音楽図鑑/坂本龍一

      2018/07/17

音楽図鑑-2015 Edition-(紙ジャケット仕様)音楽図鑑/坂本龍一

YMO散会後に放たれたソロ

YMO散解後の教授(坂本龍一)のソロアルバム第一弾『音楽図鑑』。
教授のソロ作品としては、『左うでの夢』に続く3枚目ですね。

当時は、次はどんな音が飛び出てくるんだろうという期待に心臓をバクバクさせながら、発売日にレコード屋さんにナケナシの小遣いを握り締めて言ったものです。

一言で言えば、地味だが、滋味溢れる名盤といえましょう。
いま聴くと、発売当時に聴いたときよりもずっと気持ちよいことに気付くからです。

各曲紹介つれづれに(前半)

その後の『未来派野郎』にも当時は、熱狂したものですが、今、落ち着いて振り返ると、『音楽図鑑』のほうが、粒ぞろいの名曲に名アレンジだと感じます。

というより、時代とか流行とか、そんなものは軽く飛び越えて通用してしまうクオリティの高い楽曲、アレンジ、演奏と、丁寧なスタジオワークによって仕上げられた、音の職人による完成度の高い作品であると感じます。

だから、今でもよく聴き返します。

安定したリズムに乗って、当時の教授の興味と郷愁とセンスが、程よい按配で折衷的に盛り込まれた《チベタン・ダンス》に始まり、シンプルながらも凝ったアレンジと展開が楽しめる《エチュード》。

心地よい音色のハザマから流れてくるラジオっぽいボイスはなんと山下達郎な《パラダイス・ロスト》。

聴けば聴くほど、発見と驚きがあります。

各曲紹介つれづれに(後半)

個人的に、このアルバムのベストは《セルフ・ポートレイト》ですね。
ミカドのグレゴリーがたたき出すシロフォンは落涙ものですね。

ピーター・バラカンに「西部劇の映画を見ているようだね」と言わしめた厳しいながらもロマンスも感じさせる《旅の極北》は、さかさまから読むと「北極の旅」。
ま、どうでもいいことだけど。

映画『トーキョー・メロディ』で、スタジオ内で教授がグランドピアノでこの曲を弾いているのを見て、はじめて複雑な構成のこの曲の輪郭がつかめた、《M.A.Y.イン・ザ・バックヤード》のM.A.Y.は、当時、教授ご自宅の裏庭にやってくる猫のイニシャル。
たしか、Mがモドキで、Aがアシュラで、Yがヤナヤツだったハズ。

個人的には、このアルバムの気分を代表すると勝手に思っている《羽の林で》は、名曲です。当時は、その良さ、なかなか分からなかったけれども。でも深い。

オランウータンこと《森の人》は、当時の奥方・矢野顕子の作詞。
デヴィッド・ヴァン・ティーゲムの耽美的なパーカッションに再び落涙。

ゆったりと穏やかなテナーサックスが奏でるメロディに心和む、ナム・ジュン・パイクにささげた《トリビュート・トゥ・ナム・ジュン・パイク》は、最近のもっともお気に入りな一曲です。
『メディア・バーン・ライブ』で演奏されたピアノバージョンよりは、ゆったりテンポのこちらのほうが断然イイですね。

レコード時代には、ボーナスレコードとして、さらに3曲入っていて、CDになったら日本生命CM《きみについて》もサービスで収録されているけれども、それらは省略。

私にとっての『音楽図鑑』は、やっぱり、レコードでいうとメインのA面とB面の9曲までなのです。

発売直後は、教授がDJを務める「サウンド・ストリート」で、ジャケットに書かれた坂本龍一の「龍」の字の横棒が一本足りないというリスナーからの指摘があったことも、今となっては懐かしいですね。

記:2009/07/26

album data

●収録曲(完璧版)
1.Tibetan Dance
2.Etude
3.Paradise Lost
4.Self Portrait
5.旅の極北
6.M.A.Y. In The Backyard
7.羽の林で
8.森の人
9.A Tribute To N.J.P.
10.Replica
11.マ・メール・ロワ
12.きみについて……。

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