淡々と弾くだけで聴かせてしまうパウエルの恐るべき淡々ピアノ

   

最後まで聴かせてしまう力量

以前、四谷の「いーぐる」で行ったパウエル特集では、『ムーズ』の中の《イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド》も選曲の候補に挙げていたのだが、曲の流れと、解説のバランスにより割愛した。

この、恐るべき淡々とした演奏。

これほどの淡々さ加減で最後まで聴かせてしまう力量を持つピアニストはパウエル以外考えられない。

ムーズMoods

普通のピアニストだったら、もう少しリスナーにサービスがてらのお色気の混じったフレーズをほんの少しでも混ぜるのだろうけれども、パウエルは一切そのような「砂糖」をまぶしていない。

そこがパウエルというピアニストの表現に対する厳しさなのかもしれないし、あるいは、独り言のように淡々とこの曲を呟くことが目的だったのかもしれない。

破滅への道程

この『ムーズ』というアルバムは、ピアニストとしての力量のみで見るのなら、絶頂期の峠を越し、衰退へと向かうのパウエルを捉えたアルバムだ。

しかし不思議なことに、恐るべきテクニックでリスナーの耳をわしづかみをする強引さが消えうせたかわりに、“ただ弾くだけ”で、聴かせてしまうという不思議な磁力を発し始めている。

いい例が、先述した《イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド》だが、《タイム・ワズ》も同様。

また、いーぐる特集でかけた《ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド》もミスタッチが目立つものの、この淡々具合、そして、実際にはパウエルは音を弾かないのだが、1秒先の音の展開までもが読めてしまうほどの音の説得力はただものではない。

この曲は、「いーぐる」特集において、絶頂期に吹き込まれたブルーノートの『ジ・アメイジング・バド・パウエル』の同曲と比較の意味でかけたのだが、鮮やかかつ華麗な絶頂期の演奏はそれはそれで優雅で流麗だが、この寡黙な演奏も捨てがたい味わいがある。

全体的にダークな雰囲気が底流に流れる『タイム・ワズ』は、バド・パウエルというピアニストの生涯を追いかけたいファンにとっては避けては通れない、重要な破滅への道程がくっきりと刻まれたアルバムなのだ。

重たくほの暗い光彩を放つ《スプリング・イズ・ヒア》にヤラれてください。

記:2007/07/17

album data

MOODS (Verve)
- Bud Powell

1.Moonlight In Vermont
2.Spring Is Here
3.Buttercup
4.Fantasy In Blue
5.It Never Entered My Mind
6.A Foggy Day
7.Time Was
8.My Funny Valentine
9.I Get A Kick Out Of You
10.You Go To My Head
11.The Best

#1,2,3,4
Bud Powell (p)
George Duvivier (b)
Art Taylor (ds)
1954/06/02

#5,6,7,8
Bud Powell (p)
Percy Heath (b)
Art Taylor (ds)
1954/06/08

#5,6,7,8
Bud Powell (p)
Percy Heath (b)
Lloyd Trotman (ds)
1955/01/12

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