カルテット・プレイズ/ジョン・コルトレーン

   

トレーン流《チム・チム・チェリー》

テナーサックスのネック(本体とマウスピースを繋ぐ管の部分)って、こんなにカーブしていたんだね、と改めて思わせるような、面白いアングルのジャケット『カルテット・プレイズ』。

これは、コルトレーンの傑作であり、代表作であり、名盤でもある『至上の愛』の後に録音されたものだ。

さて、コルトレーンといえば、晩年まで何度も演奏しつづけた愛奏曲《マイ・フェイヴァリット・シングズ》を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。

この曲は、コルトレーンというサックス奏者の成長のバロメーターを測るひとつの定点的なテーマ曲だったが、このアルバム『カルテット・プレイズ』では演奏されていない。

なぜなら、アトランティック時代の契約で「うちの会社で録音した曲と同じ曲を5年間の間、他のレコード会社で録音してはならない」といものうのがあったから。

アトランティック時代に吹き込んでいたこの曲、しかも、ライブではしょっちゅう演奏していた馴染みの曲も、ところかわってインパルス・レーベルになると、吹き込みはご法度だったのですね。

だから、《チム・チム・チェリー》。

《マイ・フェイヴァリット・シングズ》との共通点は、3拍子系で曲想がなんとなく似ていること。

そして、グチャグチャに破壊のしがいがあること。

「ジャズのナンバーに煙突掃除屋さん?」と思うかもしれないが、コルトレーン・カルテットにかかると、この曲も格好の改造素材となる。

この時期のライブで演奏されている《マイ・フェイヴァリット・シングズ》よろしく、グジュグジュに曲がかき回され、グダグダに破壊されながらも、コルトレーンの世界をきちんと主張しています。

真面目なコルトレーンのこと、もし、《チム・チム・チェリー》も録音がダメだったら、《メリーさんの羊》や《ドレミの歌》のような子供に馴染みのあるナンバーをも、真剣な顔をして、額にシワを寄せながら、猛烈な演奏を体全体から湯気を発散させながら演奏していたかもしれないよね(笑)。

このアルバムの聴きどころは、なんといっても、熱い《チム・チム・チェリー》。

そして、エルヴィンのドラミングとの一騎打ちが凄まじい《ブラジリア》。

パワーだったら負けません! 気迫だって負けません! と音が主張しまくっている。

エルヴィン・ジョーンズが参加しているインパルス期の他のアルバム(たとえば『トランジション』)などにも言えることだが、この時期になると、ますますコルトレーンのサウンドにとってもっとも必要不可欠なメンバーはエルヴィンだったのだと思う。

もちろん、マッコイ・タイナーの独特のコードの味付けがあってこそのコルトレーン・カルテットなのだろうが、彼のピアノが抜けた演奏を聞いても、エルヴィンのまるで強靭なバネがしなるようなポリリズミックなドラミングさえあれば、コルトレーンの熱い吹きまくりサックスの世界は成立するのではないか、究極的にはコルトレーンにとってのバンドメンバーは、自分自身を熱く鼓舞してくれる「鞭」のような要素がいれば、それで良かったのではないかと思う。

コルトレーンにとって「鞭」の要素とは、ある時『アセンション』のときのような大人数編成だったのかもしれないし、もう一人のテナー奏者、ファラオ・サンダースの存在だったのかもしれないが、究極のところは、エルヴィンというドラマーたった一人の存在が、もっともコルトレーンを炊きつけ、激しいだけではなく、良い部分を引き出していたのではないかと思うのだ。

記:2010/07/21

album data

QUARTET PLAYS (Impulse)
- John Coltrane

1.Chim Chim Cheree
2.Brazilia
3.Nature Boy
4.Song Of Praise

John Coltrane (ts)
McCoy Tyner (p)
Jimmy Garrison (b)
Elvin Jones (ds)

1965/02/18 #3
1965/05/17 #1,2,4

 - ジャズ