カフェモンマルトル

ジャズと映画と本の日々:高野雲

好き好き大好き/戸川純

      2016/05/11

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好き好き大好き(紙ジャケット仕様)好き好き大好き

たくさんの音楽を聴いてきたつもりだが、いまだに、戸川純以上の歌うたいを私は知らない。

こればっかりは、美空ひばりやビリー・ホリデイやエラ・フィッツジェラルドが束になっても敵わないのだ。
私の頭の中では、ね。

エキセントリックな歌唱の中から見え隠れするのは、噎せ返るほどの甘くて饐えた香りのする女の情念と、爽やかですらある不思議な諦観。

椎名林檎がデビューしたての頃も、私は戸川純の文脈で聴いていたし、戸川純が私の心の中に敷いてくれたレールががあったからこそ、よりポップで親しみやすい椎名林檎のファンになれたのだと思う。

もちろん、聴いているうちに、両者は似て非なるキャラクターだということにすぐに気づいたが(当たり前だ)……。

とにもかくにも、変幻自在に7色に変わる声色と世界観は、いま聴いてもなんと新鮮なことか。

たとえば、『好き好き大好き』の後半に収録されている《恋のコリーダ》。

「レインボー戦隊ロビン」のテーマをこんなふうに替え歌しちゃうのは彼女だけだろう。

こういう歌詞にピクンと反応するのは、大島渚監督の『愛のコリーダ』や、その題材となった「阿部定事件」を知る者がほとんどだろうが、もちろん、このような予備知識がなくとも「響く感受性」を持つ者に一定層のリスナーとっては、背筋ゾクゾクものの快感が脳髄を駆け抜けるに違いない。

《諦念プシガンガ》より一貫してブレることなく流れ続ける「愛ゆえのどうしよもなき破壊衝動」の鼓動にシンクロ出来た者は、ニヒヒヒと歪な笑みを浮かべ、いつのまにか深層心理に浸透してゆく戸川的世界観に浸ってゆくうちに、日常の白けた風景が真っ赤な血に色に染まってゆく興奮を覚えることだろう。

個人的にはファーストの『玉姫様』も大好きだが、2枚目の『好き好き大好き』も、たまらねぇほどのキッチュな世界を放射しまくっている。

殺られてください。

記:2004/01/02

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