プレイズ・デューク・エリントン/セロニアス・モンク

   

夜のモンク

聴く時間帯によって、これまで好みではなかった音楽が好みの音楽に変わるということはよくあることだ。

たとえば、モンクのピアノトリオ『プレイズ・デューク・エリントン』は、学生の頃はあまり好んで聴くアルバムではなかった。その頃は『モンクス・ミュージック』や、『セロニアス・モンク・トリオ』のように、はっちゃけた元気さが炸裂したモンクの音楽のほうが好きだった。

ところが、社会人になってからは、『セロニアス・ヒムセルフ』や、『プレイズ・デューク・エリントン』のような落ち着いたたたずまいのモンクの作品も悪くないなと感じるようになり、やがて愛聴盤へと昇格していった。

>>セロニアス・ヒムセルフ/セロニアス・モンク

これはジャズを聴く時間の変化によるものだろう。

学生の頃は、夜はアルバイトや遊びで夜にジャズを聴くことってあまりなかった(ジャズ喫茶でのバイトをしている時は別だが)。
しかし、社会人になると帰宅してからジャズを聴くことになる。
ボリュームを絞って、一人でお酒を飲みながら聴くことが増えてくると、もちろん元気なモンクのアルバムも良いのだが、落ち着いたモンクもジワリと染みてきて良い気分になれる。

このような時に聴くモンクの筆頭アルバムが、ソロだと『セロニアス・ヒムセルフ』、トリオだと『プレイズ・デューク・エリントン』なのだ。

控えめピアノ

このアルバムでのモンクのピアノは大人しい。
控えめにすら感じる。

いや、控えめというよりは慎重なのだろう。

敬愛するデューク・エリントンの作品を、丁寧に解体し、各成分やパーツを慎重に並べ替えている作業に立ち会っているかのような気分になる。

決して手荒な解体&再構築作業にはならず、原曲の持ち味を損なわぬよう、しかし自分なりの色もブレンドすることも忘れてはいない。
モンクは思考をフル回転させながらピアノに向かっていたに違いない。

破たんのない演奏ゆえ、最初は面白味が感じられなかったが、何度も聴いているうちに、全体のバランスが見事に整っており、演奏のはるか先までを見通した上でのピアノの鍵盤を押していることが分かってくると、さらに病みつきになってくる。

落ち着いた気分で聴けば聴くほど、このアルバムが含有するコクと栄養素をたっぷりと味わうことが出来るのだ。

ソロで奏でられる《ソリチュード》なんて、真昼間に聴いても感動を味わえないんじゃないかな?

オスカー・ペティフォード

しばらくはモンクのピアノを追いかける時期が続き、やがて他の楽器にも耳を拡げる余裕が出てくると、今度はベースの音に耳がいくようになる。

太く暖かいのベースの音色を奏で、大股歩きで力強くモンクを支えるのはオスカー・ペティフォード。
この尋常ではないほど頼もしい安定感も夜に落ち着いて腰を据えて観賞するにふさわしい。
こういう貫禄あるベースを弾くベーシストって現代ではほとんどいなくなっちゃってますね。

寡黙に4ビートを刻んでいる彼の低音を追いかけるだけでも十分に楽しめるのだが、《キャラヴァン》のベースソロなんかは、なかなか面白い。

2種類のジャケット

このアルバムには2種類のジャケットがあり、最初にこのアルバムに出会ったときのジャケットはアンリ・ルソーの「ライオンの食事」のジャケットだったため、私の頭の中での『プレイズ・デューク・エリントン』といえば、「ジャングルジャケット」が定着してしまっているのだが、モンクの写真でデザインされたものもある。


プレイズ・デューク・エリントン

国内盤のレコードに使用されていたバージョンだが、こちらのジャケットデザインもなかなか良いのだが、このアルバムならではのモンクのピアノの佇まいとイラストバージョンのビジュアルがピッタリとくっついてしまっているので、私にとっての『プレイズ・エリントン』は、どうしても「黄色いイラストジャケット」のほうだ。

こちらのほうが、アルバムが醸し出す「気分」を体現しているように感じるのだ。

それは、マイルスの『ジャック・ジョンソン』のジャケットも同様で、マイルスの写真バージョンのジャケットもカッコ良いのだが、最初に聴いた時がイラストバージョンのジャケットだったため、今でも『ジャック・ジョンソン』といえば、「黄色いオープンカーに限る!」と思っているのと同じだ。

ま、それは好みの問題なんだけれども、皆さんはどちらのジャケットがお好きですか?

記:2016/11/29

album data

PLAYS DUKE ELLINGTON (Riverside)
- Thelonious Monk

1.It Don't Mean a Thing (If It Ain't Got That Swing)
2.Sophisticated Lady
3.I Got It Bad and That Ain't Good
4.Black and Tan Fantasy
5.Mood Indigo
6.I Let a Song Go Out of My Heart
7.Solitude
8.Caravan

Thelonious Monk (p)
Oscar Pettiford (b)
Kenny Clarke (ds)

1955/07/21&28

関連記事

>>疲れたときのソロピアノ
>>セロニアス・ヒムセルフ/セロニアス・モンク

 - ジャズ