スコーピオ・ライジング/ウォルター・デイヴィスJr.

   


Scorpio Rising

もっと練れば、もっと素晴らしいアルバムになっていたはず

ウォルター・デイヴィスJr.がスティープル・チェイスに遺した最晩年のピアノトリオ作品だ。

ブルーノートに残した唯一のリーダー作『デイヴィス・カップ』から、ちょうど30年後、そして1990年6月2日に57歳で亡くなるちょうど1年前に録音している。

『デイヴィス・カップ』だけを聴くと、ウォルター・デイヴィスの持ち味は「ファンキージャズの旗手」として認識しがちだが、それはあくまで彼の一面であって、彼の根っこにあるのは、バド・パウエルのピアノ、そう強靭なビバップがルーツにある。

それは、このアルバムを吹き込む8年ほど前のライヴ盤、『ライブ・オ・ドレーアー』を聴けば、チャーリー・パーカーの《コンファメーション》、バド・パウエルの《シリア》や《ジョンズ・アビー》、そしてセロニアス・モンクの《ラウンド・ミッドナイト》、《52丁目のテーマ》、《モンクス・ムード》を演っていることからも、彼のルーツには力強くバップの血が流れていることがよくわかる。

しかし、彼はバップが土台にあるピアニストでありながらも、優れた作曲家でもある。
少し分かりづらいところもあるが、彼が書く楽曲は、表面的なキャッチーさを保ちつつも、なかなかユニークなコード進行とハーモニーの動きが感じられるのだ。

このアルバムにも、そして30年前に録音された『デイヴィス・カップ』に収録された彼のオリジナルにも同様なものが認められるため、おそらくこれはウォルター・デイヴィスの手癖、というよりも感性癖のようなものなのだろう。

ラルフ・ピーターソンのエネルギッシュなドラミングに煽られ、バップ魂が燃えあがり、しかしところどころにリズムへの乗り遅れやミスタッチが若干散見されるにもかかわらず、彼の内なる表現欲求のほとばしりは凄まじく、この欲求に肉体が追いついていかないような心身不一致なもどかしさすらも、ジャズ的快感に変容させてしまうところは、さすが一流の表現者といえるだろう。

よって、ウォルターが弾き出すアドリブを耳で追いかけてゆくと、ところどころにハッとするフレーズが出てくる。しかし、散発的に出てきたアイデアをすぐさまピアノのフレーズに変換して出力されるがために、これらのアイデアが有機的に繋がり、ひとつの大きな流れを形成するまでにはいたっていない。

言い方悪いが、「弾き急いでいる」感は否めない。

しかし、だからといって、それをもってしてこのアルバムのウォルターのピアノの価値が下がるものでもない。

なぜならジャズとは往々にしてそのようなものだからだ。

むしろ、マイルスやショーターのように全体を俯瞰したフレーズの流れ、構成美を形作ることが出来るジャズマンはきわめて少数派であり、むしろジャッキー・マクリーンのように、ある種刹那的にその場の閃きを一瞬のフレーズの輝きに置換し、その様に立ち会うこと事態が「ジャズ」であることのほうが多いからだ。

個人的にはタイトルナンバーの《スコーピオ・ライジング》がベストに感じる。

うなり声をあげて、ウォルター・デイヴィスはノリに乗っている。彼のペンによるこのナンバー、曲の作りもなかなかだし、ラルフ・ピーターソンの煽りもエキサイティング。

ところが、この勢いあふれる演奏は、アルバムラストに収録されているのだ。勿体無い。冒頭に配置すればもって良かったのに。

あとは、イントロに意表をつかれる《ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングス》は、テーマの箇所が、少々ピアノ、ベースとドラムの一体感がいまひとつに感じるし、《スカイラーク》のちょっと稚拙なフレージングが、かえってこちらの耳を魅了してやまないのだが、細切れに繰り出されるフレーズが少々脈絡がない感じもして、全体的な統一感はいまひとつに感じる。

ブルーノートのように、みっちりとリハーサルをした上でレコーディングにのぞめば、もっと充実した内容になっていただろうにと考えると、ものすごく惜しい作品だ。

記:2019/08/28

album data

SCORPIO RISING (Steeple Chase)
- Walter Davis Jr.

1.Backgammon
2.Why Did I Chose You?
3.Just One Of Those Things
4.Pranayama
5.Two Different Worlds
6.400 Years Ago Tomorrow
7.Skylark
8.Scorpio Rising

Walter Davis Jr. (piano)
Santi Debriano (bass)
Ralph Peterson (drums)

1989/06/27

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