Nest
14.Hot Blues (Cool Blues)
15.Cool Blues
16.Relaxin' At Camarillo
17.Cheers
18.Carvin' The Bird
19.Stupendous

#1 Dizzy Gillespie Jazzmen
Dizzy Gillespie (tp)
Charlie Parker (as)
Lucky Thompson (ts)
George Handy (p)
Arvin Garrison (g)
Ray Brown (b)
Stan Levey (ds)

1946/02/05

#2-6 Charlie Parker Septet
Charlie Parker (as)
Miles Davis (tp)
Lucky Thompson (ts)
Dodo Marmarosa (p)
Arvin Garrison (g)
Vic McMillan (b)
Roy Porter (ds)

1946/03/28

#7-9 Charlie Parker Quintet
Charlie Parker (as)
Howard McGhee (tp)
Jimmy Bunn (p)
Bob Kesterson (b)
Roy Porter (ds)

1946/07/29

#10 Howard McGhee Quintet
Charlie Parker (as)
Howard McGhee (tp)
Jimmy Bunn (p)
Bob Kesterson (b)
Roy Porter (ds)

1946/07/29

#11-15 Charlie Parker Quartet
Charlie Parker (as)
Erroll Garner (p)
George "Red" Callendr (b)
Harold "Doc" West (ds)
Erol Coleman (vo)

1947/02/19

#16-19 Charlie Parker's New Stars
Charlie Parker (as)
Howard McGhee (tp)
Wardell Gray (ts)
Dodo Marmarosa (p)
Barney Kessell (g)
George "Red" Callendr (b)
Don Lamond (ds)

1947/02/26

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