カフェモンマルトル

text:高野雲

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プレイズ・ガーシュウィン/山下洋輔

      2015/05/28

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プレイズ・ガーシュウィンPlahs Gershwin

“フリーフォームじゃない山下洋輔”の傑作だと思う。

このアルバムの発売直後のタイミングで、私は新潟の「スワン」というジャズ喫茶で偶然耳にすることが出来た。

「スワン」のJBLから大音量で流れてくる、勢いにと躍動感に満ちたピアノトリオに耳が釘付けになった。明るく、ポジティヴなパワーがスピーカーから放射されているような感じがしたのだ。

誰のピアノだろう?

当時の私は、“フリージャズの山下洋輔”しか知らなかったこともあり、恥かしながら、ジャケットを見るまでは、誰の演奏だか皆目検討がつかなかった。

ピアニストが山下洋輔だと知ったとき、こんなこと言っちゃ失礼かもしれないが、「山下洋輔って、ちゃんとした曲も演奏出来るんだ」と思った。

なにせ、『クレイ』とか『ダンシング古事記』の殺気立った強烈な音が耳に焼き付いていたもので…。

しかも「ちゃんとスタンダードを弾けるどころか、とても面白い演奏だ」とも思った。

どう面白いかというと、一言で言ってしまうと、非常にエンターテイメントした演奏が良いのだ。

分かりやすいスタンダードの解釈に、随所で爆発する鍵盤の連打。

この緩急のバランスが実に巧みで、ぐいぐいと聴き手を引き込んでゆく。

メリハリのつけ方と、演奏という“ストーリーの展開”が非常にスリリングで、魅力に満ちた演奏だと思った。

東京に帰ったら、すぐにこのアルバムを買い求めたのは言うまでもない。

私の愛聴曲は、1曲目の《我が恋はここに》と、それに続く《霧深き日々》。

スピード感と重量感のバランスが絶妙なリズムセクションに支えられ、ピアノがどこまでも自由にのびのびと飛び跳ねている。

スタンダードの心地よいメロディに浸っていると、次の瞬間、山下の必殺技“ピアノの連打”が炸裂することもあり、聴いていてまったく退屈することのない演奏だ。

そして、決定打は、3曲目の《マイ・フェイヴァリット・シングズ》にトドメを刺すだろう。

セシル・マクビーの印象的なベースの反復パターンに支えられ、フェーロン・アクロフのドラムと山下洋輔のピアノが炸裂!

手に汗握るスピード感とスリルを味わえる。

ためしに、私も彼のベースパターンをウッドベースで真似をしてみたが、2分と持たなかった。

このテンポとノリを維持するのは、私の場合は、ウッドではなく、エレキでも困難だ。

もっともそれは、単に私の技量不足なんだけど。

それにしても、いやぁ、よくぞ暴れまくるドラムとピアノをベースで支えてくれました。

まさに、演奏の屋台骨。ベーシストの鑑!

セシル・マクビーの鋼鉄の指に乾杯!

もっともこの曲は、何度も聴いていると、執拗に繰り返されるピアノとベースのリフがちょっとシツコい感じがしないでもない。

ただ、コルトレーンのバージョンに慣れた耳には、とても新鮮な新しい解釈の《マイ・フェイヴァリット・シングズ》だと思う。

以上のように、私のお気に入りナンバーは、前半の3曲に集中する。

しかし、《アイ・ラヴ・ユー・ポーギー》も忘れてはいけない。

このムード満点なバラードプレイを聴いていると、とても猫背姿でピアノに肘鉄や頭突きをくらわす、フリージャズの山下洋輔とはとても思えない。

とても分かりやすい、大感動の嵐の《アイ・ラヴ・ユー・ポーギー》を聴けば、フリーで凶暴なピアノだけではない、山下洋輔というピアニストの懐の深さと、表現の間口の広さを味わえると思う。

“フリーじゃない山下洋輔”のアルバムでは、私は『センチメンタル』を高く買っているが、もう少しジャズっぽい躍動感を求めるのであれば、この『プレイズ・ガーシュイン』をオススメしたい。

まさに、タイトル通り、《マイ・フェイヴァリット・シングズ》を除けば、すべてガーシュインの曲で固められたアルバムだ。

album data

PLAYS GERSHWIN (Kitty Records)
- 山下洋輔

1.Love Is Here To Stay
2.A Foggy Day
3.My Favorite Things
4.But Not For Me
5.I Love You Porgy
6.It Ain't Necessarily So
7.I Got Rhythm
8.Someone To Watch Over Me
9.Embraceble You

山下洋輔 (p)
Cecil McBee (b)
Pheeroan Aklaff (ds)

1989/05/2&3

記:2003/09/08

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