カフェモンマルトル

text:高野雲

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タブ譜なしスコアとピグノーズ

      2016/03/10

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suzume

息子を連れて近所の楽器屋へ遊びに行った。

注文していた譜面が店に届いたという連絡があったからだ。

ついでに、数日前からスイッチとジャックの調子がおかしいピグノーズのアンプも持っていき、修理をしてもらうことにした。

店に行くと、いつもお相手してくれるO氏は休みとのこと、店長に声をかけて届いたという譜面を探してもらったが、見つからなかった。

私が注文していた譜面とは、リズム・エコーズの『実例ジャズ・ベース・ランニング104』という、ジャズの基本的なベースラインの「常套句」が豊富に掲載されているスコアブック。シリーズのvol.5だ。

「なんだ、そんな譜面、お茶の水の楽器店や、大型書店に行けばどこにでも売っているよ」とお思いの方も多いと思うが、実はこの譜面には2種類あるのだ。

巻末にタブ譜付きのやつと、付いていないやつ。

タブ譜付きのものは、タブ譜の分だけページ数も増え、束も厚い上に値段も少し高い(2500円)。

▼こちらがタブ譜付きバージョン
実例ジャズ・ベース・ランニング104 5(SーY)実例ジャズ・ベース・ランニング104 5(SーY)

一方、譜面のみのバージョンはタブ譜が無いぶん1800円と廉価な上に、ページ数もそれほど多くない。

この譜面が出版された昨年の秋頃は、タブ譜付き・タブ譜無しのバージョンがそれぞれ楽器屋の譜面棚に仲良く並んでいたものだが、ここのところタブ譜無しのバージョンを店頭では見かけなくなった。

タブ譜付きの方が需要が多いからか、それともタブ譜無しの方が人気があって売り切れてしまったのか、そこらへんのところは良く分からないが、とにかくお茶の水、渋谷、銀座と、折に触れて楽器屋の譜面コーナーを物色したが、探し出すことが出来なかった。よって、近所の行き着けの楽器屋に注文したという次第。

タブ譜で思い出したが、おそらく『ベースマガジン』だったと思うが、かなり前に、誌上で読者・ミュージシャン入り交じってタブ譜の「いる・いらない」の論争をやっていたような記憶がある。

「いる・いらない」という両極端を議論すること自体ナンセンスだと思うのだが、私は音楽雑誌に掲載するようなスコアには、タブ譜はあった方がいいと思っている。

かくいう私自身、譜面は読めるし、自分なりの運指システムも持っているので、タブ譜は必要としていない。

しかし、時折タブ譜を見て運指の参考にすることもある。

フィンガリングの難しそうな譜割りや、ハイポジションの横棒が何本も引いてある音符はタブ譜を見てしまった方が早く読譜することが出来るからだ。

また、音色にこだわろうと思えば、タブ譜を見てポジションの参考にすることも多い。なぜかというと、弦によって同じ譜面上の音でも低音のトーンが全く違うからだ。

例えば「D」の音を出すとする。

2弦の解放、3弦の5フレット、4弦の10フレット。

4弦の「D」が当然太い音で、2弦の解放が一番ブライトなトーンになる。

サウンドの統一感や、ニュアンスまでにこだわるならば、参考にならない場合の方が多いにせよ、時にはタブ譜をじっくり眺めることも悪くない。

採譜者の思考パターンが垣間見える瞬間もあって、ちょっとした運指の参考になる場合も時にはある。

だから、私の意見としては「譜面読めるからタブ譜はいらん」と主張している人には「じゃあ、アナタがタブ譜見なけりゃいいだけのハナシでしょ。」
と言いたい。

譜面を読めない初心者から、タブ譜を必要としない読譜力のある人まで、門戸は広く解放してあげるべきではないだろうか。

自分が読めるから、「いらん・必要ない」では、あまりにも傲慢だと思う。

閑話休題。

なぜ私がいまさら「ジャズ・ランニングベース」の譜面を手に入れたかったのかというと、「常套句」を増やしたかったからだ。

ジャズは即興の要素が多くを占めるとはいえ、真に「その場で、この世で初めての音を生み出す」という局面は意外に少ないものだ。

会話と一緒で、既に周囲の知っている単語と文法を組み合わせてコミュニケーションをとる。ときには喋っているうちに、無意識に「新造語」が出来上がってしまうこともあるだろうが、ジャズにおける新しいフレーズの創造なども、よっぽどの天才か、よっぽどの閃きがない限り「再編集の繰り返し」だ。

したがって、我々ジャズをやっている人間は「語彙」を増やす。自分の中に「ストック」を多く設ける。

引き出しが多ければ多いほど、様々なレベルの人との演奏のチャンスも増える。

気心知れた人同士との一体化したアンサンブルも悪くはないが、初対面の人相手に繰り広げるアンサンブルも、それはそれで中々スリリングだし、相手が自分よりもレベルが上なほど勉強にもなる。

実際私は大学後半の2年間は「ジャズのベース」に明け暮れていたが、「引き出し」はとても少なかった(今でも少ないが)。

音程やフィンガリングシステムの勉強はベース教室でみっちりやったが、いざ実戦で使用するフレーズはほとんど独学。というよりも『スタンダード・ジャズベース』という一冊の譜面集を隅から隅まで暗記して、そこに出てきたフレーズをその場その場で再編集して使い回していたにすぎなかった。

200~300語の最小限の英単語で会話をしているようなものだ。

それでも、通用した(と思う)。

音楽は音列だけの世界ではない。むしろ大事なのはニュアンスや説得力の問題だったりもするので、自信たっぷりに堂々と少ないフレーズを弾き回せば、それはそれで共演者も聴衆も納得してくれるものなのだ。

しかし、それにも限度がある。

そろそろ自分の中にある引き出しをもう少し広げようかな?と思い立ち、基本的な「常套句」しか載っていない自分にとって最適な譜面集が『実例ジャズベース・ランニング104』だったというわけだ。

しかし、その譜面、店に入荷したことは確かなようだが、担当のO氏にしか保存してある場所が分からないようだ。

仕方がない、次回店に出向いた時に引き上げることにしよう。

さてさて、ピグノーズ。

路上演奏には欠かせない我が相棒。

Pignose ピグノーズ エレキギター用ミニアンプ 7-100-RPignose 7-100-R

接触の悪い箇所を店長に点検してもらい、その場で直してもらおうと思ったが、どうやら原因は中の回路らしい、クレ556のようなフェルナンデスのスプレーを原因と思われる数箇所に振り掛けてもらったが、相変わらず音量が一定しない。諦めてメーカーに修理に出すことにした。

最初に見積もりを立ててもらい、3000円以上かかるようなら、自宅に電話をもらえるようお願いした。

ベースのコーナーを物色したが、目ぼしい楽器は入荷されていなかった。

しかし、月光が黒のリッケンバッカ-をじーっと眺めていた。値札を見ると19万円。本当に椎名林檎の歌(丸の内サディスティック)と同じだな、と思った。

フェンダー派の自分としてはリッケンバッカ-を弾いてみようとは全く思わないが、ルックスはカッコイイと思っている。

自分は弾かないにしても、リッケンを弾かせてみたいなと思う人はいる。

先日、対バンライブをした「アーニー・ホールズ」という女の子3人バンドのベーシスト・山羊愉魔。彼女のアタックの強いピッキングにはいつも驚かされているが、あのサウンドとバンドカラーにはリッケンが最適だろう。

「網タイツはいて赤いリッケンを殴るように弾いてよ。」と先日リクエストしたら、「お金あったらね」と返されてしまった。

どなたかお金に余裕のある人、彼女に19万円あげるか、赤いリッケンを買ってあげて下さい。

もう少し暖かくなったら、路上で演奏をするつもりだ。

「ピグノーズの修理、なるべく早くやって下さいね。」

と店長に念を押して店を後にした。

記:2000/03/19(from「ベース馬鹿見参!」)

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