ラー/マーク・マーフィ

   

サラリと聴かせてくれる

かなりの確率で当たっていると思うのだが、四谷の「いーぐる」というジャズ喫茶のレコード係クンは、マーク・マーフィが好きだ。

彼がレコード係をやっているときには、よくかかるんですよ、これが。

言うまでもなく、ジャズ喫茶だから、かかるレコードやCDの大半がモダンジャズやジャズの新譜が中心だ。しかも、それらの多くがインスト。

店の傾向にもよるから一概にはいえないが、どちらかというとジャズ喫茶はヴォーカルものはあまりかけないことが多く、四谷の「いーぐる」も例にもれず、まったくかからないというわけではないが、そんなに頻繁にかかるというほどでもない。

しかも、ジャズのヴォーカルというと圧倒的に女性が多く、男性ももちろんいるにはいるが、いかんせん通好みの印象が拭えず、きっとあなたが最初に買ったジャズのヴォーカルのアルバムは女性だと思うが、そんな感じで、ジャズヴォーカルの人口は圧倒的に女性ヴォーカルが占める中、なぜだか、四谷のジャズ喫茶は、行くたびに男性ヴォーカルが流れているような気がすごくするのだ。

そして、そのヴォーカルは決まってマーク・マーフィ。

「お、この声は、マーク・マーフィだ!」そう思ってカウンターの中を覗くと、いつものお兄さんがレコードかけてる(笑)。

毎回流れるアルバムは違うので、へぇ、マーク・マーフィってこんなアレンジの曲も歌っているんだ、こんなアルバムも出しているんだと、目からウロコなことも多いが、いつもきまって彼の歌声にはピクッと反応するようになってきてしまった。

すごく特徴のある声というわけではない。

サッチモのようなダミ声じゃないし、ボビー・マクファーリンのように様々な声色を使い分けるといった器用な面も持ち合わせていない。

地味といえば地味かもしれない。

いうなれば、本当に普通の歌声。うん、文字では普通と書くのが精一杯で、読者のみなさんからは「なんだ普通なのか」と思われるのがとても怖いのだが、その普通っぷりが、なんだかとても気持ちが良いのだ。

そんなことを思い出しながら、今回は私の好きな彼の代表作。『ラー』の紹介。

覚えやすいタイトルですね。

“ラー”とは、応援のときの掛け声のようなものだそうです。

ジャズマンが取り上げるおなじみの曲をたくさん取り上げています。

《エンジェル・アイズ》、《グリーン・ドルフィン・ストリート》、《マイルストーンズ》、《マイ・フェイヴァリット・シングズ》…。

まったりした《グリーン・ドルフィン・ストリート》も聴きものですが、個人的には、やっぱり《マイルストーンズ》からはじまる、後半4曲が良いし、かつ流れがカッコいいですね。

パーソネルが、ビル・エヴァンスにウイントン・ケリー。

トランペットは、クラーク・テリーにブルー・ミッチェルと豪華メンバーだ。

当時のリヴァーサイドで吹き込んでいた看板ジャズマンが集結したという感じ。

しかし、もちろん彼らは歌伴に徹しているので、各人のソロがフィーチャーされているような箇所はほとんどない。

それに、曲の構成が簡潔、かつ冗長に長いところがまったくないので、最後まで飽きずに一気に聴きとおせてしまうというところが嬉しい。

気になった人は、まず代表作の本作をおすすめします。

記:2004/02/28

album data

RAH! (Riverside)
- Mark Murphy

1.Angel Eyes
2.On Green Dolphin Street
3.Stoppin' The Clock
4.Spring Can Really Hang You Up The Most
5.No Tears For Me
6.Out Of This World
7.Milestones
8.My Favorite Things
9.Doodlin'
10.Li'l Darlin'
11.Twisted

Mark Murphy (vo)
Clark Terry (tp)
Blue Mitchell (tp)
Joe Wilder (tp)
Bernie Glow (tp)
Ernie Royal (tp)
Jimmy Cleveland (tb)
Urbie Green (tb)
Melba Liston (tb)
Wynton Kelly (p)
Bill Evans (p)
Barry Galbraith (g)
Sam Herman (g)
George Duvivier (b)
Art Davis (b)
Jimmy Cobb (ds)
Earnie Wilkins (arr,cond)

Recorded at Plaza Sound Studios,New York;
September and October,1961

 - 音楽