カフェモンマルトル

text:高野雲

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ライブレポート 2002/08/18 sl@sh野外ライブ

      2016/04/08

akachouchin

「尾崎豊って、結構オヤジな感性も持っているんだなぁ」。

そう感じたのが、尾崎を少し見直したキッカケだった。

私は、リアルタイムでは、尾崎豊の音楽は聴いていなかったし、それ以前にあまり聴いてみようという気がおきなかった。

尾崎本人や、尾崎の音楽の好き嫌いというよりも、尾崎豊に心酔してギターをかき鳴らしながら青臭いことを言っているダサダサな“尾崎スト”な連中があまりにも周囲に多く、彼らがイヤだったから尾崎も聴かなかったというほうが正確かもしれない。

どうも彼らは音楽そのものよりも、自分の安易でラクな生き方、負け犬っぷりの“言い訳”として尾崎の言葉を都合の良いように利用している節があり、自分の言葉ではなく、他人(=尾崎)からの借り物の思想と言葉で武装しているような薄汚さとみっともなさを感じ、それがたまらなくイヤだったのだ。

だからべつに“負け犬”が嫌いで“勝ち猫”が好き、というわけではない。

それは、言辞やファッションなどの“上っ面”だけをなぞる“林檎もどき女”に感じる底の浅さと嫌悪感と同種のものなのかもしれない(もっとも、そういうベタな恥ずかしい人は“尾崎スト”よりは少ないと思うが)。

だから、振り返れば、真剣に尾崎の音楽自体を聴いたことは殆ど無かった。

知っている曲は、せいぜい、彼の代表作とされる「卒業」と、ドラマ『北の国から~初恋』で効果的に使用されていた「アイ・ラブ・ユー」ぐらいなもので、その両曲から滲み出てくるあまりにも無垢で純粋な“少年の感性”には、当時高校生だった私には、メロディの美しさや歌の説得力とパワーに気付く以前に気恥ずかしさを感じてしまい、まともに聴く気がおきなかったのだ。

さて、尾崎豊を改めてキチンと聴いてみようと思ったキッカケは、電通制作の池脇千鶴が主演の映画『大阪物語』を見てからだ。

はじめホンワカ、中盤よりだんだんディープになってゆくこの映画のエンディングのクレジットを飾る長い歌は、尾崎豊の《風にうたえば》。

風にうたえば風にうたえば

とても効果的な使われ方をしていた。

「お、尾崎はこんな曲も作っていたのか」という新鮮な発見があった。

この曲から感じられる雰囲気は、《卒業》とも《アイ・ラブ・ユー》ともまた違った、ナイーブだけれども、湿っぽさの希薄なちょっと乾いた世界だった。

なんでもこの曲は、未発表曲で、尾崎がまだデビュー前の16歳のときに自宅のラジカセに録音していた幻のトラックなのだそうで。

この残っていたテープから尾崎の声だけを拾い出し、服部克久がオーケストレーションを加え、映画の中で使ったものなのだそうだ。

この曲が気になったので、早速近所のCDショップへ行って『風にうたえば』のCDを買った。

映画で感じた印象通りの曲だった。

ふわふわと宙をさまよっているだけの行き場所の無い頼りなさは感じられず、 「逃げ」の中にも確固とした地に足のついた力強さを感じた。

このCD、他にも良い曲があった。「酔いどれ」だ。

なんだ、これって負け犬なオヤジの歌じゃん(笑)。

「ナイーブ・少年・ピュア」。そういった私の持っていた尾崎のイメージがガラガラと崩れていった。

別に「オヤジな感性」だから尾崎を見直したわけではない。「オヤジ」というのは、あくまで表現上のアヤだ。

実際、オヤジな心境をリアルに表現したというよりも、ちょっと背伸びをしてオヤジになって作ってみたというニュアンスの曲で、正確に言うと「オヤジな歌」というよりは、「少年が背伸びをして成りきってみた大人の姿」だと言える。

だから、オヤジがどうしたというよりかは、今まで抱いていた尾崎豊とは違う別な側面を発見したことが嬉しかったのだ。

また、彼の代表曲とされている《卒業》、《アイ・ラブ・ユー》、《シェリー》といった曲よりも、無名で埋もれていた曲のほうがずっと素晴らしいじゃん、と思ったのだ。

早速、時々夜の飲み屋で共演しているT∀Y∀氏にこのCDを貸した。

彼は、冗談めかして自分のことを「尾崎二世」と名乗っているほどの人だ。

私よりも5つも年上のいい年の人なのに、「尾崎二世」だなんて恥ずかしいからやめてくれよと思うのだが、たしかに彼の弾き語りを聴いていると、心底尾崎のことが好きなんだなぁと思わせるものがある。

尾崎には特に興味が無い私だが、飲み屋ではよく《アイ・ラブ・ユー》や《シェリー》などの曲の伴奏をT∀Y∀氏頼まれて弾いている。

酔っぱらいながらのベースだし、もとより原曲のベースラインなど知らないから、特にAメロ部は、ヴォーカルにハモりをいれるような感覚でベースのハイポジションで高音を弾くという滅茶苦茶なバッキングをしていたが、それでも「いやぁ~、雲ちゃん、キミのベースは、もう、最高っ!いいねぇ」と言われるのが嬉しくて、ちょくちょく彼の歌う尾崎の歌にはベースで伴奏をしていた。

そんな彼と、夏の野外ステージで「sl@sh」というユニット名でライブをすることになっていたのだが、何の曲を演奏するかはまだ決まっていなかった。

私が彼にCDを貸した意図は、どうせ尾崎を演ることになるのならば、私が気に入った「風にうたえば」を演りたいと思ったからだ。

案の定、T∀Y∀氏は「いいじゃん、これ。演ろう演ろう」と乗ってくれた。

ただし、《風にうたえば》だけではなく《酔いどれ》と《街の風景》も演るという条件付きで。

もちろん、これらの曲は私も嫌いではないからOKだ。

だから、2002年8月18日の日曜日、つまりお盆休みの最終日、上野にある池之端水上音楽堂という野外ステージで演奏した曲は、以下の5曲となった。

1.スタンド・バイ・ミー
2.街の風景
3.酔いどれ
4.いとしのエリー
5.風に歌えば

ヴォーカルとギターがT∀Y∀氏。私はウッドベース。

ギターのジャカジャカ伴奏のバックでただ単にベースのピチカート(指弾き)だけじゃ、ありきたりすぎて面白くないので、このライブは、ピチカートよりもアルコ奏法(弓弾き)を多用しようと最初から決めていた。

練習の時は、ほとんどピチカートをせずにアルコだけで弾いていたが、自分で言うのもヘンだが、これがまた中々良いのだ。

ギターの乾いた弦の音に、コントラバス(ウッドベース)を弓で弾いたときに生まれる暖かい音色が絶妙に溶けこみ、なんだか格調の高さすら感じるような演奏に変化してしまうのには驚いた。

T∀Y∀氏も、いいね、いいねぇ、まるで俺が歌っている曲は、コントラバスのためにあるようなもんじゃん、などとおだててくれたので、ますます私は調子に乗って弓弾きのパートをどんどん増やしてしまった。

個人的にはあまり好きではないが、メロディの美しさは認めざるを得ない曲にサザン・オールスターズの「いとしのエリー」という曲がある。

この曲も実はT∀Y∀氏の18番。試しに全編アルコで弾き通してみたら、なんとも気持ちのよい感動的な仕上がりとなったので、《いとしのエリー》も演ることにした。

結局T∀Y∀氏とは2回ほど練習をして本番に臨むことになった。

当日は朝から天気がぐずついていて雨が降ってきた。

雨の中のウッドベースの運搬はちょっと辛い。

なので、時々六本木で飲んだ帰りに、安い値段で自宅まで車で送ってくれる運転手さんに電話をしたところ、丁度手が空いているとのことなので、自宅から会場まで車でウッドベースを運んでもらった。

さて、会場。

私が一番懸念していたことは、アルコ奏法時の音のバランスだ。

ピチカートの時は問題無い。指板の付け根にピックアップを取り付けてあるので、アンプにさえ繋げば、エレキベースに近いニュアンスで音は鳴ってくれる。

しかし、不安だったのが、ピチカートとアルコの時の音量のギャップだ。

ピチカートで弾いた時の弦の音量と、アルコで弾いた時の音量の差が激しいと、アンサンブルとして体を成さない。

アルコで弾いたときの弦の音は、ピックアップがあまり綺麗に拾ってくれないので、ボディから発せられるサウンドをマイクで拾ってもらわないと、ピチカートの時の音量を10とすると、アルコの時の音量は6ぐらいになってしまう。

しかも、会場は、最大2000人近くも収容出来る大きな野外会場だ。

自分の出す音がきちんとお客さんに届いてくれるかどうかが気になるのは、別段私だけではないだろう。

ところが、主催者に音出しやリハはいつ頃出来るのかを確認したところ、「今回はリハは無し。ブッツケ本番です」ときたものだ。

「もし、本番、ステージにあがって音が出なけりゃゴメンナサイ。はっはっは。」

なんじゃそりゃ?

セッティングから開演までの時間的余裕があまり無いことは重々承知してはいるものの、それでも、まったく音出しすらさせてもらえる機会が無いなど前代未聞の話だ。小さなライブハウスならば、なんとか手許で音の調整をしながら演奏する自信はあるが、ここは広い野外の会場だ。

どうやら主催者には、「少しでも良いサウンドをオーディエンスに届け、満足のゆくイベントに仕上げたい」という考えはないらしい。ただ、たくさんの出演者を少しでも効率良く“無難に捌く”ことしか頭に無いようだ。

しかし、それで納得のいく私ではないので、PAの人と打ち解けて、なんとかサウンドチェックをする時間を設けてもらった。

「ぼく、うっどべーすなんです。こんな大きな会場でうっどべーす弾くのはじめてなんです。

だから、音がとっても心配なんです。もしヘンな音だったり、ハウリングを起こしたりしたら、とっても悲しいなぁと思うんですぅ」などと、哀れなベーシストを装って、「そうか、それなら仕方ない。音出しの時間を設けてあげましょう」という流れにしてもらった。いえい。

ステージで、ウッドベースのサウンドチェックをすると、案の定、ピチカートとアルコの音量のギャップがすごい。

これじゃ、ピチカートで演奏して、サビは一気にアルコで盛り上げようと思っても、音量の差で、盛り下がること必至。

音響の方にマイクスタンドを立ててもらい、一番良い状態で音を拾えるベストのポイントを探ってもらった。

と、同時に、私がアルコを握った瞬間、若干ミキサーの音量を上げてもらえるようにも段取った。

ついでに、「実際、ギターとヴォーカルとの音の絡みもどんな具合か音を出して確認してみたいんですぅ~」と懇願して、結局、曲のリハもやってしまった。

抜け駆け的で、音出しの出来ない他の出演バンドには申し訳なかったが、高い出演料(15分・4万円)を払って演奏をするのだ。

やるからには、出来るだけ良い音で演奏したいし、ベストな状態で臨みたいと思うのは人情だろう。

で、本番は、まあまあだった。

汗でアルコを握る手が滑りそうになったり、どんどんテンポが走ってゆくT∀Y∀氏に合わせるべきか、それとも少し引っ張ってみるべきかと葛藤しながら弾いていた。

しかし、冒頭の《スタンド・バイ・ミー》から一気にT∀Y∀氏が観客をのせてくれたので、楽しいステージになったと思う。

また、《酔いどれ》の演奏前に、T∀Y∀氏の部下がステージにあがってきて、我々に缶ビールをくれるというクサい(?)演出も良かった。

このビール(あ、発泡酒か)のお陰で、演奏に馬力がついたと思うよ、うん。

記:2002/09/16(from「ベース馬鹿見参!」)

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