人間国宝スコット・イアン

   

grinder

text:高良俊礼(Sounds Pal)

スコット・イアンのクランチ

「ズンズクズクズクズクジャンジャンジャン!ズンズクズクズクズクジャンジャンジャン!」

と、字面にすると何ともマヌケでカッコ悪いが、音にすればコレが実にカッコイイ。

何のこっちゃ?とお思いの方が恐らくほとんどだろうが、コレはスラッシュ・メタル特有の「クランチ」と呼ばれる超高速のリフの音だ。

中学時代にパンクにハマッて、高校時代にスラッシュ・メタルの洗礼を受けた。

1990年代も始まった当初は「スラッシュメタル四天王」と呼ばれていたバンド(メタリカ、スレイヤー、メガデス、アンスラックス)のアルバムを、何も考えずに「コレ、持ってないから買お♪」ぐらいの感覚で買い集めていた。

ヘタクソながらギターも弾いていた私は、最初っから「あー難しいメタルの早弾きは無理!」と、諦めていたが、ザクザクと高速で刻まれるクランチの魅力にはすっかりハマッてしまい、リフばかりをコピーしていた。

今聴いても当時のスラッシュ・メタル勢の音源はどれもカッコイイが、私の中で「別格」と呼びたい天才職人ギタリストがる。

アンスラックスのスコット・イアンである。

彼のクランチは、スラッシュ・メタルのあまたいるギタリストの中でも突き抜けている。

そのサウンドはカラッとして健康的ではあるが、その分「体感速度」と「アタック感」が異常に強いのだ。

加えて音楽性の幅広さ。

アンスラックス

アンスラックスとの出会いは、1991年リリースの「アタック・オブ・ザ・キラー・ビーズ」に収録されているベンチャーズのカヴァー「パイプライン」にヤラレたのがそもそものきっかけだったが、このアルバムが、ハードコアな楽曲からファンクやヒップホップ(当時は”ラップ”と呼んでいた)のカヴァー、更にライヴまで収録しているレア・トラック集だというのを知ったのは大分後になってからの話。

まだレッチリもブレイクする前で、ビースティ・ボーイズなんかも「ほとんど誰も知らん」みたいな感じだったから、スラッシュ・メタルのズンズクズクズクな鼓動を脳に叩き込むと同時に、「ミクスチャー」という画期的な言葉を、このアルバムに教えてもらったものだった。

しかし、どんなスタイルの曲であろうが、独特の渇いたヘヴィネスとでも言いたいその音でザクザクとひたすらコアなリフを刻むこのバンドのギタリストって一体!?

と、思っていたら、たまたま深夜の音楽番組でヘヴィメタルの特集やっていたのに、アンスラックスがちょっとだけ出演していた。

スコット・イアンの姿を観たのは、その時が確か最初で、その後しばらくは観る機会がなかったのだが

「この凄いプレイをしているギタリストの姿は絶対に忘れない!」

と、思った。

強烈なインパクトだったのだ。

何が?

いや、頭髪だ。

あの、メタル全盛の、ロッカーといえばほとんどみんなが長髪だった時代に、潔いスキンヘッドである。

あんなに激しいクランチ・リフヲザクザクやって、ヘッドバッキングガンガンにやっていても、付属品のようにくっついてくる連獅子のような髪の毛の「ぶわさぁ!ぶわさぁ!」がないのである。

これには恐れ入った。

だからアンスラックスは「スラッシュ四天王」の中でも一番硬派なバンドであると勝手に認定した。

スコット・イアンのリフ

音楽的には、デビュー時から一切スタンスが変わらず「高速×凶悪×重低音」を貫き、歌詞でも延々と悪魔崇拝とか殺人とか死体愛好だとか言っているスレイヤーの方が硬派だという意見もあろうし、それも一理あると思うが、あの時代「モテ要素」だった毛髪がない!というだけで、アンスラックス、なかんづくスコット・イアンへのリスペクトは、私の中で不動のものとなった。

アルバムも『アマング・ザ・リヴィング』『狂気のスラッシュ感染』などを『アタック・オブ・ザ・キラー・ビーズ』から遡るように聴きつつ、『サウンド・オブ・ホワイト・ノイズ』等初期の名作を押さえつつ、より鋭角さを増した『ストンプ442』等の新しい作品も追いかけて買い集めていたが、やはりどの時期も快楽のツボに直接響くスコット・イアンのリフはけれん味がなくカッコイイのだ。

さて、そんなアンスラックスであるが、メンバーチェンジを繰り返したり、脱退したメンバーが一時的に復帰したりしながらも、今も元気に活動中である。

最近のライヴ映像はYoutubeで観たが、スコット・イアンの潔いスキンヘッドは健在で、独特の渇いた鋭利さを持つサウンドも健在だった。

日本には、その分野における専門的な技術に秀でた人に送られる人間国宝という制度があるが、アメリカはどうなんだろう?もし、それに似た制度があるのなら、スコット・イアンこそ「クランチ部門」のマイスターとして、国家認定されるべきである。

記:2015/01/09

text by

●高良俊礼(奄美のCD屋サウンズパル

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