坂本龍一・個人的ベスト10曲

   

マイ・ベスト教授ナンバー

小学生の時にYMOに夢中になって以来、特に坂本龍一(以下、教授)が作り出す音楽には一貫して魅せられ続けていました。

今回は、個人的なベスト曲10曲をご紹介したいと思います。

あくまで私自身のフェイヴァリットな曲なので、世間的かつ一般的な評価とは乖離があるかもしれませんが、ご容赦を。

10位 メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス

ベタで耳タコなナンバーではあるのですが、やはり一度聞き始めると最後まで聴き通してしまいます。

大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』を感動的に盛り上げたこの曲は、いたるところにアジア的でエスニックな旋律が出てくる魅力的なナンバーです。

アジア的な響きは、教授が芸大時代に小泉先生の授業に出ていたことが大きいのではないかと思います。

小泉先生は、アジアの各地に出向き、現地で様々な民族音楽を採集し、日本に紹介した高名な学者です。

ずいぶん昔に、教授は「エスノアハイテック」なる言葉を提唱していましたが、教授のエスニック好きは、おそらく小泉先生から色濃く影響を受けているのではないかと思われます。


民族音楽研究ノート

このナンバーは、教授が若かりし日、つまり映画『戦場のメリークリスマス』(監督:大島渚)のサントラ盤も良いのですが、


戦場のメリークリスマス

その後に録音された『Coda』に収録されているピアノ一台で弾かれたバージョンが好きです。


Coda

当時は、このアルバムの中のピアノナンバーを譜面化した『Avec Piano』と言うスコアが発売されていたので、この譜面でよく学校の音楽室でピアノを弾いていたものです。


アヴェクピアノ/戦場のメリークリスマス 坂本龍一

この曲の何がいいかって、響きが良いんですね。ツボ。

必要最小限の音でものすごく効果的な響きを生み出している。

ピアノが弾ける人は、これをゆっくりかみしめながら弾くだけで、抑えた鍵盤から放たれる豊かな響きに弾きながら酔うことができます。

追記

シンプルながら深みのある響き。
このハーモニーを研究するために、大昔に打ち込みで録音をしてみたんですが、なんだかチープなゲーム音楽みたいになっちゃった。


参考:打ち込み戦メリ(メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス/坂本龍一)

名曲を汚しちゃってゴメンなさい……。

最近も、教授がグランドピアノ一台で弾いている動画をYouTubeで観ましたが、よりいっそう深みが増していますね。

9位 フォト・ムジーク

和声とコード進行が似ている名曲《美貌の青空》とどちらにしようかと迷いに迷ったのですが、結局、この曲の原型ともいえる、少々粗削りながらも若かりし日の教授のメランコリックさが表出している《フォトムジーク》という曲をおすすめしたいと思います。

参考記事:フォト・ムジーク/坂本龍一

これは、NHK-FM「サウンドストリート」の最初の番組タイトル曲として使用されていましたね。
個人的には、次に使用されたタイトル曲、《両眼微笑》より好きだったなぁ。

たしかに《両眼微笑》のほうが、アカ抜けて洗練されてはいるんですが、もう少しベタで蒼さのある《フォトムジーク》のほうが「いよいよ坂本龍一の番組が始まるぞ!」という期待感が膨らみました。

今でも、お風呂に入ったときなど、口笛でサビの部分のホワイトノイズの真似をして遊んでいますよ。

いやぁ、いい曲。
いい音。
電気的切ないミュージック!

当時は、シングル『コンピューターおばあちゃん』のレコードB面に収録されていたのですが、レコードプレイヤー持ってないよ!という人も今の時代は多いはず。

CDで《フォト・ムジーク》を聴きたい場合は、『テクノ歌謡』というCDを買って聴くしかありませんね。


テクノ歌謡東芝EMI編 デジタラブ

8位 レキシントン・クイーン

『B-2 unit』の頃の最も尖っていた教授のマインドがそのまま音になっちゃっているりょうな感じがします。

やっぱりこの時期の教授が一番好きだなぁ。

カラーレコード(シングル盤)『ウォーヘッド』のB面なんですが、個人的には《ウォー・ヘッド》よりも好きだなぁ。

後半のわざと音程を外したようなシンセソロには鳥肌もの。
このメロディラインが、ほんのりと《ライオット・イン・ラゴス》的で、これまた良いのです。

ちなみに、『B-2 unit』に収録されている《ライオット・イン・ラゴス》も、名曲で今回のベスト10に入れようかどうしようかものすごく迷いました。

参考:レキシントン・クイーン/坂本龍一

7位 音楽の計画

YMOの最高傑作『BGM』(と個人的に思っている)に収録されている非常にエッジのたった攻撃的なナンバー。
攻撃的でありながらも、コードの響きとコードチェンジが美しいのです。

いや、Aメロやサビのコードの流れやハーモニーが狂おしいほどに美しい。

美しく攻撃的でカッコ良すぎ!

1981年の「ウインター・ライヴ」での演奏は、細野さんのベースがグルーヴ氏まくっていてめちゃくちゃ格好よし。

関連記事:ウィンターライヴ'81/YMO

姉妹曲とも言える《フロント・ライン》と併せて聞きたい、坂本龍一「音楽」三部作のうちの1曲。

《フロント・ライン》と《音楽の計画》は、両方の歌詞を併せて鑑賞したいですね。

関連記事:坂本龍一の《フロント・ライン》が大好きなんです。

追記

そういえば、この曲と、アニメ『けいおん』のドラマー・りっちゃんを主にフィーチャーしたアニメの動画をミックスさせたYou Tubeの映像も面白いですね。その編集っぷり、恐るべし!(まったく関係ないけど)

6位 キャスタリア

YMOブームの火付け役となったアルバムが『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』。

関連記事:ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー/イエロー・マジック・オーケストラ

これに収録されている《テクノポリス》と《ライディーン》が目玉曲でしたが、むしろ私は《キャスタリア》と《ビハインド・ザ・マスク》に魅了されていましたね。

両ナンバーとも教授の曲。

特に、静かに重く沈んでゆく《キャスタリア》のダークで美しい響きは、これ完全にクラシックだよな~、なんて思いながら聴いていたものです。

この曲が好きだというと、周囲からは「暗いな~」と言われたものですが、そして、その3年後くらいにはじまった『笑っていいとも!』でタモリ氏が「ネクラ」という言葉を流行らせたため、《キャスタリア》を好む私は「ネクラ」とも言われていましたが、そんなの関係ないのだ。

良い曲は良いのである。
暗いが、とてもとても美しいのである。

そういえば、昔、ラジオ番組の『不思議の国の龍一』で、当時奥さんだった矢野顕子さんがゲスト出演された際、あっこちゃんが弾いたバージョンの《キャスタリア》も良かったなぁ。

追記

最近の教授もソロピアノで同曲を弾いていますが、これまた深い。沈み込む。素晴らしい。多分、YouTubeで動画が観れるはず。

さらに追記

YouTubeでもキャスタリアの魅力を語ったものをアップしています。

5位 ジ・エンド・オブ・エイジア

もちろん、『千のナイフ』のオリジナルバージョンも良いのです。
好きなのです、最高なのです。

でも、やっぱり、この曲をはじめて「ええなぁ~」と思ったのは、YMOの『パブリック・プレッシャー』のバージョンなのです。

前曲《東風(トンプー)》の熱狂の拍手の嵐を、いったんクールダウンするかのように始まる幸宏氏の8ビートのドラムが始まった瞬間から、いつも期待ワクワク感がふくらむのです。

本来のライブでは、渡辺香津美がギターを弾いているのですが、上記アルバムでは、契約の関係で、彼のギターはカットされています。
その代わり、教授がギターが、渡辺香津美がギターソロを奏でているパートを、スタジオでシンセサイザーを重ねているんですね。
(ちなみに、渡辺香津美のギターが入っているヴァージョンは、『フェイカー・ホリック』というライヴ盤で聴くことができます。)

この『パブリック・プレッシャー』バージョンの《ジ・エンド・オブ・エイジア》は、テンポも心地よいし、シンセの音色も、キーボードのエコーのかかり方も最高。

しかし、何よりも、渡辺香津美のギターパートから差し替えられた教授のシンセのソロが超最高なのです。

当時、エレクトーン奏者用のYMOのスコアが出ていたのですが、なんとそのスコアブックには、このバージョンの教授が弾いたアドリブまで全て譜面で掲載されていたのですね。

私もそれを買って夢中になってお年玉をためて買ったヤマハのポータサウンドで弾いていたものです。

もちろん、教授が弾いた通りにうまく弾けなかったのですが、ポータサウンドの「クラリネット」の音色を選択してサスティンをかけて、音源に合わせて、教授になったつもりで「気分にひたって」弾いていたものです。

4位 ア・ウォンガ・ダンス・ソング

前衛ダンスパフォーマーのモリサ・フェンレイから依頼されて作られた「架空の民族音楽」、そして、一筋縄ではいかないダンスミュージックのアルバム『エスペラント』。

最初に聴いた時の衝撃は忘れられませんが、いま聴いてもなお衝撃的。
この衝撃は、『B-2 unit』の《ディファレンシア》を初めて聴いたときにも匹敵しましたね。

他の曲すべてが良いのですが、やはり『エスペラント』というアルバムに通底する「独特な気分」を象徴するのが冒頭の《ア・ウォンガ・ダンス・ソング》でしょう。

YAS-KAZのパーカッションもアート・リンゼイのノイズギターも最高!
カッコ良すぎです。

とにかく聴いてくれ~!

3位 ディファレンシア

2枚目のソロアルバム『B-2 unit』に収録されている、このアルバムを代表するナンバーです。

参考記事:B-2 unit/坂本龍一

畳み掛けるようなドラムは教授自身が叩いています。

グルーヴしないタイトで独特なノリ。非常に攻撃的でありながらも、どこか漂う青臭さと「ここじゃないんだ、これじゃないんだ」感は、20代後半の教授ならではの感性の賜物でしょう。

この曲が大好きで大好きで、学生の時はバンド名に「ディファレンシア」という名前をつけたほど。音楽は全然違っていたけど。

参考記事:シーサイド・メモリー/ディファレンシア

2位 ONGAKU

《君に胸キュン》が収録されているYMOの『浮気なぼくら』に収録されているナンバーです。

当時幼かった、当時の奥さん矢野顕子の間に生まれた坂本美雨さんのために作った明るく楽しいナンバー。

しかし、単に子ども向けの絵本のような「楽しい・明るい」だけの単純な曲ではありません(歌詞は単純だけど・笑)。

とにかく、ハーモニーがですね、本当に本当に涙が出るほど、美しく、懐かしいのです。

歌の部分ではなく、イントロや間奏の部分のハーモニーが、ね。
もう、明るく、切なく、陰影に富んでいて、もう胸しめつけられっぱなし。
これが本当の「胸キュン」っすよ。

正直、歌がなくても聴けてしまう。

なので、個人的には、『浮気なぼくら』の歌なしアルバム『インストゥルメンタル』に収録されたナンバーの方が好きですね。

オーバーダブされたピアノの音が美しいのです。
♪ポロポロポロリ~ン!と転がるように可愛いピアノね。

そういえば、ヨーロッパ(たしかベルギーだったっけかな、忘れた)のバンドが、『浮気なぼくら』が発売された当時、この《音楽》のカバーを発表しており、当時NHK-FMの「サウンドストリート」でパーソナリティをしていた教授が、それを聴いて、「へったくそ」みたいにコキおろしてましたね。
「分数コードがわかってない」みたいなことを言っていたことを覚えています。

1位 東風(Tong Poo)

やっぱりやっぱり、これが最高、外せませんです。

YMOのバージョンも良いし、ライブのバージョンも良いし、矢野顕子との連弾バージョンも良いし(そういえば、アッコちゃんも歌詞をつけてアルバム『ごはんができたよ』で歌ってましたね)、もうとにかく全部良い!

雅楽奏者も演奏していてメチャクチャ様になっていたし、ピアノとチェロとヴァイオリンのトリオでは、いきなりクラシックになっちゃうし、とにかくどんなリズム、ジャンルにも適合してしまうモノ凄い曲なのです。

調味料で言えば、日本が生んだ醤油、あるいはポン酢のようなものかな(違うか)。

もう《トンプー》であれば、どのバージョンも大好きなのですが、強いて、強いて、超強いて、なんだかんだで一番よく聴いているバージョンを挙げるとすれば、「散解」ライブのバージョンかな。

この異常なまでの安定感は、心地よい安心感をもたらしてくれます。

ま、そりゃそうですよね。

この破綻のない「安定感」の大きな理由は、事前にスタジオで録音されたトラックをテープで流しているからだと思います。それに合わせてメンバーは「伴奏」をライヴで演奏するという形式だったのですよ、「散開」ライブは。

しかし、その手法はどうであれ、この安定感がもたらす安心感は滅茶苦茶心地よい上に、静かなる知的興奮をも呼び起こす。

音色に関しては平凡といえば平凡なんですが、だからこそ死ぬほど繰り返し聴いても死なないのかもしれません。

もちろん『アフター・サービス』の「音」だけでを聴いても良いのですが、『プロパガンダ』の映像を見ながら鑑賞したほうが快楽倍増、ホントだよ。


PROPAGANDA [DVD]

じわじわと少しずつ高揚してくる抑えられない気持ちといったら。

ちなみに、中間部のソロは、武道館でのライヴのバージョンのほうが好みですね。

きっとまた変わります

……というわけで、少々興奮気味に、一気に私が好きな教授(坂本龍一)の曲を書いてみました。

しかし、これはあくまで「今日」の気分です。
あまりに好きな曲が多いので、また日付が変わればガラッと変わる可能性大です。

その時はまた、新たにベスト10の記事を書こうかと思っています。
最後まで、私の趣味にお付き合くださり、本当にありがとうございました。

記:1999年3月

追記

《フロント・ライン》、《音楽の計画》、《Ongaku》の魅力に関しては、YouTubeでも語っています。

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