PSY’S《サイレント・ソング》とバービーボーイズの《ノイジー》

   

silent

♪二人最初から出会えてなかった

この歌詞が心に染みて、グッときたのは、おそらくリアルタイムで聴いていた高校時代より、およそ10年以上経ってからのことだ。

PSY'S(サイズ)のヴォーカル、CHAKAが澄んだ高音で歌う《サイレント・ソング》。

「二人最初から出会ってなかった」は、透明な声だからこその説得力だ。

このキメのワンフレーズは、失恋の10個や20個も重ねないと、なかなか腹の底にグッと迫ってこないのではないか。

サイレント・ソング
サイレント・ソング

PSY'S

あたかも淡麗辛口な土佐産の日本酒のように、最初はスッキリと感じていても、次第に杯を重ねるごとに、少しずつ特有の芳香が全身に巡っていくかのように。

ヴォーカルのCHAKAと、キーボードの松浦雅也の2人によって結成されたバンドPSY'Sは、今となっては知る人ぞ知る80年代の幻のバンドになってしまっているようだが、私は《サイレント・ソング》と、《ウーマンS》の2曲を残してくれただけでも、しっかりと日本のポップスの歴史の中に(少なくとも私の脳内音楽史の中には)鮮やかな1ページを飾ってくれたグループだと思っている。

noisy

この《サイレント・ソング》を作曲したのは、BARBEE BOYS(バービーボーイズ)のギタリスト・いまみちともたか。

PSY'Sの松浦がパーソナリティを務めていた『サウンドストリート』のコーナーで作られた曲だった。

しかし、作曲者本人としてはお気に入りのナンバーだったのか、自分のバンド、バービーボーイズ用に手を加え、歌詞とアレンジが変わった《ノイジー》というタイトルの曲としてリメイクしている。

パンチのあるビートが身体をゆらすノリノリのナンバーで、バービーボーイズの楽曲の中でも屈指の名曲だと感じている。

Noisy
Noisy

私はベースを買って最初にコピーした曲がBOOWYの《B・BLUE》だったということもあり、80年代のバンドブーム前後に流行していたパンチのある8ビートも結構好きだった。

ベースはエッジの立ったピック弾きの音色でひたすら「8」を刻み、ドラムスは、ズッパーン!ズッパーン!とパンチのあるビートを叩き出すリズム隊。

単純ながらも力強い疾走感があり、BOOWYをはじめとして、当時の日本のロックシーンやインディーズシーンの間では、一時期定番のように流行していたリズムだ。

「イカ天(三宅裕司のいかすバンド天国)」がブームだったことも手伝い、また学生時代にバイトをしていた出版社も、バンドやインディーズ関係の雑誌やCDを出しているところだったこともあったこともあり、80年代特有の「ズッパン8ビート」は、私を取り巻く環境では日々普通に流れ続けており、そのような環境で生活をしていた私は、ジャズを聴く傍ら、このようなインディーズのロックシーンの音楽にも日常的に接していた。

ジュンスカ、スターリン、オーラ、ユニコーン、ブランキー、BUCK-TICK……。

すべてのバンドや音楽が好きだったわけではないが、いつの間にやら私の耳の中には、揺らぎのあるジャズの4ビートと相対するかのように、シンプルでパンチのある8ビートが流れていた。

その中でも、バービーボーイズの《サイレント・ソング》の疾走感溢れる8ビートは、ギタリスト・いまみちともたかが作り出す印象的なメロディとの相乗効果もあり、抜きん出たものと感じていた。

リズムか歌詞か、声かギターか

おそらく高校、浪人、大学時代の私にとっての《サイレント・ソング》は、バービーボーイズのバージョンで、PSY'Sの《サイレント・ソング》が染みてきたのは、もう少し大人になってからのことだった。

Don't tell me
さよならは あなたの瞳(め)でわかる
二人最初から出会えてなかった
Silent Song
沈黙の声が響いてる

この歌詞と抜群にマッチしたメロディ、そしてCHAKAのヴォーカルの声質がこれ以上のものはないと思われるほどにマッチしているのだ。

その一方で、《ノイジー》の歌詞の内容は、「気安くナンパに応じちゃダメ」といった程度の内容で、歌詞の深さはPSY'Sの《サイレント・ソング》に遠く及ばない。

私にとって2つの《サイレント・ソング》は、リズムはバービー、歌詞とヴォーカルはPSY'S、演奏は両曲ともに参加している、いまみちともたかのギターがクルね~、といった感じなのだ。

片方が「沈黙(サイレント)」、もう片方が「騒音(ノイジー)」と、合わせ鏡のようなタイトルになっているのも面白いね。

記:2017/08/07

 

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